41階層
精霊の遊ぶ41階層。
僕たちは別名精霊界とも呼ばれるその場所に踏み込んだ。
パッとした見た目の風景はいたって普通の森の中だけど、なんか不思議な視線を感じる。
「ふむ、この視線は精霊たちのものだろうか?」
「リアさんも感じますか」
「おそらく、他の皆も感じているとは思うが敵意や悪意は感じないな。強いて言うなら、興味という言葉が妥当だろう」
まあ、リアさんがそう言うなら今は放っておいても問題ないだろう。
それより、今はこの喜びに浸りたい。
僕はみんなの顔をみる。
リアさんもクウデリアもポルンも嬉しさを噛みしめた顔をしている。
「ついにここまできましたの。第1王子のキーエンスお兄様の記録が45階層。少なくとも私たち世代の中では上位に入りましたの」
クウデリアが喜びを爆発させている。
ここまでいろいろあったし、しょうがないだろう。
「クウデリア様、ダンジョン攻略記録更新もですが、星光教の動きも気になるので油断はいけませんよ」
「わかっていますの、それでも、アルルの神の手(仮)のおかげでみんなの能力も強くなりましたし、少しくらい調子に乗っても大丈夫じゃありませんの?」
「でも、向こうも僕の右手を持ってるんですよね」
持ち去られた僕の右手が、星光教の手に渡っている以上、油断はできない。
僕は封印耐性(手)レベル10で解除することで、神の手(仮)を発動させているけど、他の方法で何か発動させることができるかもしれないのだ。
「もし、アルルのように活用できるとしたら油断はできないですの」
「でも、星光教自体が我々への興味を失っている可能性もあるな」
「そうですね。ビルやオリアナがもともと僕に接触をしようとしたのは、おそらくこの神の手の力が目的だったからだと思うし、それを手にいれて満足したかもしれません」
「それでも残った左手も奪いにきたりしませんの?」
うわ、それは嫌だな。
両手がなくなるなんて不便でしかない。
時々勝手に動く黒い右手も問題だし、そろそろ1回調整しておくべきかもしれない。
「それにしてもアルルの右手が悪用されていないかも気になりますの」
「前に言っていた、王族たちの不老不死とか永遠の命というやつですか」
「それ以上も考えられますの」
「それ以上?」
「世界の掌握、いわゆる世界征服的な感じですか」
「アルルの神の手(仮)の力を使えば、私たちにしたように能力の改造なんかで強力な兵を大量に生み出せますの」
「世界の掌握ですか。そんなの考えたこともありませんでした」
なるほど、そういう使い方もできるってことか。
というか、僕も兵隊じゃないけど仲間の強化に能力を惜しげもなく使ったから人のことを言えない。
あまり使いすぎるのも反省しないとな。
「アルルは今のままでいて欲しいですの」
右手はダンジョン細胞で黒くて、左手は虹色に輝く神の手(仮)って感じだけど、僕も大概に人を辞めてるのかなと不安になるけど、それでいいって言ってくれる存在は有り難い。
「ふむ、アルルは今のままでいいと思うぞ」
「ポルンも、今のアルル大好きポル」
ポルンが抱きついてくる。
うん、くすぐったいから耳を舐めるのを止めて欲しい。
それにポルンの人狼状態での耳舐めは、いろいろ恥ずかしくもなるし、クウデリアのご機嫌がすこぶる悪くなるから大変だ。
「リアさんも苦笑してないで止めてくださいよ!」
こんな得難い仲間たちに囲まれて僕は、少しの不安と共に大きな幸せを感じていた。
読んでくださり、ありがとうございます。
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