第107話 壁の中からこんにちは
更新遅れてすみません…。
順調に進む訓練は、次のステップに。
そこでレインは特別ゲストを呼ぶことになり…。
第107話、よろしくお願いいたします。
「うおりゃああ!ラージ・ファイアーボール!!」
「はあぁっ!アイス・アローレイン!」
エドガーが放った巨大な火の玉が、訓練場の壁と同じ材質で作った丸型の的に命中、その高熱により表面を焦がす。
クロウが繰り出した無数の氷の矢は、同じく人形標的に突き刺さるや、そこを中心として、対象を凍りつかせてゆく。
あれから2週間。
必死に訓練に打ち込むエドガーとクロウの無詠唱魔法魔法は日々磨き上げられ、正直もう俺いなくてもいいんじゃね?と思える程にまで成長していた。
しかしいつも不思議に思うんだが、この世界の人たちは、どうしても魔法に名前を付けたがるかな。
イメージを元にして魔法を行使しているわけだから、別に名前は必要ないと思うけど…。
ま、その方がイメージしやすいって言うんだから、別に止めやしないけどさ。
「わ…私も負けてはおれん…!?ぬううう…、そりゃあああ!!アルティメット・ウルトラスーパーファイナルフラッシュ・ビッグウォータースプラーーーーーッシュ!!!」
…チョロチョロ、パシャッ。
そんな2人を尻目に、コップ一杯あるかないか程度と思われる量の水が、クリントンの右手からちょろりと放出された。
「「「「……」」」」
ぶぷぅ!!
さ…さすがだぜクリントン…。
めちゃ仰々しい名前を魔法につけた上で…お前はオチというか、なんかこう、笑いのツボを心得ているというか…、これはもはや様式美だな。
…あ、エドガーとクロウも顔を真っ赤にして下向いてるの、みーっけ。
「…くっ…。何故だ…何故私だけエドガー様やクロウのようにいかない…。同じ内容の訓練をしていると言うのに…」
だが当のクリントン自身は、バラエティー番組を見終わった後のような俺の内心とは裏腹に、訓練場の真ん中で肩を落として、自分の両手を見つめていた。
ぽんっ。
俺はクリントンの肩に優しく手を置く。
「まあまあ、クリントン。心配しなくてもいいさ。これでも僕は、結果にコミットする男。焦らなくてもきっと強力な魔法を行使できるようになるさ。ほら、現に無属性魔力による身体強化が一番伸びてるのは君だろ?最後には必ず、パラッパラッパッパッパ~なんて効果音とともに、回転しながら笑顔になるさ」
「か…回転…?…パラッパラッパー…?…意味がよく分からんが…。ふん、まあいい。私は一度やると決めたからな、決めたからには最後までやり抜いてやる。…き…貴様のことも、す…少しは頼りにしている…」
照れくさそうにそう言うと、少し顔を赤くしてうつむくクリントン。
その様子にエドガーとクロウも顔を見合わせて小さく微笑んだ。
いやんクリントンたら、ちょっと可愛い…。
「そっか!うんうん、その意気だね!クリントン!」
俺は笑いながら、バンバンバンバンとクリントンの背中を叩いた。
「ちょっ…痛…痛い痛い…痛いわ!痛いし回数多くないかな!?」
そんな感じで、今日もクリントンとの定例じゃれあいを済ませたところで、俺はあらためて3人の方に身体を向けた。
「…さて、と。みんなもかなり無詠唱での魔法行使に慣れてきたみたいだし、実はここらでそろそろ、訓練の内容を実戦的なものに変えていこうと思っているんだ」
「実戦的なもの…?魔法戦術の授業みたく、標的の数を増やして魔法を連射するということか?まあ、正直今の俺なその程度、楽勝だけどな!」
エドガーは、両手で複数の火の玉を作り、にやりと笑いながらそう言った。
「いやいや、学校の授業ではその程度でいいかもしんないけど、本格的な闘いとなると、それじゃあちょっとねぇ?」
「ふっ…。となれば、“対人訓練を実施する”ということかな?」
クロウは、額の汗を白いハンカチで拭いながらそう言った。
俺はクロウの言葉には答えず、にっこり笑うと、そのまま訓練場の壁の方へと歩いてゆく。
そんな俺の姿を“…次は一体何をやらされるんだ?”とばかりに、若干不安そうに目で追う3人。
「うーん、もうそろそろのはずなんだけど…。確かこの辺りの壁の所に繋がる予定だったと思うんだけどなぁ…?」
俺はそうつぶやきながら、訓練場の壁をこんこんとノックしてみせた。
「…?な…何をしているんだ貴様。今度は壁に何か仕掛けでもしているのか?」
「んん?いやぁ、仕掛けとかじゃないんだけど、ちょっと穴を掘ってもらっててね…」
「あ…穴?貴様…穴とは一体…、またぞろとんでもないことをしでかしているのでは…」
その時の出来事だった。
ピシッ!!
