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第114話 訓練後の反省会って大事だよね

訓練初日が終了。

あまりの実力差にちょっと傷心気味のクリントンたちだが…。

第114話、よろしくお願いいたします。

「…うむぅ…むむ……?」


「お?おはようさん。お目覚めだね、クリントン」


 俺は、地面に寝かせていたクリントンを上から覗き込むように見た。

 訓練中に気絶してしまった彼は、ようやく目を覚ましたらしい。


「レ…レインフォード…?…ハッ!?そ、そうか!私は貴様との訓練中に気を失って…」


 座ったままゆっくりと身体を起こしたクリントンは、訓練場内をあちこち見回すと、小さくため息をついた。

 だが次の瞬間、クリントンの後方から、1人の男の声が響く。

 そう、同じく訓練を終えたエドガーだ。


「よっ、クリントン!ようやく起きたか?お寝坊さんは、サイモン教授に叱られるぜ?」


「…ふっ。という我々も、つい今しがた目を覚ましたばかりなんだがな…」


「おっと、早くもバラしちまうか!?はははっ!実は俺なんてさ、自分の剣すらバラバラになっちまったんだぜ!!」


 後ろから現れたエドガーとクロウは、クリントンの肩にぽんっと手を置くと、そのままその場に座り込んだ。

 その様子を見た俺も、3人と向かい合わせになる形で、同じようにそこへに座る。


「ふふふ、みんなお疲れ様。それでどうだった、今日の訓練は?」


 俺はにこにこしながら全員の顔を見渡した。

 クロウやエドガーの訓練の様子はしっかり見ていなかったが、きっとそれぞれ何かしら得るものがあったはずだ。

 なんせ、相手はあのイザベルとヴィンセントだしね!


「はぁ…。どうもこうも、己の無力さと小ささを思い知らされた訓練だったよ…。あと俺は今日だけで一生分クルクル回った気がするかな…。レインに治療してもらった今でも、まだ背中が痛いような…」


「あははは…はぁ。俺も似たようなもんさ…。わかっちゃいたが、実力の違いは当然として、騎士としての在り方や平素からの心構えに至るまで、格の違いを思い知らされたなぁ…」


 クロウは右手を後ろに回し、ぽんぽんと背中を叩きながら、そしてエドガーは刀身が根元からなくなってしまったレイピアをぽいっと放り投げると、目を閉じて肩をすくめた。


「成程なるほど。クロウとエドは、特に体術と剣術の訓練に特化していたわけだね。で、クリントンはどうだった?」


 一瞬驚いた様子のクリントンだったが、そのまま床に視線を落とすと、小さな声でつぶやいた。


「わ…私か?私は…そうだな…、クロウやエドガー様と同じだ…。日々のトレーニングで多少自信をつけたつもりだったが、そんなちっぽけな自尊心など、貴様の水魔法でいとも簡単に押し流されてしまった気分だな…」


