魔狼ポルン
夜と闇の支配する49階層。
黒い狼のような姿の魔狼と化したポルンが僕たちと魔王の間に降り立った。
黒い禍々しい毛並みに凶悪な目。
元のポルンの面影はない。
「ポルン……」
ガァァァアア
変わり果てたポルンに声をかけてみたけど僕たちに鋭い爪で襲いかかってきた。
サラが転移で回避してくれてなければ、大怪我をおっていたかもしれない。
ダンテはポルンの攻撃をくらって身体が上下に分断されている。
ポルンはその直後、魔王に黒い雷を飛ばして魔王の肩口を吹き飛ばす。
「本当に今のポルンには敵味方ないようだな。アルル、俺様の《怠惰上手》でポルンを眠らせるから、さっさと神の手(仮)で戻してしまえ」
僕のそばで復活したダンテがそんなことを言っているけど、ポルンの攻撃が早すぎて、ダンテの能力発動の前にダンテが肉片になっているんだけど。
時間が少し稼げればダンテが言ったことも可能そうだけど、今はその時間も稼げない。
見ると、僕とダンテが結果として時間を稼いだおかげで魔王の傷も治っている。
なんかずるい。
「これだけの一撃を放てる存在は部下として大歓迎です。私を傷つけたことも不問としましょう。ただ、少し扱いやすいように手綱はつけるくらいはさせてもらいましょうか」
魔王の手に闇色の輪が生まれる。
それが次第に大きくなって、ポルンの首に首輪のように装着される。
「私とこの子は直接繋がりました。これで、あなたは私のもの」
首輪から魔王の手へと細い光の手綱が伸びている。
ポルンの瞳から狂気も理性も消える。
あれも能力だとすると反則過ぎるんだけど。
でも、ダンテの《怠惰上手》も強制的に眠らせることができるし、魔王の《色欲の移し身》も何か強制的に支配できる能力があっても不思議じゃない。
「いきなさい」
ポルンが、魔王の命令で僕とダンテを襲う。
晶氷姫の瞳で対応したいけど、多分僕の腕の振りより、ポルンの移動速度のほうが早い。
突き出した右手の上腕から肩口をやられでもしたら、クウデリアの回復魔法も間に合わずに普通に死んでしまう。
「ねえ、ダンテ」
「なんだ、アルル」
「ポルンを魔槍アメージスで串刺しにできる?」
「なっ!?」
誰よりも優しく、誰も傷つけないように戦っていたダンテに、こんなことを頼むなんて僕も人が悪いと思う。
でも、僕の身体能力じゃポルンに触ることもできないし、魔王の影響を受けて魔狼になっているポルンに神剣リア・ウィリアムを突き刺すと、最悪そのまま消滅しそうだ。
「必要なのか?」
「うん、ポルンを助けるためにも魔王を助けるためにも。今が魔王を倒す最大で最後のチャンスだと思っている」
「魔王を助けて倒す、か。アルルらしいな。…………いいだろう。ポルンを魔槍のさびにしてくれるわ」
「いや、もちろんポルンも殺しちゃダメだからね」
ダンテは「わかってる」と言い残し、行動を開始する。
ほんとかなと思うけど、そこはダンテを信じるしかない。
ポルンの前で槍を構えるダンテ。
魔王はまるでポルンの飼い主のように手綱を握り立っている。
…………。
なんだろう、なんか嫌だ。
ポルンは僕たちの仲間で自由で対等な関係だ。
そんな僕の気持ちを代弁してくれているようにダンテが怒りの籠った声で魔王を挑発する。
「クローゼス、相手をしてやる」
「ダンテお兄様には退場してもらいます」
読んでくださり、ありがとうございます。
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m(_ _)m




