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第117話 キャンセルのボタンは手元には無かった

輝き始めたアリさんの体…!

その時レインの取った行動は…!

第117話、よろしくお願いいたします。

 アリさんの体から溢れだしたまばゆい光は収束し、訓練場内は元の静けさを取り戻した。


 俺も突然の輝きに目が眩んだが、徐々に視界も正常なものに戻り始める。

 …某三つ目さんの太○拳ではないが、たとえファンキー亀爺さんのサングラスをもってしても、さっきの眩しさには多分耐えられなかった気がする。

 それ程に強烈な光だった。


 だが今になって思えば、そんな凄まじい輝きすらも、これから俺を待ち受けていた出来事に比べれば些末なものだった…。

 そう…真に驚くべきは、まさにここからだったのだ。


「…レ…イン、フォード…様…」


 前方から、一人の女性の声が響く。

 その声は美しくも儚げで、これまで何らかの理由で声を失っていた、もしくは話すことができなかった人物が、初めての経験に躊躇いながらも、一生懸命に声を発しようとするような…そんな印象だった。


「…え、えっと…もしかして…さっきのアリさん…ですか?…ってぇ、わわわ!?服を着てない!!?な、何で裸なんですかぁ!!?」


 何と、何となんとナント。

 声はさておき、俺の目の前に佇立していたのは、さっきまでの真っ黒な虫型のアリさんではなく、一人の女性だったのだ。

 しかも、夜道でロングコートを羽織いつつご開帳の機会を窺う露出狂も真っ青の、まさに一糸まとわぬ()()()()()()だったのだ。


「おい、どうしたレイン、一体何が…って、うおぉぉぉぉ!?まっ裸!!?」


「しょっ、しょえぇぇぇぇ!?ま、まま丸見え!?レッ、レインフォード、そ、その破廉恥な婦女子は一体…!!?ぶふっ!はっ、鼻血…。私の鼻から鼻血がぁ…!」


「「……!!」」


 目の前の全裸女性を目の当たりにし、顔を真っ赤にしながら奇声を上げるエドガーとクリントン。

 そしてまったくその展開についていけず、口元を両手で押さえて絶句するモニカとレベッカ。


 おい、クリントン!

 なんで俺の方に寄ってくんだよ!?

 あっ!?バカバカバカ!

 俺の服にお前の鼻血が着いただろーっが!!


「こっ、こらレイン!エドガーにクリントンも!!男子たるもの、嫁入り前の若い女子の裸を覗き見るなど、恥を知れ!!」


 ドスッ!

 ズブッ!!

 ブシュッ!!!


「「「うぎゃああ!!?めっ…目が…!目がああああ……!!」」」


 だが次の瞬間、なぜかクロウがじゃんけんチョキとばかりに、無駄に鋭い目つぶし三連発を繰り出したかと思うと、そのままエドガーとクリントン、そして俺の目を(主に物理的に)塞いだのだ。


 天空の城でお星様となった某有名大佐みたく、情けない叫び声を上げ、目頭を押さえながら地面を転げ回る俺たち…。

 

 何この仕打ち…!

 そもそも最初から裸だったし!?

 別に覗き見たわけじゃあないんだけど…!?


「ほらっ君も君だ、名も知らぬレディ!!突然そんなあられもない姿をさらしては、年頃の男子たちには刺激が強すぎるだろう!?とりあえずこれを着ておきなさい!!」


 クロウは目の前の全裸女性にそう告げると、制服のローブの上に羽織っていた上着を投げ渡した。

 

 …いや、というか、お前も男だろう…?

 うっ…目が…。


「ひ…ひぇ~、あれは痛そう…。でも、クロウさんって、思っていたよりもかなりアクティブな方なのね、レベッカ…」


「そ、そうですねモニカ。だ…男子たちがまるで芋虫のようになり果てています…」


 目をパチクリさせながら、ひそひそと話すモニカたち。

 だがそんな彼女たちの姿を特に気にする風でもなく、その全裸の女性は静かに、そして無駄に優雅にローブをまとった。


「この布は…服…?…そう…服、というものですね?そうですか。いえ、そうですね、わかりますとも。皆さん肉体の上にこれを着用されていますものね。うふふ、私としたことが、これは失礼いたしました」


 クロウの上着により、全裸から半裸になった女性は、その感触を確かめるように、興味深そうにクロウの上着に何度も触れている。

 激痛とともに失われていた俺の視界も(再び)元に戻り始めたところで俺は立ち上がり、再び半裸女性と相対した。


「お~痛ぇ…。すみません、ちょっとトラブルが…。えっと、ではあらためて。間違っていたら申し訳ありませんが、あなたは先程のアリさんと同一人物…いや、同一アリさん?ということでよろしいでしょうか?」


