エルフの事情
奥深い森の39階層。
エルフの里の牢屋の中に僕はいた。
ジルエルの封印が解けたのをエルフたちに悟られないようにするため、ジルエルの拘束具は手につけたままにしてもらっている。
僕が捕まってから体感で1日がたち、途中何度かエルフの女の子が僕とジルエルに食事を届けてくれていた。
「ありがとう」
「……」
言葉を交わしたらいけないとでも言われているのかエルフの女の子は何か言いたげにしながらも無言で去っていく。
それはいい。
想定の範囲内だ。
僕は今ここで出会ったシスコン第4王子ジルエルに施されていた封印を解いたことで危機に陥っていた。
「それでな、クウデリアがなーー」
封印を解いたことで、僕に恩義を感じたシスコン王子の延々と続く、クウデリア談義が長すぎて寝られない。
誰でもいいから、このシスコン王子を黙らせて。
そう思っていると、牢屋に誰かが入ってきた。
ドワーフの里に行く前に出会ったエルフとフードを被った知らない男だ。
男のフードはビルとオリアナと同じデザインだし、星光教の関係者なのは間違いなさそうだ。
でも、今のところ、そっちは僕に興味のない様子だし、わざわざこっちから、あなたたちのことを知ってますなんて情報を与える必要もない。
僕は黙って成り行きを見守る。
「私はこの里の長、リーングエルだ。そこの子供、お前はあのドワーフと一緒にいたな」
「そうですけど、何か?」
「お前はあのドワーフへの人質となりえるのか?」
おっと、直球できたな。
聞けば、僕を人質にガンツに巫女に刺さった呪いのナイフの解呪を要求するつもりらしい。
王家の指輪を持っているクウデリアや騎士のリアさんより、立場的にも実力的にも拐いやすいという理由で僕が標的に選ばれたみたいだ。
クウデリアが婚約者なんて嘘をついていたところも隠れながら見られていたみたいで、僕の身に何かあればドワーフ側も王族の関係者を守れなかったとして今後の大問題にまで発展する可能性があるらしい。
「でも、そんなことをしていいんですか?」
「どういうことだ?」
「あの呪いのナイフがなくなったら、困るのはあなたたちじゃないんですか」
「何?」
リーングエルの顔が不快感に歪む。
「我が娘で巫女でもある、ルエルを呪ったナイフをそのままにしておけと」
「まあ、巫女様の体のことを考えるとそのほうがいいと思います。そこのフードを被ったあなたもそう思いませんか?」
僕はフードを被った男に話を振ってみる。
男は以外にも僕の言葉に反応してしわがれた老人のような声で答えてくれた。
「そうは思わんな。長よ、ワシは早急に除くべきと思っておる」
「そうだ、神の使いでもあるこの方が悪しき呪いを容認するわけはないだろう」
ふーん、神の使いね。
ガンツの呪いなんかより、よっぽど怪しさ満載だ。
「それで、もう1つ確認なんですが、僕でも巫女様の呪いを解けるといったらどうしますか?」
「馬鹿か、お前みたいにただの子どもにそんなことできるわけがないだろ。牢から出たいからといって、でまかせをぬかすな」
まあ、当然そう思うよね。
ここはおとなしく引いておいたほうがいいかな。
僕とエルフの長が話をしている間、ジルエルは終始黙ったまま事態を見守ってくれていたので、それを有り難く感じながら僕は頭をポリポリとかく。
「やっぱり、そう上手くはいきませんか」
フードを被った男も僕の言葉に反応を示さないところを見ると、どうやら僕らの情報を全ての信者が持っているわけではなさそうだ。
エルフの長とフードの男が出ていくと、入れ替わりに食器を下げに女の子が入ってくる。
さてと、どのタイミングで行動を開始するか、そこが問題だよな。
こっちは里の中の様子もわからなければ、リアさんたちと連絡もとれないんだから、
そう思っている僕に思いがけないところから援軍がくる。
「お兄ちゃん、本当にお姉ちゃんの呪いを解けるの?」
お皿を下げにきたはずのエルフの女の子は、僕にそう声をかけてきた。
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