ゾンビ
夜と闇の支配する46階層。
僕たちはダンテの屋敷に滞在させてもらっていた。
翌朝、ダンテやアメージスは手下を集めると言って出掛けてしまった。
屋敷の周りには不死族に属する魔物たちが闊歩しているが、ダンテが僕たちのことは襲わないようにと命令しているので、気にせず外出も可能だ。
僕たちは屋敷のバルコニーから、外を目的もなくのそのそと歩く魔物たちを眺める。
「アルル、本当にあのゾンビやゴーストで魔王たちに勝てるのだろうか?」
「まあ、リアさんが心配している通り、普通に考えたら無理でしょうね」
「やはりそうか」
「ダンテたちには言ってないですけど、リアさんやクウデリア様の能力を考えても、ただの魔物じゃ何匹集めても魔王相手では意味はないと思います」
一応原初の存在のサラにも確認したけど、《色欲の移し身》は最古に存在した悪魔の1柱の能力を再現できるという話だった。
悪魔の能力の再現。
どれだけ強力な力なんだろう。
「このまま放っとくのか?」
「いえ、魔王を止めたいのは本当ですし、ダンテに協力しますよ」
「どうやるんですの?」
「僕としては、今いる魔物たちを改造して強くしてみようかと思ってます」
「そんなことが可能ですの(なのか)!」
僕の言葉にリアさんとクウデリアが同時に驚く。
そんなに驚くことかな?
僕はポルンを指す。
「ポルンも能力で人狼状態になっているとはいえ、元はコボルトですからね。僕の神の手(仮)の能力なら強くすることは可能だと思いますよ」
「まあ、ただの人間だった私を神剣にしたくらいだし、可能なのかもしれんな」
「階層主の情報さえ弄ることができたんだから、弄れないことはないと思います」
都合がいいことにダンテは不在で、もし失敗してもバレることはない。
魔物たちも従順で大人しい。
これほど好条件が整っていたらいけるだろう。
(サラも協力してくれる?)
『よかろう、我の銘版に刻まれし者を顕現させてやろう』
なんだろう。
原初の存在のサラがすごいやる気になっている気がする。
そういえば、リアさんたちの能力を進化させるときにも率先して動いてくれて、サラサラっと上位の能力に書き換えてくれていたから、実はこういうのがけっこう好きなのかもしれない。
リアさんたちの仕上がりを考えると多少自重しないところもあるみたいだけど、今回の相手はかりにも魔王を名乗っている。
しかも、最古の悪魔の能力の1つも持っているとわかっているなら、今回は油断も慢心も自重も必要ない。
(サラ、最高傑作を頼むよ)
(任せよ)
こうして、僕は神の手(仮)を発動させ、手近なゾンビを改造していく。
まだ誕生してそんなに時間が経っていないようで、ゾンビは階層主どころか初期のポルンと変わらないくらいの情報量だ。
ここにサラが情報を追加修正していく。
なんだろう。
すごい勢いで情報が書き換えられつつ、情報量があり得ないくらい膨れ上がっていっている。
「……自重するなとは言ったけど、なんか、すごいのが出来そうなんだけど」
「これは、味方……なんだな」
「そうじゃなかったら、大変な脅威の誕生ですの」
「強そうポル」
かつてゾンビだったものから放たれる威圧に、リアさんとクウデリアが緊張感のある声を発し、ポルンも人狼状態であるのにグルルと警戒してうなり声を上げていた。
『完成だ』
黒い執事服を身につけた一見して人間のような外見の魔物が誕生する。
僕は情報を読み取ってみる。
…………って、不死族だった種族が悪魔族ってなってるんだけど!?
え~と、ゾンビをどう弄くり回したら悪魔になるの?
しかも、その悪魔からはすごい圧力のような高位の力を感じる。
魔王は悪魔の能力を再現出来るみたいだけど、サラは悪魔そのものを再現してしまったようだ。
僕はやってしまったかもしれない。
読んでくださり、ありがとうございます。
まだまだ拙い文章なのにブックマークや評価してくださった方もいて励みになります。
m(_ _)m