 ふむふむ、成程ね。

 みんな予想以上に成果はあったみたいだけど、ちょ~っと雰囲気が暗くなりすぎ感があるなぁ。

 ま、そんだけぼろんちょにやられたなら、当然っちゃあ当然か。


「はいはい、君たち!そんなこの世の終わりみたいな顔しないで!実戦訓練初日からそんなに落ち込んでどうするのさ!まだまだ先は長いよ?」


 俺は笑顔でパンパン!と両手を鳴らすと、サッと立ち上がった。

 だが、みんな俺の方をチラリと見るばかりで、地面に座り込んだまま立ち上がろうとはしない。


「やれやれこりゃ重症だな…。仕方ない、口止めされてるけど、1ついいことを教えてあげる」


「いいこと…?」


 エドガーは顔を上げると、片眉を上げながら相槌をうった。


「随分と前の話になるんだけど、実はヴィニーやイザベルさんも、君たちと似たような実戦訓練で経験を積んだんだよ?」


「…そ、それは本当か?」


 続いてクロウが興味津々とばかりに食いついてきた。

 クリントンも前のめりでこちらを見ている。


「ああ、そんなつまんない嘘はつかないさ」


「…そ、それで!イザベルさんやヴィンセント卿はどんな感じだったんだ!?やっぱ最初っから、あんな風に強かったのか!?」


「ふっふっふ~、そう思う?でも、答えはこれさ」


 俺は勢いよく立ち上がったエドガーを見ながら、ゆっくりと人差し指を立てた。

 全員の視線が俺の人差し指に集中する。

 警ドロする人この指と〜まれ!じゃあないけどね。


「数字の1?…やはり最初から、ぶっちぎりのナンバー1だったという意味か…?」


「はははっ!んなわけないじゃん!少なくとも1日100回は気絶してたって意味さ」


「「「……っ!」」」


 全員の顔から表情が消える。

 ん?

 なんでのけぞって後退りするんだ?


「本当だよ?もちろん、君たちと同じように、しっかりと無属性魔力の訓練を行った上でね」


「1日…」


「100回…」


「…気ぜ……うっ、頭が…」


 わはは!

 まあそりゃそういう反応になるわな。

 イザベルやヴィンセントも、そんな顔してた時があったなぁ。


「でも彼らはさ、諦めたりへこたれたりする様子なんて、一瞬たりとも見せなかったよ?幾度となく、泥とゲロにまみれながらもね」


「「「……!」」」


「ま、それぞれ自分の立場や色んな思いなんかもあったりしたのかもしれないけどね。それでも“強くなりたい、負けてたまるか”って気持ちだけは、常にビンビン伝わってきてたな」


 俺は、それぞれ3人の目を真っ直ぐに見ながら、かつてのヴィンセントたちの様子を伝える。


「強くなりたいという…」


「気持ち、か…」


「そっ。一見異常な強さに見えるヴィニーたちも、最初はそんなもんだったのさ。それに比べれば、僕たちを相手に奮戦した君たちなんて、大したもんだと思うよ?彼ら自身も、君たちのことをちゃんと評価してたからね」


 しばらく黙っていた3人だったが、そのうちに誰とはなく顔を上げ始める。

 そしてその表情には、再び自信と熱意を帯びた明るい光が差し込んでいた。


「そ…そうか、そうだよな、いや、そうだよ!俺なんかが最初から王国最強と謳われるヴィンセント卿に勝てるわけねえもんな!…才能が無いなら無いで、それ以上に努力しろって話だぜ!!」


「イザベルさんが気絶する姿など、にわかには想像できないが…。ふっ、だが俺にも、まだまだ鍛える余地がある…ということがわかっただけでも収穫か」


「…ボソボソ…。わ…私も落ち込む必要はないのかも…。イザベル女史やヴィンセント卿を()()()()()()()()()()()()()()とやり合っていたのだからな…。ボソボソ…」


「んん?クリントン君、何か言ったかな?かなり失礼な発言が飛び出したような気がするんだけど!?…こりゃあ君の訓練の質を向上させる必要があるかなぁ。主に肉体的な苦痛に特化した方向に…」


 俺は腕を組み、ニヤニヤしながらジロリとクリントンを睨む。

 クリントンは青い顔で両手を前に出すと、首をブンブン横に振り、必死に言い訳をしている。

 元はといえば、全部お前のためなんだけどな!

 プンプン!!


「…とっ、ところでレインフォード、ヴィンセント卿などはどうされたのだ?もう王都へお戻りになったのか?」


「んん?ヴィニーたち?いや、今夕食に行ってるよ。この訓練場は、食堂の地下まで通路をつなげてあるからね。食堂のシナモンさんにも、こっそり食事の提供をお願いしたのさ。あとあっちの扉の向こうにはベッドルームや大浴場も作ってるし、みんなの訓練が仕上がるまで、彼らにはしばらくここで滞在してもらう予定だよ」


 …ちなみに…。

 シナモンダディの娘のココにこのことを話したら、「なっ!(なま)ヴィンセント様にお会いできるんですか!?しかもお料理を振る舞っていいと…!?きゃあー、きゃあー!!」なんつって喜んでたな…。

 生レイン君には何の興味も示さんくせに…。

 くそっ、イケメンめ…、爆発しろ…。


「そんな設備まで…。ま、まるでここはアリの巣のような場所だな。そんなある意味危険な場所の入口が、なぜ私の寮室の机の下なのだ、まったく…」


「ふふふ。いやぁ、ここを身近に感じる方が、訓練にも身が入るってもんだろう?」


 か〜ら〜の〜!

