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置き去りにされる僕

 なんとか30階層の毒エリアを抜けたバカ王子エルリック一行だったが、その先31階層エリアはヤバかった。


 灼熱の溶岩地獄。

 狭い道の迷路の両端をグツグツと溶岩が生き物のように蠢いている。

 ただし、ヤバイのは溶岩だけじゃない。

 ダンジョンには各階層に階層主と言われる魔物がいる。

 移動型や固定型、知性の有無や数なんかも各階層によって異なっている。


 ここ31階層以外でも階層主と言われる魔物と何度か遭遇し戦闘があった。

 その時はなんとか勝利を納めてきたエルリック一行だったが、ここ31階層でも運悪く移動型で大型の階層主と遭遇戦になる。

 ここの階層主は火竜。

 火竜は2階建ての建物くらいの大きさはあり、完全に僕たちを獲物として捕捉している。



「かかれー」



 バカ王子の号令で戦闘が開始されるが満身創痍の騎士たちの簡単に勝てる相手じゃなかった。

 火竜の猛攻に1人、また1人と騎士たちが倒されていく。

 バカ王子の指示で何人かの騎士たちが囮になり、なんとか火竜から逃げられたものの、これ以上ダンジョンを攻略することは誰の目から見ても無理な状況だ。

 さすがのエルリックも、このままでは自分の命に危険が及ぶと考えたようで、苦虫を噛み潰したような顔をしている。



「ちっ、さすがの俺様も今回はここまでか」


「この短期間に31階層到達なら十分立派な成果かと、それでは撤退します。脱出用の転移珠を使用する許可を」


「いいだろう」



 セレーナの提案をバカ王子が受け入れる。

 そんな2人に生き残りの騎士たちが悲壮感溢れる視線を向ける。



「殿下、私たちはどうすれば」



 この世界の転移珠は基本的には少人数用だ。

 僕の他にも生き残りの騎士さんたちは、まだ数十人はいる。

 このバカ王子やセレーナが、他の者たちの分の転移珠を用意していないことは、もちろん騎士たちもわかっていた。

 だが、確認せずにはいられなかったんだと思う。

 そんな騎士たちにエルリックが嘲笑を浮かべ語りかける。



「その足は何のために付いておるのだ。お前たち不甲斐ない騎士どもは自分の足でかえってくるがよい。鍛え直す手間も省けて丁度いいだろう」



 なるほど、なるほど。



「じゃあ、鍛え直しとか必要ない一般人で医術士見習いの僕は一緒に連れて帰ってもらえるんですか?」


 僕は空気を読まずに口を挟んでみた。

 どうせ、僕の分なんてあるわけないけど、ここで終わるかもしれない命なら、いちいち気なんか遣わなくていいよね。

 そんな空気も読まずに口を挟んだ僕にバカ王子は汚物を見るような視線を向けてくる。



「バカを言え、何のために荷物持ちに下賤な市中の者を呼んだと思っている。いらん荷物と共に捨てていっても惜しくはないためであろうが」



 まあ、そんな理由だとわかっていたけど、まさかそのまま言われるとは思っていなかった。

 うん、こいつは腐った王族の中でも飛びっきりのクズだな。

 僕も最初に提案された報酬が良かったから参加したけど、バカ王子の性格がここまで悪いとわかっていたら、絶対に断っていた。

 失敗したな。



「それでは王宮で待ってるぞ。あっ、言っておくが俺より戻るのが遅かった者は全員クビだからな」



 最後まで無茶振りをするバカ王子。

 ここはダンジョンの31階層。

 数日かけてここまでやってきたのに、転移珠で脱出する王子たちより早く戻れるわけはない。



「【転移】」



 エルリックとセレーナが、転移でダンジョン外に脱出する。

 僕たちは置き去りにされてしまった。



「くっ、どうせここにいても先はない。我々も地上へ戻る道をいくぞ」



 今回の探索のリーダー格の騎士さんが動こうとする。

 そこにさっきの火竜がやってきた。

 遠慮なんてなしにブレス攻撃を繰り返す火竜。

 僕の隠れる岩場の近くも何度かブレスが通り抜けた。

 当たってもいないのに、その熱量だけで、僕の体がチリチリと焼けそうになる。

 うん、当たったら僕なんて簡単に死ぬね。

 そんなことを考える僕のところに1人の騎士さんがやってくる。



「君も貧乏くじをひいたものだな」


「騎士の皆さんほどじゃないですよ。あのバカ王子の相手を毎日するなんて超絶任務、僕には無理そうです」


「あんなのでも一応は主なのでな。せめて君だけでも助けて見せるさ。騎士の誇りにかけて」



 なんだろう、カッコいいんだけど、少し切なくなる。

 僕なんかに生かしてもらう価値があるんだろうか。

 戸惑っていると他の騎士さんたちがやって来た。



「それいいですね。この子を生き残らせることができたら俺たちの勝ち、その方が目標があって面白そうです」


「アトムさんが、そういうなら俺たちも参加させてもらいますよ」


「さあ、死ぬための戦いではなく、生かすための戦いだ。最後まで気を抜くなよ」


「「おうっ!」」


「僕も微力ながら協力します」



 僕は麻酔薬や痺れ薬なんかを死角から投げたりして援護する。

 火竜にどれだけ効果があるかわからないけど、少し気を反らすくらいにはなるし、ないよりましだろう。

 出発前に支給されていた回復促進の薬や高価なポーションなんて、とっくに上層を抜けるまでに使い果たしていたし、新たに調合する時間も材料もなかったから、僕にできることはこのくらいだ。

 結果として死を覚悟して捨て身で挑んだ騎士さんたちは火竜に勝てはしたが、援護に回りながら逃げ回っていた僕を除いて全滅してしまった。

 僕もなんとか生きてはいるけど、当然無傷というわけにはいかない。

 なんか戦いの中、幻聴なのか頭の中でいろいろ声がしていた気がするけど、無我夢中で全然聞いている余裕がなかった。



「ん、なんか能力が身についてる?」



 いつの間にか僕は能力を獲得していたらしい。



「これからどうしようかな」



 手持ちの道具も体力もほとんど使い果たしたし、火竜という脅威はなくなったとはいえ、残されたのはいつの間にか獲得していた《毒耐性(手)》、《炎熱耐性(手)》って、よくわからない能力だけだった。




読んでくださり、ありがとうございます。


まだまだ短い文章なのにブックマークや評価してくださった方もいて励みになります。

m(_ _)m

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