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朝陽

作者: 奄美なみ


盲目の彼女は、よく“明るいね”という。彼女には、明るさも暗さもわからない。でも彼女はいつも、そういうのだ。僕にはそれがわからない。きっと彼女にしか見えない世界があって、それは僕には一生知ることのできないもので、僕たちがいくらお互いを愛し合っても、理解できないものなのだと思っている。ある日彼女は、僕とキスをしている間に、その言葉を放った。少しわかったような気がした。彼女の心を照らす光のような存在を感じたとき、彼女は明るいと思うのかもしれない。明るさを知らないという事を僕はわからない。理解することができないから、その言葉を聞くと、喉が痒くなるような、耳の奥が痛くなるような、そんな感覚になる。でも彼女はいつも、その言葉を放ちながら、楽しそうにほほ笑む。


僕は昨日、彼女に明るさを知ってもらうために、いつもデートをする場所へ、朝に行こうと思った。デートをするのはいつも夜で、それは彼女が提案したことだから、僕は理由もわからぬまま夜の街を彼女と歩く。彼女はいつも暗い中で、明るいね、というので、僕は明るい時間帯に彼女を家から連れ出してみたがった。彼女は僕の提案を快く受け入れ、そしていつものように笑った。彼女の心の目は、今どんな表情をしているのだろうと思いながら、その受け入れを僕は喜んだ。彼女は僕の頬を優しく手で包むと、ありがとう、とつぶやくように言った。


その朝、彼女はデートに来て、こういった。“今日は少し暗い感じがする”。僕にはわからない。こんなに天気が良い日に外に出て、ふたりで川辺を歩いているというのに、彼女は暗いと感じている。僕はなぜ暗いのか問うてみた。でも彼女は、それに微笑むだけだった。

彼女を誘導するために手を取る。いつものように彼女は僕の左手首をやさしく包むように掴みながら歩く。そして僕の傷を感じる。僕には彼女に言わなければならないことがたくさんあるのかもしれないし、ないのかもしれない。彼女はただその傷を受け入れて、こうして優しく擦ってくれるだけだ。だからいつも、僕はそれ以上を口にしない。口にしたら何かが変わってしまうような気がして怖いのかもしれない。彼女はまだ、あの言葉を口にしない。

その代わりに彼女は、僕の新しい傷を指で見つけて、やさしく撫でる。“今日はとても暗いんだよ、きっと、外は明るいんだろうけれどね”と言いながら。僕にはその言葉の意味が分かる。彼女はいつも、僕の中に明るさを見つけていることを、僕は知っている。でも僕はそれをわかりたくないだけだ。

“今日は明るいんだよ、とても、とてもきれいな朝日が見えているんだ”僕はつぶやく。彼女には見えない朝日を目に焼き付けながら、彼女の横顔を見る。“なぜ泣いているの?”僕は彼女の頬を伝う涙を拭いながら問うた。そして彼女は、ゆっくりと手を離しほほ笑みながら言った。


“今日が、一番明るいのかもしれない、もし君がここにいたのなら”




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