魔王とダンテ
夜と闇の支配する49階層。
半壊の魔王城の前に僕とダンテはいた。
僕らの目の前には、小さな女の子とその子の両脇に膝をつく100名近くの魔人たち。
この金髪を長く伸ばし、赤と青の瞳の幼く見える少女がクローゼス。
今回、ダンテの目的の魔王だという。
「久しぶりだな、クローゼス」
「本当に、ダンテお兄様」
ダンテと魔王、2人の視線が交差する。
穏やかともいえる空気感だけど、仲がすこぶる良いとは言いがたい不思議な感じだ。
っていうか、ダンテと魔王は兄妹だったの!?
昔馴染みとは聞いていたけど、そんな関係だとは思っていなかったんだけど。
あれ?
でも、今でこそダンテは十代後半くらいに成長してるけど、元々は6歳くらいの外見だったはず。
10歳くらいに見える魔王のほうがダンテの妹っていうのは少し意外な感じだ。
「ねえダンテ、ダンテがお兄様って、どういうこと?」
「その言葉通り、クローゼスは俺様の妹なのだ」
う~ん、ダンテの説明だけじゃ、よくわかんないな。
そんな僕の疑問を解決してくれたのは魔王だった。
「誤解のないように言っておきますが、私とお兄様は血は繋がっていません。私たちは共通のバンパイアに眷属にされた者であるのです」
なるほど。
バンパイアに吸血された順番で序列が決まるっていうなら、元のダンテより魔王クローゼスのほうが年上に見えるのも納得だ。
「父上か、懐かしいな」
「本当に。あの人がいたから、今の私があると言えるのですしね」
「いや~、人間だった俺様を眷族にしたのはともかく、魔族で、しかも王族であったクローゼスを眷族にすると言い出したときは、破天荒すぎる父上だとは思ったがな」
「たしかにいきなり城に乗り込んできて、『お前、不自由そうだな。俺の子になって自由にならねえか?』と声をかけられたときは驚きましたし、他人からしたら迷惑な父でしたでしょうね」
ダンテとクローゼスが、ありし日の父親との思い出を脳裏に浮かべながら苦笑いをしている。
え~と、クローゼスは元魔族でダンテは元人間。
種族も関係なしに眷族にしまくるなんて、すごい人っていうか、めちゃくちゃな人だと思う。
でも、ダンテと魔王の共通の父親であるバンパイアは、今はもういない。
だけど、ダンテと同じく不死族であるなら、死ぬことはないし、なんでいなくなったんだろう。
「お兄様は、どうして、ここへ。……というのは無粋な質問なのでしょうね」
「そうだな」
「お兄様は、私の行為を止めるのですか?」
「そうだな。それが兄である俺様の義務だと思っている」
ダンテが魔槍アメージスを魔王に向ける。
「お前が魔王を宣言して神に挑むなら、俺様は勇者にだってなれるんだ」
「ふふふ、やってくるとは思っていましたけど、本当に勇者にまでなっているのは意外でした」
「そこにいるアルルのおかげだ」
「アルルというのは、そこの者のことでしょうか? たしかに得体の知れない気配と素晴らしい剣をお持ちのようですね」
「俺様の大事な友だ」
「お兄様の友を害するのは気が引けます。私のお仲間になっていただけませんか?」
魔王クローゼスから僕に不可視の力が殺到する。
多分、これが魔王の能力効果の1つ。
でも、それについては僕も原初の存在のサラに頼んで対策済みだ。
僕の黒い右手が力を帯びる。
それで、僕に殺到していた魔王の誘いの力が霧散する。
「無理。折角の可愛い女の子の誘いなんだけど、僕はダンテの味方をするって、もう決めてるから」
「邪魔するなら、やはりお兄様共々やるしかないようですね」
魔王は静かな悲しみと共にそう宣言した。
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