第113話 訓練開始③ー2 ~訓練後はちゃんとストレッチしないと、腰とか痛めるからね?~
クリントンとの訓練において、その成長に目を見張るレイン。
だが本日最後のレインの魔法にクリントンは……!
第113話、よろしくお願いいたします。
ゴォオオオオ!!
ギュオオオオ!!
俺が放った火炎の竜巻は、まるで生きているかの如くその身をうねらせながら縦横無尽に暴れ回る。
もちろんその中心部において、荒れ狂う炎に巻かれながら一生懸命に踏ん張っているのは、お友達のクリントン君だ。
(ちょ…ちょっとやりすぎたか…?「毎度、お客さん!すっきり火の通った今日のチャーシューは格別でっせ!」…なんてことになってないだろうな…?)
「うぬおぉぉぉああ……!!」
ブワアアア…!!
だがそんな俺の心配を打ち払うかのように、クリントンの雄叫びとともに目の前の火炎に変化が起こったかと思うと、何と灼熱の大蛇のような俺の魔法がかき消されたではないか。
「おぉ!?クリントン…!!」
「ふぅ、ふぅ、ふぅ…!ど、どうだレインフォード、耐えてみせたぞ?…ぐぅ、あちちち…!」
クリントンは肩や腕、腰や膝など、若干焦げてしまった服のそれぞれの部分をパパッと手で払いながら、俺の方を見てにやりと笑った。
「いやいやいやいや…!予想外にめちゃいい感じだよクリントン!多分大丈夫だろうとは思ってたけど、全然イケてるじゃんか!腕や脚がちょっと焼失しちゃっても元に戻せるくらいの、きっつ~い治癒魔法は準備してたんだけどね?」
「お…恐ろしいことを平気で言うな、貴様という奴は!…ふぅ、なかなかに過酷な訓練だったな。しかしそこはやはり私、これまで鍛えた無属性魔力の鉄壁防御で…」
「おーい。そろそろ次いっていいかい?」
「えっ!?つっ…次!?まだやるのか!?」
顔や首の周り(肉がでっぷりで、顎が首かはあまり区別がつかんが)の煤をハンカチで拭っていたクリントンが、目を剥いて驚いている。
…いや、何言ってんだコイツ。
まだ開始から2分も経ってないだろうが。
宴もたけなわって言うには、ちょ~っと早すぎるぜ?
「まっ、待て待て!私はまだ準備が…!」
「はぁぁぁ…!」
俺は、ワタワタと焦って後退るクリントンを意に介することなく、次の魔法の準備のため、魔力を練り込むとともに、イメージを重ねてゆく。
(とは言ったものの、次はどうしよっか。たしかシルビアと戦った時は、加熱した後はキンキンに冷やしてやったっけ…?)
俺は、フッと小さく笑いながら、壁際で寝転びながら肘をついて爆睡する駄竜を見た。
自分の近くで火炎の竜巻が渦巻こうとも、全く気にせず爆睡し続けるとは、さすがシルヴィアといったところか。
きっとこいつなら、砂漠のど真ん中に放り出されたとしても、腹の虫が鳴くまでは起きやしないんだろうな。
(ん…?砂漠…?砂漠か…)
俺はふと顎に手を当て、思考を巡らせる。
「…よし、決めた!いくよクリントン!」
「むっ、むむ!?よ、よし!来るがいい!!」
無属性魔力でファイト一発、気合を入れるクリントンの様子を見届けた俺は、自身の身体の中で土の魔力と風の魔力を混ぜ合わせる。
(イメージは砂漠だ。広い広いサハラさば……あ、いや待てよ。どうせなら行ったことがある鳥取砂丘の方がいいか…?ちと規模は小さいが、そっちのが具体的だし…?あぁ!そういや、砂丘や鬼○郎の記念館に行った後、出雲大社とかにも行ったなぁ…。そん時に民宿で食った豚しゃぶとビールがこれまた最高で…)
「お、おい。どうしたのだ、レインフォード…?来ないのか…?」
「おわっと!ごめんごめん!なははは…!ちょ、ちょっと砂漠のことを考えてて、ついつい涎が…じゅるる!」
俺は口元を服の袖でゴシゴシと拭いた。
あん時の、豚しゃぶはいつか必ず再現しよう…。
「さ、砂漠と涎とが私の中では一切結びつかんが…」
懐疑的な表情のクリントンをよそに、俺は雑念を捨てて再び魔力を練り込み始める。
「悪い悪い。さ、気を取り直して…」
「むっ!?」
ズズズズズズ…!
(イメージは砂漠。……巻き起こすのは砂嵐だ!)
俺の身体の周りから、砂の混ざった強い風が螺旋状に噴出し始めたかと思うと、みるみるうちにその姿を暴風へと成長させてゆく。
俺はゆっくりと両手を上にあげた。
創り出した砂嵐はますます勢いを強め、高い天井へと吹き上がっていく。
あとはこの両腕を振り下ろすと、クリントンは激しい砂嵐に襲われるだろう。
(ふふふ…。こっからの連続魔法に、ちゃんと耐えられるかな?)
