↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

75/79

75  俺が意識を取り戻し、その後の話を聞いていたんだが

 コンコンと扉(とびら)を叩(たた)く音がした。

「ベーシウスだ」

 続いて、聞き知った声がする。

「どうぞ」

 名乗った声に返すべく、ヒューク司祭が返事をする。

「やあ、フォルト、体調はどうだ?」

 扉(とびら)が開き、挨拶代(あいさつが)わりに、片手を軽く上げながらベーシウス様が部屋に入ってきた。

「大丈夫だと思います。気分も悪くないですし」

「そうか。それはよかった」

 キサナティアお嬢様(じょうさま)が、さらわれそうになっている所に、俺とリノアが出くわして、助けようとして後頭部を壁(かべ)に打ち付けられて気を失(うしな)ってから3日が経(た)っていた。

 ちょっと驚(おどろ)いたのは、俺が気が付いた時、最初に滞在(たいざい)していた宿屋(やどや)とは違う部屋になっていたことだ。

 俺でもわかるくらい、かなり豪華(ごうか)な部屋になっていた。

 なんでも、キサナティアお嬢様(じょうさま)の家の取り計(はか)らいだそうだ。

 貴族(きぞく)の邸宅(ていたく)に平民をおいそれと招(まね)き入れ滞在(たいざい)させることもできないが、さりとて、娘(むすめ)の恩人(おんじん)、しかも怪我(けが)をしてまで守った者をそのままにしておいては貴族(きぞく)の矜持(きょうじ)に関わるとのことで、宿(やど)を今までより良いところに替(か)えて、俺たちが滞在中(たいざいちゅう)の面倒(めんどう)を見てくれることになったらしい。

 俺が気を失(うしな)っている間に決まったことのようで、気が付いてからベーシウス様が教えてくれた。

 まあ、俺のイメージからして、「平民などのことは知らん」とかいう貴族(きぞく)が多そうなこの世界の中ではかなり配慮(はいりょ)してくれる貴族様(きぞくさま)のように思える。

 俺の頭の怪我(けが)はオルレライン司教とエメンズ司祭が来て、ヒューク司祭と共(とも)に見てくれたそうだ。

 この、オルレライン司教が出向いてくれるのも、かなり異例なことらしい。

 俺たちが協会側から招(まね)かれてきていたことと、貴族(きぞく)の依頼(いらい)によるものということで特別に来てくれたということだ。

 流石(さすが)というべきか、オルレライン司教はヒュー区司祭より高位の治癒魔法(ちゆまほう)が使えるそうで、おかげで俺の後頭部の怪我(けが)も後遺症(こういしょう)もなく、順調(じゅんちょう)に治(なお)っているとのこと。

 まあ、体の調子は実際に動いてみないとわからないけどさ。

 誘拐犯(あの男)に壁(かべ)にたたきつけられた時には、血みどろだったもんな。

 今この部屋の中には俺、オズベルト父さん、ヒューク司祭、そして今入ってきたベーシウス様の4人しかいない。

 リノアは何処(どこ)かに行っているようだ。

 まあ、居たら痛手、相変(あいか)わらず世話を焼(や)いてくれようとしてくれるんだけど。

 ここは自分の部屋と違って、オズベルト父さんやヒューク司祭も同室なので、ちょっといたたまれない。

 ……今更(いまさら)のことか。

 見知った者しかいないせいか、ベーシウス様は騎士然(きしぜん)とした態度ではなく、昔の冒険者仲間(ぼうけんしゃなかま)に接するような砕(くだ)けた態度(たいど)で、椅子(いす)にも反対向きに跨(また)ぐように座(すわ)っている。

 何となく、学生の休み時間って感じだな。

「今回の件はフォルトのおかげで、本当に助かった。改(あらた)めて礼を言う」

「俺は結局(けっきょく)、大怪我(おおけが)しただけで、何も役に立ちませんでしたよ」

「そんなことはない。子爵(ししゃく)の令嬢(れいじょう)が誘拐(ゆうかい)されたとあっては何も無く純潔(じゅんけつ)を保(たも)っていたとしても、将来(しょうらい)の婚姻(こんいん)に支障(ししょう)が出ていたかもしれないからな」

「へっ?」

「……まだ、フォルトには早かったな。すまんすまん」

 いえ、前世、高校生まで生きていたんで、いくら何でもそんなことはないんだけど。

 まあ、今は7才か。

「そんなもんですか?」

 俺が引っ掛かったのはそこじゃないし。

「ああ、路上で助け出されたのが大きい。僅(わず)かな時間だったとしても、建物(たてもの)に連(つ)れ込(こ)まれた時点で、あらぬ噂(うわさ)が立つ。そうなっては例え何もなかったとしても、世の中に純潔(じゅんけつ)である証明を立てるのはかなり困難になっていただろう。そうなっては貴族同士の婚姻(こんいん)に支障(ししょう)が出る」

 えっ、でも7才くらいだよ! 

