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75/79

75  俺が意識を取り戻し、その後の話を聞いていたんだが

 コンコンととびらたたく音がした。

「ベーシウスだ」

 続いて、聞き知った声がする。

「どうぞ」

 名乗った声に返すべく、ヒューク司祭が返事をする。

「やあ、フォルト、体調はどうだ?」

 とびらが開き、挨拶代あいさつがわりに、片手を軽く上げながらベーシウス様が部屋に入ってきた。

「大丈夫だと思います。気分も悪くないですし」

「そうか。それはよかった」

 キサナティアお嬢様じょうさまが、さらわれそうになっている所に、俺とリノアが出くわして、助けようとして後頭部をかべに打ち付けられて気をうしなってから3日がっていた。

 ちょっとおどろいたのは、俺が気が付いた時、最初に滞在たいざいしていた宿屋やどやとは違う部屋になっていたことだ。

 俺でもわかるくらい、かなり豪華ごうかな部屋になっていた。

 なんでも、キサナティアお嬢様じょうさまの家の取りはからいだそうだ。

 貴族きぞく邸宅ていたくに平民をおいそれとまねき入れ滞在たいざいさせることもできないが、さりとて、むすめ恩人おんじん、しかも怪我けがをしてまで守った者をそのままにしておいては貴族きぞく矜持きょうじに関わるとのことで、宿やどを今までより良いところにえて、俺たちが滞在中たいざいちゅう面倒めんどうを見てくれることになったらしい。

 俺が気をうしなっている間に決まったことのようで、気が付いてからベーシウス様が教えてくれた。

 まあ、俺のイメージからして、「平民などのことは知らん」とかいう貴族きぞくが多そうなこの世界の中ではかなり配慮はいりょしてくれる貴族様きぞくさまのように思える。

 俺の頭の怪我けがはオルレライン司教とエメンズ司祭が来て、ヒューク司祭とともに見てくれたそうだ。

 この、オルレライン司教が出向いてくれるのも、かなり異例なことらしい。

 俺たちが協会側からまねかれてきていたことと、貴族きぞく依頼いらいによるものということで特別に来てくれたということだ。

 流石さすがというべきか、オルレライン司教はヒュー区司祭より高位の治癒魔法ちゆまほうが使えるそうで、おかげで俺の後頭部の怪我けが後遺症こういしょうもなく、順調じゅんちょうなおっているとのこと。

 まあ、体の調子は実際に動いてみないとわからないけどさ。

 誘拐犯(あの男)かべにたたきつけられた時には、血みどろだったもんな。

 今この部屋の中には俺、オズベルト父さん、ヒューク司祭、そして今入ってきたベーシウス様の4人しかいない。

 リノアは何処どこかに行っているようだ。

 まあ、居たら痛手、相変あいかわらず世話をいてくれようとしてくれるんだけど。

 ここは自分の部屋と違って、オズベルト父さんやヒューク司祭も同室なので、ちょっといたたまれない。

 ……今更いまさらのことか。

 見知った者しかいないせいか、ベーシウス様は騎士然きしぜんとした態度ではなく、昔の冒険者仲間ぼうけんしゃなかまに接するようなくだけた態度たいどで、椅子いすにも反対向きにまたぐようにすわっている。

 何となく、学生の休み時間って感じだな。

「今回の件はフォルトのおかげで、本当に助かった。あらためて礼を言う」

「俺は結局けっきょく大怪我おおけがしただけで、何も役に立ちませんでしたよ」

「そんなことはない。子爵ししゃく令嬢れいじょう誘拐ゆうかいされたとあっては何も無く純潔じゅんけつたもっていたとしても、将来しょうらい婚姻こんいん支障ししょうが出ていたかもしれないからな」

「へっ?」

「……まだ、フォルトには早かったな。すまんすまん」

 いえ、前世、高校生まで生きていたんで、いくら何でもそんなことはないんだけど。

 まあ、今は7才か。

「そんなもんですか?」

 俺が引っ掛かったのはそこじゃないし。

「ああ、路上で助け出されたのが大きい。わずかな時間だったとしても、建物たてものまれた時点で、あらぬうわさが立つ。そうなっては例え何もなかったとしても、世の中に純潔じゅんけつである証明を立てるのはかなり困難になっていただろう。そうなっては貴族同士の婚姻こんいん支障ししょうが出る」

 えっ、でも7才くらいだよ! 

