策略
森と草原の広がる29階層。
コボルトの里の僕たちが滞在させてもらっている居住スペースに僕とリアさん、第3王女クウデリアはいた。
クウデリアとの取引で、僕たちは今後ダンジョンの下層を目指すことになった。
まあ、クウデリアと出会う前から32階層は目指す予定だったし方向性は変わらない。
うまくいけば、王女という後ろ楯を得られるというのは大きいし、多少の危険は覚悟する。
少し難しい顔をしたリアさんがクウデリアに問いかける。
「ところで、クウデリア様はダンジョンのどの階層で逃亡を?」
「今回は29階層からですの。27階層辺りから何故か警備が薄くなって、迷子のふりをして離れては見つかりを何度か繰り返していたのですが、ようやく今回成功しましたの」
嬉しそうに話すクウデリアとは対照的に、僕とリアさんの顔は曇っていく。
このクウデリアは、王女というだけあってお世辞にも身体能力が高そうには見えない。
もちろん、隠れるための特殊な能力もないだろう。
「クウデリア様、クウデリア様の護衛の方たちは、必ずクウデリア様を見つけてたのですか?」
「そうですの。しばらくは大丈夫なんですが、どの階層でもある程度の時間が経つと、何故か絶対に見つかってしまいましたの」
クウデリアの話を聞き、僕に嫌な仮説が成り立った。
リアさんに確認をとる。
「リアさん、それって」
「アルル、君の考えていることは、おそらく正解だ。王女の護衛をしていた者たちは、生き残りである私たちを探している」
「えっ!?」
クウデリアが驚きの声をあげる。
「どういうことですの?」
まだわからないクウデリアにリアさんが説明を始める。
「エルリック王子の手の者が、王女を囮に使って、騎士の生き残りがダンジョン内にいないか確認しに来たのだと思います」
「何で私ですの?」
「まあ、聖女とまで名高い回復魔法の使い手のクウデリア王女なら、この辺りの階層で魔物に襲われたりしても、そう簡単に死にはしないし、かといって逃げられたりするほど身体能力や戦闘能力が高い訳じゃないですもんね」
回復魔法の連発で魔力切れをするっていうのは不測の事態かもしれないけど、王女の命がどうなろうと最悪は構わないということなのだろう。
回復魔法しか使えない王女がダンジョン内に1人でいて、それを見過ごせる騎士がいるとは思えない。
リアさんのお父さんなんかについても言えることだけど、権力や欲にまみれ過ぎた上の騎士より、下にいる騎士のほうが、騎士というものに誇りをもって王国に仕えている者が多い印象だ。
もし、生き残りの騎士がいれば、高い確率でクウデリア王女を保護することだろう。
今回の僕たちみたいに。
里の中のコボルトたちが騒ぎだす。
「アルル、来たみたいだぞ」
「行きましょう、リアさん。王女はここにいてください」
僕とリアさんはコボルトの里の入り口に駆け出した。
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