ピシピシッ!!
訓練場の硬く分厚い壁に、勢いよく亀裂が走る。
「…んげっ!?」
「「「…!?」」」
思わず声を上げてしまった俺。
やば…、こ…この展開は…!?
ボコ…ボコボコ!!
ドガン!ぼっかん!
ドンガラガッシャ~ン!!
その亀裂は、みるみるうちに四方八方に伸びていったかと思うと、次の瞬間、俺の目の前で勢いよく壁が瓦解した。
「…ぎゃあぁぁ……!!(やっぱりぃ~)」
「「「あっ…」」」
まるで予め狙いすましていたかのようなタイミングのそれに巻き込まれた俺は、吸い込まれるように瓦礫の下敷きに…。
さらにそこへ。
「ふぅ~!やっと帰ってこられたぞ!!レッイ~ン、我が帰ってきたぞ~♪♪熱い抱擁とともに、優しく出迎えてたも!あ…何なら…些か恥ずかしいが、せ…せせ…接吻してくれても…って、あれ?」
崩れ落ちた壁の向こうは広い通路のようになっており、そこからひょっこり姿を現したのは、そう、シルヴィアだった。
「ん~…?あれれ…?おかしいのぅ、ここはお主ら3人だけか?レインの奴め、一体何処へ行ったのじゃ?」
「「「あ…あの…硬い壁が、崩れた…?」」」
どんなに切っても張っても、たとえ思いっきり魔法でぶちまかしてもビクともしなかった訓練場の壁が崩壊したことに驚きを禁じ得ない様子の3人。
そしてどうやらシルヴィアは、キョロキョロと辺りを見回して俺のことを探しているらしい。
…ご丁寧に、瓦礫の下敷きになった俺を踏んづけたままで。
「ちょ…ちょっとシルヴィア!下ですよ下!踏んでる、踏んでますよぉ!!」
「うぉ!?レイン!!?お…お主、我の脚の下で一体何をしとるんじゃ?…はっ!…さてはお主、そういう趣味趣向の持ち主じゃったか…?けっこう長い間一緒におったと思うたが…。や…やはり人間とは、なかなかに業の深い生き物よのぅ…」
「ううぅ…いてて…。ケホッ、ケホッ…。そ…そんなわけないでしょう?まったく、何てタイミングの悪い…」
駄竜は、わけのわからないことを言いながらその場から動こうとしないため、俺は這う這うの体で瓦礫の下から這い出すと、なんとかその場に立ち上がった。
そんな俺たちの様子をポカンとした顔で見つめるエドガーたち。
「まあでも、ある意味時間どおりではありましたね。ここまでの掘削作業を含め、ありがとうございましたシルヴィア。…そして、道中お疲れ様でした。お待ちしてましたよ、お二人さん?」
舞い上がった土煙も徐々に収まりつつある中、俺は壁の奥からゆっくりと現れた人影にそう告げた。
「いやぁ、あの列車ってのには久々に乗ったが、相変わらずすんごいスピードだねぇ。こんな短時間で王都からここまでを走り抜けちまうとはな!いつもながら、アンタのやることにゃあ、毎回毎回、度肝を抜かれるねぇ!」
そこに現れたのは、黒いロングコートをなびかせる、紫色の長い髪を後ろで束ねた一見綺麗な女性。
出会った頃から何一つ変わらない口調と態度に、夏休みに田舎のばあちゃんに会ったような安心感さえ覚える。
…もっとも、そんなこと本人に言った日には、バーベキューにされちゃいそうだけど…。
「よう、久々だねレイン。相変わらず悪そうな顔してるねぇ、アンタ」
「ご無沙汰してます、イザベルさん。この顔は生まれつきなんで仕方ありませんよ。今回は貴重なお時間を割いていただいて、申し訳ありませんでしたね」
そう、壁の向こうから姿を現したのはイザベル。
かつては王都に君臨したスラム街の女帝、現在はエチゼンヤ商会キャラバン隊隊長兼、輸送部門の責任者。
実は若くして一流冒険者として名を馳せ“英雄イザベル”なんて呼ばれていたこともあったとか。
しかし、こんないかにも品行方正な俺を捕まえて、誰が悪そうな顔だよ…、この炎上脳筋ゴリラめ…。
