79 俺が、二人のキサナティアお嬢様に困惑しているんだが
半身を起こしたまま、ベッドからこちらを見ている女の子の顔は キサナティアお嬢様に瓜二つだった。
違いと言えば、ベッドの上の子の方がキサナティアお嬢様より病弱に見える点だろうか。
「クリシティアちゃん、その子たちが、クリシティアちゃんを助けてくれた子たちなの?」
「ええ、そうよ、キサナティア」
クリシティア? キサナティア?
えっ? えっ!?
どういうこと?
「あらあら。ふっふっふっ、クリシティア、その子たち、混乱しているみたいよ」
俺の表情を見て取ったのか、ベッドの……キサナティア? お嬢様が……クリシティア? お嬢様に笑顔で語り掛ける。
ええ、まあ、確かに絶賛混乱中なんですけど。
「そうね。どう話せばいいかしら?」
「クリシティアお嬢様、私めの方から説明いたします」
ベーシウス様がそう切り出してきた。
「ええ、お願いするわ」
そうクリシティアお嬢様が言うと、ベーシウス様は俺たちの方に向き直り話し始めた。
「ある意味ではフォルト君とリノアちゃんが、ラドンツの月の双子女神エボーナ神とボニーナ神の教会に呼ばれたことと、同じ事情がかかわっているんだよ。クリシティアお嬢様とキサナティアお嬢様は、見ての通り双子でいらっしゃる。神託や加護は授かっていないものの双子ということで、聖女となれるその可能性を持っていることになる」
「俺……僕は男なんですけど」
「その場合は『聖人』となりますね」
ヒューク司祭が補足してくれた。
「教会で話は聞いているだろうが、このドーザリブ王国には長く聖女と呼ばれる存在が表れていないんだよ。そしてそれをこの国の教会は気にしている。そのため、可能性のある子供を手あたり次第確認しているってことだ」
「それは聞いてわかりましたけど、それと二人のお嬢様が入れ替わっているような真似をしていることと、どう関係があるんですか?」
「聖女と呼ばれる存在はそれ相応の権力を有することになる。そして、他にも候補がいる。その周りの人間から見れば、他の候補は目障りでしかない存在となるわけだ。そして、お嬢様方も狙われている。特に御身体の弱いキサナティアお嬢様が……。そこで、クリシティアお嬢様は自分が囮となって保養地に行き、そいつらをおびき寄せようとしたわけだ。あとは皆が知っての通りだよ」
(そんな無茶な!)
ヒューク司祭の問に答えたベーシウス様の言葉に、思わず心の中で盛大に突っ込みを入れてしまった俺。
両方共に狙われていることには変わりないんだからさ。
それとも病弱なキサナティアお嬢様より、自分の方がなんとかできると思ったのだろうか?
クリシティアお嬢様を見る。
それにしても、俺のことといい、本当に手あたり次第だな教会。
それだけ、焦っているというか、なりふり構ってられない状況なんだろうけど。
月の双子女神エボーナ神とボニーナ神か……。
はっ!
混乱してて忘れるところだった。
俺は背負っていた袋から陶器の入れ物を取り出す。
この陶器の入れ物は、泊まっている宿の人に、事情を話して空いている容器で貰えるものはないかと尋ねたところ、そういうことならと快くくれたものだ。
「あっ、これ俺、じゃなくて私が持ってきたお土産のハチミツなんです。」朝、匙一杯のハチミツは病にも良いと聞いたことがあります。どうぞ」
ハチミツは前世でも免疫力が上がって風邪予防に良いとか、疲労回復に効果があるとかいろいろ聞いたことがあったけど、この世界でも同じような謂れがラドンツの村でも伝わっている。
前世では運動部に所属していたから、よく母さんがレモンのハチミツ漬けを作って持たせてくれたもんだ。
このハチミツ、どことなく前世、よく食べていたハチミツとは違う感じがするけど、空間収納の『福袋』のフォルダに『マヌカハチミツ』と書いてあったから、はちみつには違いないだろう。
そういえば、あまり気にしていなかったけど、蓋の上に『UMF30+』って書いてあったのってなんの意味があるんだろうか?
まあ、いいや。
深く考えてもこの世界でわかるわけもないし。
はちみつなんだから、変なもんじゃないだろう。
体の弱いキサナティアお嬢様にと持ってきたけど、本当のキサナティアお嬢様に使ってもらえれば良いと思う。
「これ、前に旅の途中であなたがくれたものね?」
「はい」
覚えていてくれたんだ。
なんか、ちょっと嬉しいかも。
「キサナティア、私も前に飲んだけど、病はともかく、気持ちは楽になったのは本当よ」
「すぐにご用意してまいりますね」
そういうとメイドのクレールさんが俺から容器を受け取り部屋を出ていく。
ほどなくして、クレールさんがコップに注がれたホットハチミツらしきものを持って、戻ってきた。
流石は本物のメイドさん、手際が良い。
「味見をいたしましたので、熱くはないかと思います」
多分、毒見は済ませたということだろう。
旅の途中、キサナ……クリシティアお嬢様の時には目の前ではっきりそう言っていたけど、今回は俺に気を使ってくれたんだろうな。
言い回しも変えてるし。
キサナティアお嬢様がクレールさんからコップを受け取り、コクリと飲んでくれた。
「おいしい」
良かった。
というか、この表情は前にキサナ……ああ、もう、ややこしい……クリシティアお嬢様が見せてくれた笑顔にそっくりだ。
こういうところは流石は双子、似るんだな。