 バレたら言い逃れをするた・め・さ!

 ごめんね!


「むぅ…、何か貴様の笑顔は嘘くさいんだが…。……うむ?…おいレインフォード、アリの巣の話ではないが、あれはさっき貴様が話していたアリさんではないのか?」


 クリントンは、遠くを覗き込むように額に手をやると、身体を少し傾けて俺の背後に目をやった。


「ん?はははっ。僕をかつごうったって、そうはいかないよクリントン。アリさんは今王都までの地下通路の整備をしてくれてるはずだし、しばらくこっちに戻ってきやしないからね」


 俺は目を閉じて頭の後ろで手を組みながら、クリントンの言葉を一蹴した。


「いや…レイン。どうも俺の目にも、先程のアリさんが戻ってきているように見えるぞ?そ、それに何だか早足でこちらに向かってきているような…」


「ん…?あれは何だ…?誰かを抱えてやしないか?」


「え…?んなバカなことあるわけ…」


 エドガーとクロウの言葉に、俺がゆっくり後ろを振りかえると――。


 ドサッ!

 ドサッ!!


『ギギギィ…ギギ!ギギ!』


 俺は自分の目を疑った。

 なぜなら、訓練開始前に立ち去ったはずのアリさんが、魔法学校の生徒と思しき2人を地面に降ろす姿を目の当たりにしたからだ。


「「「……」」」


「ちょ…え…?な…何ですかコレ…」


 セルフ氷結魔法の如く、瞬時に凍りつく俺たち。


(これ、女の子…か?えらく似てるけど双子ちゃん…?ああ、いや、そんなことよりこの子たち、ピ…ピクリとも動かないけど…?)


 こ…これ、これ…、ま、ままま、まさか…まさか、し……?


『ギギギ~!ギィッ!ギィッ!』


 アリさんは、背中に猛烈な量の冷汗をかく俺のことなどどこ吹く風で、何やら俺に向かってペコペコしはじめたかと思うと、今度は両方の前脚をクイックイッと動かし始めた。

 その様子はまるで、“旦那~、今日もいい女の子、仕入れて来やしたぜぇ、げへへ~”とでも言わんばかりだ。


「「「……」」」


「ちょ…ちょっと!変な仕草しないでくれる!?あらぬ誤解を招くからね!!?」


 俺は、アリさんの行動の意味や今の状況がまったく理解できないながらも、おそるおそるクリントンたちの方を見る。

 もしかしたら、このアリさんの行動を何か変な犯罪的な感じに誤解しているかもしれない。


(ま、まあ、心配しすぎか…。俺たちってば、学校生活や色んな出来事を通じて、切っても切れない強固な絆で結ばれてるもんな!?みんな俺を信じてくれて…)


「「「……(つ、ついにやらかしたか…)」」」


「ちょっ…!?何その目!!ついにやらかしたか…なんて思ってそうなその目はやめてくれ!!僕は何も知らないし、まったくもって意味がわかんないんだよ!?」


『ギィ…ギギギィ~?』


 アリさんは前脚を組み、軽く首を傾げた。


 おい、その“自分何か悪いことしてます?”っていう仕草を全面に推し出すのはやめろ!

 ぬわにが、ギギギィ~?だよ!

 疑義を申し立てたいのは俺の方だっつうの!!


 いつも応援ありがとうございます!

 よろしければ、下部の

  ☆☆☆☆☆

の所に評価をいただけませんでしょうか。

 ☆が1つでも多く★になれば、作者は嬉しくて、明日も頑張ることができます。

 今後ともよろしくお願いいたします!

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