「構わないよ、最近ユリの奴が考えたワイバーンの…なんだったかな…魔獣の宅配便だかなんだかのせいで、アタシときたら暇で暇でねぇ。現場に行かずに机の上で指示をだけ出すなんざ性に合わねぇと、時間を持て余してたところさね。久しぶりに暴れられると聞いて、願ったり叶ったりってとこさ」
イザベルはそう言いながら、黒い革手袋をはめた両手を腕の前で合わせ、バキボキと音を鳴らしている。
ケンシ〇ウかよ…あぁいや、どっちかっつうとラ〇ウ…。
「…イザベル…。もしや、…数々の凶悪なダンジョンを踏破し、その武勇伝は冒険者たちの語り草になっている、あの英雄イザベルか…?」
「…それなら俺だって知っているさ、クリントン。その苛烈なまでの火炎の魔法は、何者をも瞬時に消し炭に変えてしまうと…。だが、とあるダンジョンに潜った記録を最後に消息不明になったとされていたはずだが…」
「はははは!懐かしい話さ、昔そんなこともあったかもねぇ。まぁ、今はエチゼンヤ商会の従業員で、キャラバン隊隊長という肩書の単なる労働者さ。んじゃま、よろしくね!坊やたち!」
顔を強張らせるクリントンとクロウにまんざらでもなさそうなイザベル。
英雄っていうか何回も言うけど、ただの脳筋ゴリラだよって教えてやろうか?
何なら俺、一回ぶん殴られそうになってるからね?
ザッ…ザッ…ザッ…。
そこへもう1つ、壁の向こうからの足音が徐々にこちらの方へ近づいてくる。
程なくして、軽やかかつ力強い足取りで1人の男が俺たちの前に姿を現した。
それは。
「ふっ、久しいな、レイン」
肩口で切り揃えられた美しい金髪。
堂に入った、左手で前髪をかき上げる仕草。
今日は鎧の着装はなく、シャツにズボンの普段着だが、そのスラリとした長身とスマートな身体には、腹が立つぐらい何を着せても絵になるらしい。
「ご無沙汰してます、ヴィニー。今日はお忙しいところ、ご足労願ってしまってすみません」
「ふっ、事情は全てユリ殿から聞いている。他ならぬ友の頼みとあらば、この不肖ヴィンセント・グレイトウォール、たとえ地の果てからでも馳せ参じるさ」
そう言って右手を差し出してくるヴィンセントに、俺も自分の右手を上げ、ガッチリと握手した。
俺の数少ない友人の一人、ヴィンセント・グレイトウォール。
グレイトウォール公爵家の次男にして、精鋭と名高い王国騎士団の中でも英雄と称される騎士の中の騎士で、さらに王国の税務査察官としての官職も与えられている“もはや何でも王子”。
その腰には、かつて誕生日プレゼントとして贈った剣、エクスカリバーをしっかりと提げている。
いやー、相変わらず腹立たしい程イケメンだね。
けど、俺のためにとそんなことを言ってくれるのはお前だけだぜ…。
そこは素直に嬉しいかな。
「ヴィ…ヴィヴィ…!!?ええ…!!?…ヴィンセント卿だとぉ…!!?」
目ん玉が零れ落ちそうな程に目を見開き、地面に顎の下が着きそうな程に大きく口を開けて驚くエドガー。
いい反応ありがとうな。
ヴィンセントはお前の憧れだものね?
部屋の壁に、前にあげたポスター飾ってるもんね?
「さてと、役者は揃ったようですし、訓練の第三段階“実戦形式で頑張ってみよう”に移行するとしましょうか!」
広い訓練場の中、くるりと振り返りイザベルとヴィンセントとともに、にやりと笑ってそう宣言した俺。
そして逆に、豪華キャストたちが登場した意味をすぐに理解し、戸惑いながらも、気を引き締めるエドガーたち。
(ふふふ…。この適度な緊張感、いい感じになってきたぜ…。これならばっちり訓練に…)
「レイ~ン、我お腹空いた~。魔力玉ちょうだ~い?」
と思ったが、シルヴィアの気の抜けた声で台無しだわ…。
だめだこりゃ…。
いつも応援ありがとうございます!
よろしければ、下部の
☆☆☆☆☆
の所に評価をいただけませんでしょうか。
☆が1つでも多く★になれば、作者は嬉しくて、明日も頑張ることができます。
今後ともよろしくお願いいたします!