「ですが、まだこどもですよ。身代金みのしろきん目当ということになるのではないですか?」

 ヒューク司祭も同じような疑問ぎもんを持ったらしい。俺が聞こうとする前にたずねていた。

 ……っていうか、俺が質問しなくてよかった。7才児が純血じゅんけつがどうのなんてこんな質問をしたら、何でお前がそんなこと知っているんだなんてまれたかもしれない。

年齢ねんれいが重要なんじゃない。貴族の令嬢れいじょうの場合、未婚みこんの女子にとって、初婚しょこん純潔じゅんけつでない事が問題になるんだ。そう言った醜聞しゅうぶん政敵せいてき恰好かっこうの攻撃の材料になる」

 はあ、7才の女の子にまで、政敵せいてきを追い落とすために、そんなうわさを流すのかよ。何なんだよこの世界はって、前世地球でもあったのかな?

「だからこそあの時、路上で助け出された事を必要以上にさわぎを大きくした。誘拐ゆうかい未遂みすいに終わったと世間に喧伝けんでんするために。フォルト君の怪我けがも利用して申し訳ないがな」

「だから、野次馬やじうままでんだわけか。み消そうとして下手な鎮火をして後で火種がいぶり続けるより、られそうになったが、すぐ路上で助けが入った事を広めるために」

 オズベルト父さんとヒューク司祭たちが、教会に知らせに来たエニム様の話を聞いてけつけてくれた時には、かなりの人だかりができていたらしい。

 なるほど、警備けいびの兵士に教会まで事態じたいを知っているのであれば、下手な噂を流してダメージを受けるのは返ってうわさを流した方になるってことか。あの一瞬いっしゅんでそこまで思い付いたのはすご判断力はんだんりょくだな。でも……。

「でも、それだとベーシウスさんがおこられたりしないの?」

 俺は出来るだけ子供らしい質問にしながら聞いてみることにした。

 そう。それだと、間違まちがいなく責任問題せきにんもんだいが発生する。

「ああ、大丈夫だ。あの店は武骨ぶこつ護衛ごえいが入れない代わりに、客の安全をうたっていた店だったからな。俺とエニムは外の馬車内で待機たいきしていた」

「それでアレか?」

「ああ、それでアレだ。そういう意味ではこの件はかなり根が深いかもしれない。うらに何が有るかとか、黒幕くろまくだれだとかな……正直しょうじき、俺も専門外せんもんがいだ」

「でも、こんな高そうな宿やど何泊なんぱくもさせてもらってもいいのか? パスレク村にまで帰りがおくくなる事の知らせまで出してもらって」

「ああ、それも気にしないでくれ。さっきも言った様に、世間に『未遂みすい』で終わった事を喧伝けんでんするための一環いっかんだ。本来ならフォルト君達を子爵家に招くべきなのだが、それだと話が内々(うちうち)になってしまうので、「子爵令嬢ししゃくれいじょう誘拐犯ゆうかいはんから路上ですくった恩人おんじんまっているのでよろしくたのむ」ってことでな」

「なるほどな」

 しばらくの沈黙ちんもくの後。

 ベーシウス様は一呼吸おいてから、真剣しんけん面持おももちに代わった。

「それから」

 声のトーンが下がる。

「捕まえた男だが、牢屋ろうやで何者かに殺された」

口封くちふうじ、ですか」

 ヒューク司祭が、はっと息をきだした。

侵入者しんにゅうしゃか? それとも内部の仕業しわざか?」

おそらくは侵入者しんにゅうしゃだ」

 ベーシウス様はきっぱり言い切った。

何故なぜ、そう言い切れる?」

 その物言いにオズベルト父さんがいぶかしむ。

「男は牢屋ろうやの中でゾンビ化していたらしい」

「えっ!」

 思わず俺は驚いて声を上げていた。

 同時に、ある場面が脳裏のうりかぶ。

 ……。

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>見知った者しかいないせいか、ベーシウス様は騎士しかとした態度ではなく、昔の冒険者仲間に接するような砕けた態度で、椅子にも反対向きに跨ぐように座すわっている。 スミマセン、[騎士しかとした態度]と言…
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