合流
奥深い森の39階層。
巫女様の処置を終えた僕は、エルフの里の外にいるリアさんたちの元に向かっていた。
先にジルエルが向かったはずだけど、まだ戦闘は続いているようで、僕はそこを目指す。
「リア、ポルン、アルルが来ましたの」
天使化で上空にいたクウデリアが僕を発見してくれた。
「アルル、無事だったか」
「ポル、ポルル」
「リアさん、ポルン、心配かけてすみませんでした」
リアさんとポルンが僕を見つけ駆けつけると、揉みくちゃにしながら強く強く抱き締めてくれた。
こんなに喜んでくれて嬉しい反面、少しだけ恥ずかしい。
でも、僕は自分の無事を喜んでくれる人がいてくれることが、本当にありがたいと心の底から思う。
「子供よ、お前まで牢を抜け出せたというのか!?」
エルフの長リーングエルが僕の姿を見て驚きの声を上げてきた。
そちらのほうを見ると、十数人のエルフの狩人たちをジルエルが影魔法で生み出した何十本もの糸のようなもので相手取ってほとんど無力化してくれている。
「はい、ジルエル様とリアさんたちの陽動のおかげで、なんとか抜け出すことができました」
「神の使いの、あの方はどうした?」
「ああ、師匠ですか」
「師匠?」
「師匠なら、僕の右手を切断して奪って逃げていきましたよ。転移も使えるようでしたし、今頃はもうダンジョンの外じゃないですかね」
僕は光の収まった黒い右手を証拠として見せつける。
リアさんたちも驚いているようだけど、今は僕の手について詳しく説明している時間はない。
僕自身、何でこの状態になっているかわかんないし、説明したくても出来ないってのも正直なところだ。
「まあ、そんなわけなので、あなたの娘で巫女様の体を治すついでに出てきた黒い光で僕の右手を代用させてもらっています」
「何、お前はルエルを治したというのか、嘘を、嘘を言うな」
エルフの長は信じようとしない。
長命なエルフだからか頑固な人だ。
「本当ですよ。魚のようになっていた足も元に戻しましたし、元々持っていた心臓の持病なんかも綺麗に治しておきました」
「なぜ、ルエルの心臓の病のことを知っている!?」
あれ、もしかして秘密だったのかな。
まあ、知っちゃったもんはしょうがないし、治しておいたから問題ないだろ。
「僕が直接、情報を読み取って診させてもらったんで」
エルフの長はなおも驚いてくれている。
「神の使いのあの方には、心臓をとるか足をとるかと言われていたのだが」
「まあ、あの黒い光に手を出させるため、巫女様の持病を都合よく利用したのでしょうね」
「では、…………ルエルは、本当に治ったのか」
「はい」
「そうか、そうか、本当によかった。皆のもの、巫女は、娘は救われたらしい」
僕の言葉を聞いて、エルフの長は泣き崩れながら他のエルフたちにそう宣言した。
それで他のエルフたりの攻勢も止み、ジルエルが僕たちのところに来てくれた。
「エルフの長、これで自分の言っていた話も本当だと信じてくれますか?」
「魔物の大群が我々に向かい進行してきていると言うやつだな。すまなかった。信じよう」
だが、これで一件落着とはいかない。
まだ、師匠の置き土産の魔物100体の相手をしなければならないのだ。
そこへ、上空のクウデリアから報告が入る。
「皆さん、向こうから巨大な樹人がやってきますの」
「巨大な樹人だと。まさか、ここ百数十年現れることのなかった、この階の階層主、古代樹人が出現したというのか」
エルフの長の話が本当なら、その階層主は他の名付きの階層主にも匹敵する可能性があり、それは魔物100体以上の脅威だろう。
僕たちの戦力はリアさん、ポルン、ガンツ、ジルエルの4人が主力で、僕とクウデリアと合わせても6人。
エルフの人たちが十数人いるとしても合計30人にも満たない。
100体の魔物と階層主か。
今の僕たちの状況で太刀打ちできる相手なんだろうか。
そんな悲壮感も漂う中、予想外の援軍が到着する。
「おう、待たせちまったな」
僕たちの前に現れた援軍、それは各々武器を大量に担いだドワーフたちだった。
その数、100人以上。
「お前たち、何の真似だ。我々エルフに戦でも仕掛けに来たのか」
「おいおい、何言ってんだ。この状況で助けにきた以外の何があるっていうんだ」
ハンマーを担いだドワーフのおっちゃんがエルフの長の言葉に呆れたような表情をする。
あの人、前にドワーフの里で見かけたドワーフだと思う。
「何でお前たちが我々を助ける?」
「そこのガンツが、惚れた女のために頑張ってるというんじゃ、ドワーフの同胞として放っとけないだろ」
「ガンツの好きな相手はエルフの巫女様なのに、それはかまわないんですか?」
「前に言っただろ。ドワーフは細かいことは気にしないって。確かに呪いのナイフを突き刺すことでしか救う手段を見つけられなかったガンツはバカだと思うし、長耳野郎たちは気に食わねぇところもあるが、そんなもん惚れた相手のために頑張る同胞を見捨てる理由にはならねえよ」
「それなら、ドワーフの同胞とその相手だけを助けてもいいはずだ。なぜ、お前たちが我々まで助けようとする必要がある?」
「おいおい、それをいうなら、それこそ今さらだろ。俺たちドワーフとエルフは寄り添ってこそいなかったが、今までずっとダンジョンっていう過酷な環境で支え合ってきた存在だろうが」
「…………」
ドワーフのおっちゃんの言葉にエルフの長が呆然としている。
「ドワーフの動ける連中に声をかけまくってたから、少々遅れちまったが、俺らの出番はちゃんと残されているんだろうな」
ドワーフのおっちゃんたちは、そう言ってにこやかながら力強い笑みを浮かべた。
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