「ですが、まだこどもですよ。身代金(みのしろきん)目当ということになるのではないですか?」

 ヒューク司祭も同じような疑問(ぎもん)を持ったらしい。俺が聞こうとする前に尋(たず)ねていた。

 ……っていうか、俺が質問しなくてよかった。7才児が純血(じゅんけつ)がどうのなんてこんな質問をしたら、何でお前がそんなこと知っているんだなんて突(つ)っ込(こ)まれたかもしれない。

「年齢(ねんれい)が重要なんじゃない。貴族の令嬢(れいじょう)の場合、未婚(みこん)の女子にとって、初婚(しょこん)で純潔(じゅんけつ)でない事が問題になるんだ。そう言った醜聞(しゅうぶん)は政敵(せいてき)の恰好(かっこう)の攻撃の材料になる」

 はあ、7才の女の子にまで、政敵(せいてき)を追い落とすために、そんな噂(うわさ)を流すのかよ。何なんだよこの世界はって、前世地球でもあったのかな?

「だからこそあの時、路上で助け出された事を必要以上に騒(さわ)ぎを大きくした。誘拐(ゆうかい)は未遂(みすい)に終わったと世間に喧伝(けんでん)するために。フォルト君の怪我(けが)も利用して申し訳ないがな」

「だから、野次馬(やじうま)まで呼(よ)び込(こ)んだわけか。揉(も)み消そうとして下手な鎮火をして後で火種が燻(いぶ)り続けるより、連(つ)れ去(さ)られそうになったが、すぐ路上で助けが入った事を広めるために」

 オズベルト父さんとヒューク司祭たちが、教会に知らせに来たエニム様の話を聞いて駆(か)けつけてくれた時には、かなりの人だかりができていたらしい。

 なるほど、警備(けいび)の兵士に教会まで事態(じたい)を知っているのであれば、下手な噂を流してダメージを受けるのは返って噂(うわさ)を流した方になるってことか。あの一瞬(いっしゅん)でそこまで思い付いたのは凄(すご)い判断力(はんだんりょく)だな。でも……。

「でも、それだとベーシウスさんが怒(おこ)られたりしないの?」

 俺は出来るだけ子供らしい質問にしながら聞いてみることにした。

 そう。それだと、間違(まちが)いなく責任問題(せきにんもんだい)が発生する。

「ああ、大丈夫だ。あの店は武骨(ぶこつ)な護衛(ごえい)が入れない代わりに、客の安全をうたっていた店だったからな。俺とエニムは外の馬車内で待機(たいき)していた」

「それでアレか?」

「ああ、それでアレだ。そういう意味ではこの件はかなり根が深いかもしれない。裏(うら)に何が有るかとか、黒幕(くろまく)は誰(だれ)だとかな……正直(しょうじき)、俺も専門外(せんもんがい)だ」

「でも、こんな高そうな宿(やど)に何泊(なんぱく)もさせてもらってもいいのか? パスレク村にまで帰りが遅(おく)くなる事の知らせまで出してもらって」

「ああ、それも気にしないでくれ。さっきも言った様に、世間に『未遂(みすい)』で終わった事を喧伝(けんでん)するための一環(いっかん)だ。本来ならフォルト君達を子爵家に招くべきなのだが、それだと話が内々(うちうち)になってしまうので、「子爵令嬢(ししゃくれいじょう)を誘拐犯(ゆうかいはん)から路上で救(すく)った恩人(おんじん)が泊(と)まっているのでよろしく頼(たの)む」ってことでな」

「なるほどな」

 しばらくの沈黙(ちんもく)の後。

 ベーシウス様は一呼吸おいてから、真剣(しんけん)な面持(おもも)ちに代わった。

「それから」

 声のトーンが下がる。

「捕まえた男だが、牢屋(ろうや)で何者かに殺された」

「口封(くちふう)じ、ですか」

 ヒューク司祭が、はっと息を吐(は)きだした。

「侵入者(しんにゅうしゃ)か? それとも内部の仕業(しわざ)か?」

「恐(おそ)らくは侵入者(しんにゅうしゃ)だ」

 ベーシウス様はきっぱり言い切った。

「何故(なぜ)、そう言い切れる?」

 その物言いにオズベルト父さんが訝(いぶか)しむ。

「男は牢屋(ろうや)の中でゾンビ化していたらしい」

「えっ!」

 思わず俺は驚いて声を上げていた。

 同時に、ある場面が脳裏(のうり)に浮(う)かぶ。

 ……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
>見知った者しかいないせいか、ベーシウス様は騎士しかとした態度ではなく、昔の冒険者仲間に接するような砕けた態度で、椅子にも反対向きに跨ぐように座すわっている。 スミマセン、[騎士しかとした態度]と言…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。