油断
雪と氷に閉ざされた32階層。
僕とリアさん、第3王女クウデリア、ポルンの4人は雪の中を進んでいた。
「いつ天候が崩れるかわからないんで休憩できる場所まで少し急ぎましょうか」
吹雪まではいかないけど、雪も少しずつ降りだしている。
雪に慣れるためにしていた雪遊びで低体温症になりかけたお子様2人を叱ってみたり、いろいろあったけど、それはまあいい。
初めての雪で、はしゃぎたい気持ちは僕にもわかる。
それよりも今の問題はリアさんだ。
「なあ、アルル、いいだろ。ちょっとだけ、ちょっとだけだから」
「またですか。ちょっと回数が多すぎると思うんですが」
「これで最後だから、一生のお願いだ」
リアさん、それ、絶対に一生のうちに何回も言ってしまうやつです。
「私はもっとロングと気持ちを通わせたいのだ」
リアさんがそんなことを言ってくる。
リアさんが僕に求めているのは、《封印耐性(手)》によるリアさんの能力、《剣の才》の一部解放だ。
愛剣のロングと語らいたいのだと言う。
でも、能力にどんな制限や代償があるかわからないから、僕はダメですと断り続けていた。
「ロング〰️」
リアさんが愛剣に頬擦りしている。
あっ、禁断症状が出てきて、リアさんが壊れ始めた。
この時のリアさんは、若干気持ち悪い。
リアさんのことをメッチャ高評価していた前回の自分にて今のこの残念な姿を見せてやりたい。
禁断症状が出ているなら能力の解放はしてあげたいけど、1回断っている以上、何か理由がほしいところだ。
あー、魔物でも出ないかな。
そんな不謹慎なことを考えてしまう。
すると、僕の願いが通じたようだ。
「ポルっ!」
「リア、アルル、魔物が出たようですの」
ポルンが発見し、クウデリアが報告してくる。
前方に雪熊が2体。
魔物が出たなら、遠慮は無用だ。
「ポルン、リアさん」
「了解したっ!」
「ポル」
僕の近くに来てくれた2人の額に触れ、僕は《封印耐性(手)》で能力の解放を行う。
リアさんがマントを脱ぎ捨てながら愛剣のロングを片手に疾走し、ポルンもその場で情熱的に踊り始める。
「ポルル」
炎狼状態になったポルンもリアさんを追いかけて雪上を4本足で駆けていく。
僕は脱ぎ捨てられたマントを回収しながら声をかける。
「2人とも雪熊の爪に気をつけて」
「アルル、大丈夫だ。我々、2人なら問題ない。クウデリア様のそばにいてくれ」
「ポールル」
リアさんの剣とポルンの炎が、雪熊を追い詰めていく。
でも、この時僕たちはまだ気付いていなかった。
ここは雪と氷に閉ざされた世界のはず。
雪は見ればわかるけど、氷は今のところ見当たらない。
じゃあ氷はどこに?
答えはすぐそばにあった。
いきなり僕とクウデリアの足元が崩れる。
僕らの足元は薄氷で出来ていて、それが砕けたようだ。
下は深い氷の裂け目のような空間になっていて自由落下を始める僕とクウデリア。
「クウデリア様」
「アルル」
僕は一緒に落下していくクウデリアのほうに手を伸ばす。
なんとかクウデリアのマントを掴み、僕の方にクウデリアの体を手繰り寄せられたけど、僕自身も落下中。
僕に出来たのはそこまで。
僕は落下の途中で意識を失った。
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