29階層へ
バカ王子に置き去りにされて、1週間が過ぎた。
僕とリアさんは今日もダンジョンの30階層で生活する。
火竜の鱗を円形に配置して、スライムや獣の魔物から身を守る安全エリアを確保するなどの方法も覚えたし、だいぶ、ここでの生活にも慣れてきた。
僕の能力にもいろいろ変化があった。
まず、1番の変化は《斬撃耐性(手)》が追加され、能力が4つに増えていることだろう。
リアさんの剣を触らせてもらったときに、刃の部分に触れただけで獲得することができた能力だ。
えっ、僕の能力獲得って、チョロ過ぎないかって?
正直、自分でもそう思う。
でも、状況が状況だし、貰えるものは遠慮なく貰っておく。
ただ、なんか自分の知らない間にもいろいろ増えていそうで、そこは若干不安になる。
そして、なんと、ようやく僕の能力がそれぞれレベル10に上がった。
これは素直に嬉しい。
食料も少しストックができたし、毒エリアでいろいろ薬の調合もできたんで、全部魔法のポーチに入れてある。
準備はだいたいできた感じだ。
「僕のほうは、そろそろ32階層の氷結ステージに向かう準備ができた感じですが、リアさんのほうはどうですか?」
「ふむ、体調は、ほぼ完璧に近い形で回復した。ただ武器の手入れに若干の不安があるかもしれない」
確かに、魔物をほぼ1人で追い払ってくれたり倒したりしているリアさんの武器の消耗は激しいかもしれない。
騎士さんたちの遺した武器が使えたら良かったけど、火竜との戦いでリアさんの剣以上にボロボロだ。
「じゃあ、まずはリアさんの武器をどうするか考えないとですかね」
「いいのか?」
「リアさんは騎士で前衛ですからね。前衛の武器は大事ですよ。武器をダンジョン内で調達するためにはどうすればいいですかね」
「それは魔物から奪い取るのが1番だろうな」
「なるほど、では29階層を目指しましょうか」
「そうするとしよう」
僕たちは30階層を29階層に向けて移動する。
もちろん、バカ王子みたいに毒沼を直進するような真似はしない。
ちゃんとした順路をいく。
途中で、巨大な毒スライムに遭遇。
たぶん、こいつがこの辺りの主、毒王スライムみたいだ。
毒王スライムは通常のスライムの数倍の体積があって、そのうえ毒々しい斑模様のせいで全然弱点の核が見えない。
「リアさん、ここは予定通り、まず僕に任せてください」
事前にこいつと遭遇する可能性も考えて、リアさんと作戦は立ててある。
「ふむ、任せた」
リアさんの横を抜け、毒王スライムに近づく。
僕が近づくと、毒球を撃ってきた。
「残念だけど、僕の手に毒は効かないんだよね」
僕は手を出して毒球を弾く。
外れた毒球が地面に着くと、シュウシュウと今まで聞いたことない音を立てて地面に穴を開ける。
他の魔物より毒が強いのか。
ひょっとして、僕の《毒耐性(手)》がレベル1だったら効いたのかもしれないけど、今の《毒耐性(手)》はレベル10。
効くわけがない。
僕は十分に近づいたあと、火竜の鱗を毒王スライムに投げつける。
よし、うまく取り込んでくれたぞ。
僕はこの作業を火竜の鱗がなくなるまで、ひたすら繰り返す。
「じゃあ、僕の仕事はこれで終わりかな」
何枚もの火竜の鱗を体内に取り込んでしまった毒王スライムは表面が波打ち苦しがっているようだ。
今のうちに素早く離脱する。
しばらくすると、毒王スライムの体が沸騰しだす。
みるみるうちに体積が減り、弱点の核が露出する。
「リアさん、あとはお願いします」
「ふむ」
仕上げはリアさんの仕事だ。
リアさんが、「てやっ!」っと、掛け声一閃。
毒王スライムの核が綺麗に真っ二つになった。
30階層の主の魔物だったけど、とくに危なげなく勝利することができた。
もちろん使った火竜の鱗は回収も忘れない。
こうして、僕らは順調に29階層に向かった。
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