「準備はいいかい、クリントン?」
「くどい!サッサと来るがいいわ!!」
「よし!じゃあお言葉に甘えて…はぁあああ!」
バッ!!
俺は勢いよく、高く掲げた両腕を一気に自身の足元へと振り下ろした。
その瞬間――。
ギュオオオオ!!
荒れ狂う風。
舞い散る砂。
広大な砂漠を猛スピードで駆け抜ける砂嵐の如く、強烈な風と大量の砂がクリントンに降り注いだ。
「…ぐっ…こ、これは!…しっ、視界が…!?」
どうやら目を開けていることすら厳しいクリントンの方から、苦しそうな声が聞こえる。
だがそれでもクリントンは、何とか必死に踏ん張っているらしい。
(ふふっ。まだまだいくぜ?)
俺は次の魔法を行使すべく、身体の中で様々な属性の魔力を練り込んでいく。
スッ…、トンッ!
俺は少しだけ右足を上げると、軽く地面を踏みつけた。
ズゴン!
ズゴゴゴゴン!
「ぬおぉっ!?じっ、地面が!!」
腹の底にズドン!と響くような音を伴い、クリントンの足元の地面が、1メートル程度の隆起と沈降を繰り返し始める。
砂嵐でよく見えないが、うまくバランスが取れず、右往左往するクリントンのシルエットが目に映る。
だがそれに同情して訓練を中止する俺ではない。
今度は左足の爪先を少し上げ、トンッと地面を叩いた。
キュオオオ……!
パキ…パキパキ…!!
荒れ狂う砂嵐を取り囲むかのように、無数の鋭利な氷の刃が顕現する。
これはヴィンセントが使う氷結の魔法、コキュートスを模したもの。
ま、氷の数が本家本元より若干多い気もするが、今のクリントンなら恐らく大丈夫だろう。
「こ…ここまでやるか、レインフォード…」
クリントンが小さな声で恨み節を発したその瞬間、凄まじい勢いで氷の刃が射出された。
ドン!
ドドドン!
ドドドドドドン!!
「…ぐおぉぉぉぉ…!!?」
訓練場内に、何かがぶつかり合うような鈍い音が、幾度となく響き渡った。
クリントンは吹き荒れる暴風と安定しない足場の中、必死に氷結の刃に抗っている筈だ。
(…さてと、今日のところはこんなもんかな。そろそろクリントンも限界が近いだろうし…)
俺はそう考えながら、今度は右手だけを天井に向けて掲げるとともに、そこへ強力な水の魔力を集中させる。
「さあ、クリントン。エドもクロウも既に今日の訓練を終えたみたいだし、僕らも締めるとしよう」
「はぁ…はぁ…。くっ…!?そ…その魔法は…」
「あぁ。君の兄セオドアが使ってた魔法さ。見様見真似だけどね?」
既にボロボロのクリントンは、大きく目を見開いた。
なぜなら、高く掲げた俺の右手の延長線となる虚空に、巨大な水の球が顕現していたからだ。
そしてそれは、くしくもあのクレイジー兄貴セオドアが、弟クリントンに向けて行使した“タイダル・ウェブ”という多量の水を発生させる強力な魔法にそっくりだったのだ。
「んじゃま、今日最後の魔法ってことで、いってらっしゃーい!」
俺はにこにこ笑顔で、右手を前方へと振り下ろした。
その瞬間――。
ザッバァァ――――ンッッ!!
膨大な量の水が、怒涛の勢いでクリントンへと襲い掛かる。
それはあたかも、全てを押し流す巨大な津波のように。
「ぬわあぁぁぁぁぁ……!?」
ついに俺の魔法を防ぎきれなくなったクリントンは、そのまま激流に飲み込まれて沈んでゆく。
その様子を見た俺は、右手で指をパチンと鳴らすと同時に、行使していた全ての魔力を解除・消失させた。
ザッ…ザッ…ザッ…。
俺はゆっくりと、最初の位置からかなり流されてしまったクリントンの元へと歩み寄る。
もちろん生きてはいるが、どうやら身体中の魔力を使い切り、気絶してしまっているらしい。
俺がそんなクリントンを抱え上げようとしたその時だった。
「あ…兄上…。私は……私が強くなって、全てを元通りに……」
気を失っているにも関わらず、うわ言のように兄への思いをつぶやくクリントンの姿に、俺は胸が痛くなった。
だが同時に、その強さへのひたむきさに対しては、逆に自分の胸が熱くなっていくのも感じた。
(頑張ろうな、クリントン……)
俺は少しだけ笑い、心の中でそうつぶやくと、気を失ったクリントンを抱え上げるのであった。
(おっ、重……!?ぎょえええ!?腰っ、腰が……!!)
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