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ブラック・ボックス  作者: 久河シセイ
第一章 舞い降りた白姫
1/3

プロローグ

それは一夜いや、一日にして起きた事だった。

なんの前触れもなく、ロシアのある地域の森林が消え去った。

そう、“消え去った”のだ。

焼き払われたのなら、燃えかすが残ったり燻る火が煙を上げたりするだろう。

伐採されたのなら、切り株が残ったり下草が残ったりするだろう。

しかし、消え去ったのだ。燃えかすも煙も切り株も下草も残さず、森林のあった場所は剥き出しの地面のみを残して完全になくなった。これを消えたと言わずなんと言おうか。

その事に気付いた各国の政府は、初め『バカな』と鼻で笑った。どうせ観測した人工衛星のバグだろうと。そして他国に依頼した。

『機密保持の観点から言って難かしいのは分かるが、どうか衛星による観測データをある一帯の分だけ貰えないだろうか』と。

しかし衛星を持つ国の反応はどこも同じだった。『本国の衛星に関するデータは渡せない』

当然だ。もし、他国に衛星にバグが発生していることが露見すればどうなるか分かったものではない。

各国政府がどうにかして観測データを貰おうとしてから数十時間経過した頃だろうか、対応に追われていたある国の官僚が痺れを切らしてしまい、対応中に口を滑らせた。『本国の衛星データにバグが生じている』

相手国の官僚は聡い人間だった。口を滑らせた官僚に対し間髪入れず問いかけた。

『もしやそれはロシアの一部地域の事ではないだろうか、こちらの衛星もその地域一帯に関する観測でバグが生じている』

この官僚同士の会話は、国防・国益という観点から大きく逸脱し、ともすれば重罪に該当する可能性すらあった。しかしこの官僚達によって事態は大きく進展する。



数日後、緊急国連総会で事態解明が急務とされ、これが可決された。

アメリカは、敵対国たるロシアの粗探しをするため。

安全保障理事会各国は、新兵器ないしはそれに準ずるものがあるのではという不安を抱え。

ロシアは、他国からかけられている容疑をはらすため。

そんな各国の思惑を孕み、調査団が派遣が決定した。


調査はつつがなく進行した。土壌の成分分析、森林の消えた範囲、空気中放射線量の測定、あらゆる可能性を考えた調査分析が行われた。

しかし、何も出ない。何もかもが正常範囲内であった。

オンラインで上がってくる調査報告を見た国連・各国政府は首をひねりつつ、こう考え始めた。人智を超えた力が働いたのではないか?神・宇宙人とにかくなんでもいい。今の我々には解明できない何かが起きた。その考えが“突拍子もない話”と、バカにできない雰囲気が関与している人間たちに蔓延し始めるのにそう時間はかからなかった。

そして調査団が報告に帰るため引き上げる日、またしても不測の事態が起きた。

空港に向かっていた調査団と連絡がつかなくなったのだ。

即座にロシアは軍を出動させた。

これ以上あらぬ嫌疑をかけられても困る。なんらかの報告をさせないための口封じだと思われても困ると。

幸い近くに基地があった事から、連絡がつかなくなってから20分以内に現地に部隊は到着できた。

到着したという報告を受けて数分経った頃だろうか、ノイズと銃声、そして悲鳴の入った通信とともに今度は現地に派遣された部隊との連絡も取れなくなった。


すぐさまロシアは国連に軍の通信ログを開示した。

その2時間後国連緊急総会が開かれた。

アメリカ代表は議論が開始してすぐに自作自演と口封じだと糾弾した。

ロシア代表が反論しようとした時、会議場の扉が勢いよく開かれた。

『緊急事態です!偵察部隊を派遣したロシア軍基地が衛星観測上から消えました』

駆け込んできた国連職員の声に一同は顔をしかめた。各国の代表達は様々なことを考えたが共通して考えていることがあった。

“消えた”

そう、またしても消えた。

しかし、今回は前回と違い、衛星は何が起こったのかを捉えていた。そしてそれは、軍基地という広大な敷地が、建物こそあれ平坦な土地であったことによる。ロシアにとっては不幸中の幸い、いや不幸中の不幸であったと言える。


衛星の観測した映像に映っていたのは、何かわからない黒いもの。それらはものの数分で基地を更地に変えた。誰もが目を疑いたくなるような映像。CGではないかと疑問の声を上げる者、神に祈る者、各国代表の反応は様々だった。


数日後、国連はこの黒い物体をUM(Unknown Material )と仮称。調査をロシア軍に依頼した。


その後、ロシア軍はUMをUB(Unknown Beast)と再仮称する旨を国連に報告した。UBと交戦し、生き残った兵士からの証言により、生物らしきものであった事が確認されたからである。


こうして、UBとの戦いは始まった。





「くだらない」

そう呟くと、私は読んでいたオカルト情報誌を机の上に放り投げた。

『UBとは何なのか?徹底解説!』と書かれたタイトルが目に入り、ますます頭が痛くなった。見ているだけで知能レベルが下がりそうな文言である。

確か生態系の学会では、未だにUBなどという存在は認められていなかった筈だ。それ以前に、目撃証言だけで生物種が存在することの証明にはならなかった筈である。

「あの〜…教授。」

「まさかとは思うが、これについて何か意見が聞きたいとかいう訳じゃないだろうね?」

返答は、沈黙によって返された。

机の上にある、『ワンダーランド』と書かれたオカルト情報誌を彼に突き返す。

「いいかな?いつも私が言っているように、科学的根拠のないものは信用してはいかん。君は理系の、しかも生物学科の学生だろう。」

「ですが、ロシアの森林地帯がなくなったのは2215年と2216年の衛星写真を見比べれば事実です。」

堂々と、しかも断固たる意志を持った瞳で私を見つめ返してくる学生。

「だとしても何か別の要因があるかもしれんだろう。それをいきなりUBだなんだと言い出すのは論理の飛躍と言うものだ。」

段々と返答を返すのも馬鹿らしくなってきた。さっさと論文の続きを書きたい。

「その上、地理生態学講座や環境学講座に話を聞きに行くならば100歩譲って理解できるが、うちは動物進化学講座だ。見当違いも甚だしいぞ。」

「…すみません」

申し訳無さそうに、だが少し不服そうに頭を下げる学生。

「もういいから、行きなさい」

はい、と聞こえるか聞こえないかの声で呟いた彼は退出した。

地理生態学か環境学、もしくはその両方の教授には迷惑をかけることになったかもしれないと思いながら私は意識を書きかけの論文に戻した。





はじめまして。久河シセイと申します。


ブラック・ボックス、プロローグいかがでしたでしょうか?


このプロローグ、架空の雑誌記事の内容が全体6割程を占めています。

この作品の根幹をなす設定という点から迷った末にこのような形とさせていただきました。


第一話は数日中には公開させていただく予定なので、もし『面白い』・『続きがきになる』と思ってくださった方がいましたらブックマーク、評価、感想などよろしくお願いします。

皆様の応援が力になります。



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