 俺はまだヒリヒリする目をこすりながら、目の前の半裸女性に問いかけた。


 あらためてその姿を見る。

 身長は170センチぐらいで、黒光りする艶やかな髪は、腰の辺りまで優雅に伸びたサラサラのロングヘアー。

 その顔はとても美しく、印象的な切長の目とともに、頭部から長い触覚のようなものが2本、緩やかな弧を描くように伸びていた。

 また、今はクロウの上着で目立たないが、大きな羽のようなものも見えていたし、何より目立つのはその薄い水色のような素肌の色だ。


 明らかに俺たち人族とは違う雰囲気を醸し出しているが、不思議と怖いとか気持ち悪いとかそんな印象は全くなく、むしろ美しくさえ感じるのだが…。


「コホン。ええ、おっしゃるとおりです、レインフォード様。私はアリ、さっきまであなた様の目の前に立っていた、一匹のアリでございます」


「は…はぁ。左様ですか…」


 いや、アリでございます、とか言われても…ちょっとアリえなくない?

 これは何ていうか、ポケ〇ンでいう“進化”みたいなもんなのか?

 俺ったらちょっとびっくりしすぎて、この状況に頭が追っつかないんだが…?

 …Bボタン…Bボタン…は、無いよな〜…。


「ほっほ~、長く生きてきた我も珍しいものを目にしたのう。それはおそらく女王が誕生する瞬間の変異、“クイーンズ・バースト”というやつじゃな。まあ既に女王アリを擁する奴らからすれば、次代の女王なのじゃろうが」


 その時、ふと俺の後方から声が聞こえてきた。

 この人を食ったような声のトーンと、ニヤニヤした訳知り顔で話す声の主は…。


「お、おお、シルヴィア…、君まだいたんですね。とっくに帰ったのかと。…というか、何です?その、えっと、クイーンバストでしたっけ?めちゃくちゃでかい胸…?…むむぅ~、まあシルヴィアに比べると些かボリューミィな感じではありますが、そこまで無茶な大きさではないような気が…」


 そういえばこの駄竜(シルヴィア)は壁をぶち抜いて俺を踏んづけた後、退屈そうに壁際でずっと爆睡してたっけ…。

 ここにいる誰もがお前の存在を忘れていたよ…。

 気配遮断スキルを持つ竜とは…。


「たわけ!我は“クイーンズ・バースト”と言うたのじゃ!お主は知らぬじゃろうが、これは地下に住まうアリの一族において、次代の女王アリに選定された者が起こすといわれる、俗にいう突然変異のようなものよ。まあ、我も見たのは初めてじゃがな」


 胸に手を当て、「我そんなに小さいかな…?けどあと2000年も経れば…」などとブツブツ言いながら、アリさんの身に起きた現象を解説するシルヴィア。


「へぇ…。すると女性の姿をしたこのアリさんは、次の女王アリになる予定のアリさん…ってことかぁ」


 俺は目の前の女性へと再び視線を戻した。

 女性は俺と目が合うと、スッと姿勢を正し、にっこりと笑って軽く会釈をする。


「レインフォード様。そちらのシルヴィアさんのおっしゃるとおりでございます。私はあなた様のおかげで次世代の女王となるべく、この肉体を進化させることができました。きっと我々一族は、さらなる発展と栄光を手にすることでしょう」


 最初とは打って変わって、半裸の女性はすっかり流暢に言葉を話すようになった。

 透きとおるような美しい声がとても印象的で、歌でも歌えば、さぞや素晴らしい歌手になることだろう。


「…?は、はぁ。何かようわかりませんが、種族が繫栄するのは喜ばしいことですね。別に僕のお陰というわけでは全然ないと思いますが…」


「いえ、それは違いますレインフォード様。あなた様は、たかだか一匹の働きアリであったこの私を、死すら焼き尽くすような、あの豪火から救ってくださったではありませんか」


 ビクッと肩を震わせたのはモニカとレベッカだ。

 まあ勘違いとはいえ、アリさんを燃やそうとしたのは事実だしな…。


「いや、それはまあ…そもそも僕が創った魔石が原因だったというか、怪我でもされたら女王アリさんにも申し訳が立たないというか…」


 俺は苦笑いを浮かべながら、ポリポリと頭の後ろをかく。


「きっかけなど、それこそ些末なこと。私はあなた様の温かく力強い抱擁…、そして強大な魔力の一端に触れたことにより、死の炎に勝るとも劣らない、自身の内側から湧き上がるこの熱い想いに気づくことができたのです」


 半裸女性は、自分の胸に両手を当ててその大きな瞳を潤ませながら、真っ直ぐに俺を見ていた。

 さらに続ける。


「…そしてご覧のとおり、私はこの姿となりました。今はとても晴れやかな気分です。頭の中にずっとかかっていた靄が晴れたような…、地下世界しか知らない私が、まるで澄み切った青空の下でピクニックをするような…そんな不思議は気持ちに満ち満ちています」


