大宴会
奥深い森の37階層。
生命の樹の周囲は嘗てないほどの喧騒に包まれていた。
僕たちとエルフ、ドワーフは全ての脅威が去った後、約束していた大宴会を開催している真っ最中だ。
最初は士気を上げるための冗談だと思ってた宴会だけど、ドワーフたちは大真面目だった。
ドワーフたちはテキパキと戦い以上の動きで準備していき、救われた側のエルフも拒否することはなく、今回開催の運びとなったのだ。
最初はエルフの里でという話だったけど、リアさんたちが暴れたときの瓦礫が思ったより散乱し過ぎていて、場所の確保ができなかったのだ。
まあ、それについては僕を拐ったことの詫びということで、リアさんたちの破壊についても、お咎めなしということでエルフたちとは話がついている。
そこは本当に良かった。
実は、エルフの里の家屋とか残っている物より壊れている物のほうが多いくらいだったから、弁償しろとかいわれたら、とんでもないことになっていた。
リアさんやポルン、クウデリアも今はそれぞれ料理や飲み物の場所に散っていて、この穏やかながら賑やかな雰囲気を楽しんでいるようだった。
僕が1人でドワーフとエルフが肩を組んだり、喧嘩したり賑やかに酒盛りする様子を見ていると、何やら黄色い液体の入った2つのコップを持ってジルエルがやってきた。
「アルル、飲んでいるかい?」
「いえ、さすがにまだ15歳になったばかりなんでお酒は飲んでないんですが、美味しい料理もいっぱいあるし、楽しんではいますよ」
「そうか、アルルも15歳になったのなら王国の法では問題なく飲酒が出来るな」
「でも、ダンジョンの中にいると、なかなかお酒と出会う機会がないんですよね」
「確かにそうだね」
ダンジョンに酒場がある場所なんて、こういう亜人たちの里くらいものだ。
「アルル、約束を守ってくれてありがとう」
「もちろんです。クウデリア様も泣かせたくないですし、ジルエル様に殺されたくもないですからね」
僕の答えに、ジルエルが微笑む。
それを言いにわざわざ僕のところまで来てくれたのか。
この人、本当にクウデリアのことが大好きなんだな。
いや、ジルエル曰く、クウデリアのことは愛しているだったっけ。
兄弟のいない僕にはわからない感情だ。
「この蜂蜜酒は、エルフの長の秘蔵の酒らしいよ」
「ああ、あのドワーフが冗談めかして言っていたやつですか。確かにどう考えてもジルエル様が一番功績を上げてましたもんね」
「さあ、どうだろう。今回の一連の件では自分なんかより、よっぽど功績を上げた者もいると思うのだけどね」
「確かに他のみんなも頑張っていましたもんね」
ガンツは手にしたら敵がいなくなるまで止まれなくなる呪いの戦斧を振り回して魔物を狩っていたし、クウデリアも状況に応じて回復魔法でみんなを支援してくれていた。
ポルンも一時とはいえ、1人で古代樹人を相手に時間稼ぎをしてくれていた。
危うく人間の姿を捨てるところだったリアさんの身を呈した活躍も忘れたらいけないだろう。
もちろん、エルフとドワーフも誰一人として手を抜いた人はいない。
みんな死力を尽くしていた。
でも、そんな中でもジルエルは60体以上の魔物を狩っていて、一番手柄なのは間違いない。
まさに英雄といえる活躍だ。
「他のみんな……か。まあ、そうだね」
「?」
なんだろう。
ちょっとだけ、ジルエルが苦笑したような気がする。
僕、何か変なこと言ったっけ?
「アルル、この蜂蜜酒、少し味見をしてみないかい」
「えっ、いいんですか、エルフの長の蜂蜜酒って、ちょっと興味あったんで嬉しいです」
さっきジルエルも言っていたように僕らの国では15歳から飲酒が出来るけど、ダンジョンで15歳の誕生日を迎えた僕はまだ飲酒をしたことなかった。
エルフの蜂蜜酒って、確か最下級品でも庶民にはなかなか手が出せない高級品のはずだ。
初めてのお酒が、王族から分け与えられたエルフの長が秘蔵していた蜂蜜酒って、なんかさらに贅沢な気分がして、すごい記念になりそうだ。
ジルエルが僕にコップを1つ渡してくれた。
独特の甘い酒精の香りがする。
ジルエルが僕にコップを傾けてきた。
「幼き英雄に乾杯」
「?……幼き英雄に乾杯」
あれ、ジルエルは二十歳くらいだし若いけど、幼くはないと思うんだけどな。
まあ、僕より年下のポルンやクウデリアも頑張ってくれていたし、英雄と言えば英雄かもしれない。
よくわからないけど、これが高貴な人たちの乾杯の方法なのかもしれないと合わせておく。
イケメンは乾杯する姿まで様になるもんだな。
そんなことを思いながら僕は初めてのお酒の味を味わった。
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