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29階層

 僕とリアさんは、29階層にやってきた。

 29階層は草原と森のエリアだ。

 見渡せないくらい広大な草原のあちらこちらに、大小さまざまな森が点在している。

 川も流れ、風も流れ、空気が澄んでいる。

 毒エリアの30階層や灼熱地獄の31階層とはえらい違いだ。

 リアさんもフルプレートメイルの兜を外し、久しぶりの美味しいと感じれる空気を堪能している。



「風が気持ちいな」


「ほんとそうですね。僕たちはちょっと前まで、まさか生きて風を感じれるようになるなんて思えない状況でしたから」


「それで我々はどうする?」


「ここの階層にいる武器を持っていそうな魔物は、小鬼、大鬼、犬頭人、豚頭人ですかね」



 小鬼ことゴブリンや大鬼オーガは棍棒を使っていることが多いし、サイズがリアさんと違いすぎる。

 豚頭人ことオークは槍や斧を使ってくることが多い。

 ということは、消去法で犬頭人こと、コボルトが今回の目的ということでいいんじゃないかと思う。



「リアさん、今回はコボルトの武器を狙うっていうことでどうでしょうか?」


「ふむ、それで問題ないと思う」



 リアさんの了承もあり、僕たちの行動方針が決まった。



「早速始めますか?」


「アルル、行動を開始する前に1つ、わがままをいっていいか?」



 リアさんから、わがまま?

 珍しい。

 でも、時間はあるし、食料もこのエリアなら森で木の実や他の物も採取できて、とくに問題はない。

 リアさん自身から言い出したことだけど、この1週間、過酷なエリアで僕に付き合ってくれていたんだし、ちょっとくらいのわがままなんて喜んできいてあげたい。



「リアさん、どうぞ言ってください」


「ふむ、川で水浴びをしたいのだが、いいだろうか?」



 なるほど、リアさんは騎士とはいえ、若い女性。

 これだけ長いこと水浴びをしなかった経験はないだろう。

 川もあり、急ぎの用もなければ僕のほうに拒否する理由はなにもない。



「いいですよ」と僕は笑顔で了承する。



 僕たちは川の近くまで移動する。

 手近な岩もあるし、1番近くの森までも少し距離がある。

 ここなら安全に水浴びができるだろう。



「リアさん、僕はこの岩影にいるんで、ゆっくり水浴びしてきてください」


「……いや、だめだな」



 リアさんから、まさかのダメ出し。

 ちゃんと見えない場所に移動するし、何がダメなのか僕にはわからない。

 恥ずかしいから、もっと離れてほしいとか?



「アルル、君はここにいてくれ」



 リアさんから指定されたのは、川から見通しのいい場所。

 ここなら水浴びするリアさんから僕が丸見えってことで、言い換えれば僕からもリアさんが丸見えってことに。



「えっ、ちょっ、何いってるんですか、リアさん」


「? アルル、何を慌てているのだ。たしか、このエリアにはワームなどの地中から音もなく襲ってくる魔物もいただろう」


「そうでしたね」



 土潜虫ことワームは土の中から襲ってくる厄介な魔物だ。



「さすがに地中からくる魔物に君の手の耐性で何か抵抗できるとは思えん。だから、君には私が見守れるところにいてほしいのだ」


「……わかりました。その代わり、僕は見張りもかねてリアさんのほうに背を向けとくってことでお願いします」


「ふむ、それで問題はない」



 リアさんの僕を心配してくれる気持ちは嬉しい。

 でも、気恥ずかしいのも事実だ。



「では、準備をして水浴びを始める。手短にするから、そうは時間がかからんと思うが、何かあればこちらを向いて声をかけてもらってもかまわない」


「もし、そうなったとしても逆を向いたまま声をかけさせてもらうんで大丈夫ですっ!」



 僕は思わず大声で返してしまった。

 医術士見習いとしての治療のために必要とかならまだしも、必要もないのに女の人の体をみるのは罪悪感が容赦ない。



「そこは君の好きにしてくれ」



 僕のすぐ後ろで、リアさんが鎧を外す音がして、その次に衣擦れの音が聞こえる。

 やがて水に入り、体を清める音まで聞こえてきた。

 もし、この状況で何か危険な事態が起これば、僕を守る騎士の役割をまっとうしようと、リアさんは裸のままでも武器を手に取り対応してくれるだろう。

 医術士見習いの14歳の僕にそんな状況は刺激が強すぎる。



「何も起こらないといいけど」



 そう願わずにはいられなかった。


読んでくださり、ありがとうございます。


まだまだ短い文章なのにブックマークや評価してくださった方もいて励みになります。


随時、誤字の修正や文の微調整が入り申し訳ありません。

まだまだ続くと思うので、お付き合いいただけたら嬉しいです。



m(_ _)m

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