34階層
僕たちは34階層に到着した。
34階層は大きな水溜まりというか、巨大な池のようになっているみたいで、途中に浮き島が1つあるだけで他は何もなく向こう岸も全然見えなかった。
ていうか、本当に向こう岸ってあるの?
それくらい、広く大きかった。
「この階層に広がっているのが噂に聞く貴族がバカンスとかを過ごす湖というものですか?」
僕の問いに、細い指先で舐めながら水の味を確かめていたクウデリアが答えてくれた。
「アルル、残念ながら違いますの。これは海というもので湖ではないですの」
これが海、というか、海って何?
少なくとも王都の近くに海というものはなかった。
貧困街出身の僕にとっては、湖でも理解しがたいのに、海なんて聞いたことすらなかった。
「クウデリア様、海ってなんですか?」
「海とは何か……ですか。アルルは難しいことを聞きますの。アルルは薬とかいろんなことに詳しいのに海は知らないんですの?」
「僕の知識は師匠から叩き込まれたものなんで、だいぶ偏りがあると思いますよ」
クウデリアが、う~んと可愛く悩んでいる。
「いろんな生き物が暮らしている、塩気の強い水がいっぱい溜まっている場所というので、どうでしょう?」
「なるほど、覚えておきます」
僕は目の前にある光景を目に焼きつける。
風が少しべたっとしていると思うけど、日差しは気持ちいいし、水が砂浜を来たり引いたりする光景は、光が乱反射して煌めいて綺麗だと思う。
こういう水の動きを波というのだとクウデリアが教えてくれた。
「ポルル」
ポルンが危険を知らせるように鳴き示す方を見ると、青い鱗の蛇のような竜、水竜が出てこようとしていた。
いや、この場合、海竜というべきなのか?
体長は10メートルほどで、太さは丸太くらい。
でも、この大きさが水中に隠れられたってことは、僕たちの波打ち際近くも見た目より水深が深いんじゃないかな。
迂闊に水に入ると危ないかもしれない。
とりあえず、戦闘だ。
「ポルン、リアさん、頼みます」
「ポルル」
「任せてくれ」
水竜のような海竜との戦闘は、雷狼状態のポルンの電撃と鱗を簡単に斬り裂くリアさんの剣によって速やかに終了する。
「クウデリア様、ポルンの電撃で魚以外のものも何匹か気絶しているようなんですけど、あれって何ですか?」
「きゃーっ、あれは海老や蟹と言って、すごく美味しい物なんですの」
クウデリアが大興奮している。
普段から美味しいものを食べなれている王族のクウデリアが興奮するくらいなのだから、相当美味しいんだろう。
「海老や蟹、魚を捕獲して今日の晩ごはんにしますか?」
「それ最高ですの」
穴を掘り、その中に火竜の鱗でとった火種で火を起こして海老や蟹を鉄串に刺して炙り焼きにしていく。
匂いは大丈夫そうだ。
僕と一緒で海が初心者のポルンもバリバリと美味しそうに海老を食べている。
僕もクウデリアが蟹って呼んでいたものを一口噛る。
口の中に広がる僕の血液の豊潤な味わい。
うん、不味い。
……鉄の味しかしない……っていうか、痛いんだけど。
「おい、アルル、蟹の爪をそのまま囓る奴があるかっ!」
「きゃあ、アルル、口から流血してますの。蟹の殻は割ったりして中身の肉のみを食べるんですの」
それならそうと最初に教えておいてほしかった。
クウデリアやリアさんは美味しそうに食べているけど、貧民街出身の僕にとっては未知の食べ物だ。
今度こそ、ちゃんと頂く。
「いただきます」
食べる様子を見られるのも緊張するけど、しょうがない。
教えて貰わないと食べ方すらわからないんだから。
苦労して殻をむき、そのプリプリの身を口にする。
「ん!? ものすごく美味しいです」
蟹の身は甘く、味は濃厚。
この食材特有の旨味が凝縮されていた。
「そうですの、甲殻類は美味しいですの」
「アルル、まだまだいっぱいあるから遠慮なく堪能してくれ」
こうして、僕たちは初めての34階層で、海の幸を心行くまで満喫した。
読んでくださり、ありがとうございます。
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