 半裸女性は、屈託のない笑顔と身振り手振りで、心の内を精一杯表現しているらしい。

 半裸の女性が涙目で小躍りする状況は、側から見ると若干シュールな絵面ではあるものの、その感情表現の豊かさといったら、さっきまでギギギ語しか話せなかったアリさんからは想像もできないほどだ。


「な…成程…、よくわかりました。しかしあなたのそのお姿、かなり現女王アリさんとかけ離れたもののように感じますが…。いずれさらなる進化を経て、彼女のような立派なお姿に?」


「いいえ、レインフォード様。我々地下に住まう一族が代々継承してきた次世代女王顕現(クイーンズ・バースト)…。これはその世代の女王に選ばれた者が、最も種族を強化・繁栄させることができるよう肉体を再構築するもの。現女王様は長く続いた戦乱の中、幾度もの変態を経て最終的にあの姿になる道を選ばれました。…ですが、次代の私は…私は…」


 ん…?

 何か突然もじもじし始めたが、どしたんだ?

 顔も赤いし。

 薄着で風邪でも引いたんか?


「わ…私は、人型のそれが最も伴侶となる殿方の興味を惹きやすい…という結論に至ったのです。コホン…有り体に言えば、強力な魔力を持った雄と交配し、存分にその精を頂けると…」


 ふぁ!?

 交配…!!?後輩の間違いじゃなく…!?

 それに…精って…あんた、そりゃ…。


 女性は人差し指を口元に当て、なおも艶めかしくこちらを見ている。

 これは、嫌な予感が…。


「いや…あの…。そっ!それはどういう…!?」


「…女の私に言わせるなんて…レインフォード様ったら意地悪ですね…。それともそういった趣味趣向なのでしょうか…?うふふ…。いずれにしても、私はすぐにでも始められます。しかしながら、なにぶん全てが初めての私ですので…。どうか優しくしていただけると幸いです…」


 ふぁさ…。


 女性は顔を赤くしながら、やにわにクロウから与えられたローブを着崩した。

 途端に、その小さな肩や二の腕が露出しはじめる。


「ちょっ!?何でまた服を脱いどるんですか!?お、おおお、おかしいでしょ!!もっ、ものには順序ってもんが…!」


 俺は慌てふためき、女性の服を元に戻そうとして側へ駆け寄ったのだが…。


「じっ、自重しろレイン!!こんな場所で、ふふふ、不健康だぞ!!?」


 ドズブゥッ!

 グリィ!!


「うぎゃああ!!?またもや目が、目がああああ……!!」


 その時、何故かまたもや風紀委員的立ち位置をとるクロウの目つぶし&そのまま指をグイッとするという荒技が炸裂し、俺はお決まりの台詞を叫びながら、もう一度地面を転げ回ることになった。

 エドガーやクリントンも、自分の目を押さえながらドン引きだ…。


「あら残念…、というのは冗談です、レインフォード様、うふふ。今の私は次代の女王としてスタートラインに立ったに過ぎない身。真なる女王となるためには、これから多くの得や修行を積み重ねてゆく必要がございます。先程あなた様から頂きました“地下道の整備”というご用命も、しっかりとこなしませんとね?」


 じょ…冗談だったのか…ホッ…。

 いや待てよ、俺がホッとするのも何かおかしくない?

 俺その冗談のせいで、もう一回目つぶし食らってんだからね?


「では私はこれにてお暇させていただきます。早急にこの魔法学校と王都とを結ぶ地下道の整備を行ってまいります。湧き上がってくるこの新しき力に慣れる必要もございますし…」


 にっこりと笑いながら、半裸女性はシルヴィアがぶち抜いた壁際までゆっくりと歩いていくと、そこに積み上がったままの瓦礫に優しく手を添えた。


 ――次の瞬間、俺は痛みも忘れて目を見開いた。

 そこにいた誰もが戦慄した。

 もちろん、その正体が古竜(エンシェントドラゴン)たるシルヴィアでさえも。


 突如、総毛立つような強大かつ濃密な土属性の魔力を感じたかと思うと、崩れ落ちた瓦礫を逆再生したかのように…いや、まるで夢でも見ているのではないかと錯覚するほど滑らかに、破壊された壁が再構築されていくではないか。


 …しかも、ただ壁が修復されただけでなく、例えるならまるでギリシャのパルテノン神殿の如く、それはそれは精密かつ緻密な細工と意匠が施された扉に様変わりしていたのだ。


「す…すごい…」


「では、行ってまいります。…未来の、だ・ん・な・さ・ま」


 バタン…!


 俺の驚愕に気をよくしたのか、最後にとびっきり魅惑的な笑みを浮かべると、眩しいウィンクとともに、半裸女性は扉の向こうへと姿を消したのだった。


(さ、最後の単語は一体…。…はぁ…)


 いつも応援ありがとうございます!

 よろしければ、下部の

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 ☆が1つでも多く★になれば、作者は嬉しくて、明日も頑張ることができます。

 今後ともよろしくお願いいたします!

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