65 俺が馬車に乗っていると、町がようやく見えてきたんだが
遠くの方に町らしきものが見えてきて、近づくほどに徐々にそれが大きくなってきた。
あれがラドンツの町のようだ。
「やっと着いた!」
「うわああ!」
俺とリノアは歓喜の声を上げる。
それでもまだ少し遠いようで、壁に囲まれた町の門までは距離があるようだ。
それだから、俺とリノアは馬車の荷台で立ち上がって前方をよく見ようと身を乗り出す。
「こらっ! フォルトもリノアちゃんも危ないから、動いている馬車の荷台の上で立ち上がるのは止めなさい」
「「はーい! ごめんなさーい!」」
と、素直に謝りはするものの、反省の色がないのは俺もリノアも見え見えだろうなというのが分かる、間延びした返事だ。
「やれやれ」
それが分かり切っているのか、オズベルト父さんも処置無しといった溜め息をついている。
「はっはっはっ、仕方ないですよ。こういう時の子供ははしゃぐ気持ちを抑えられませんからね。ミリアーナも小さい時、一緒に旅していた時は町に近づくたびにこんな感じでしたからね」
「えっ! ミリアーナ先生もそうだったの?」
ミリアーナ先生の意外な一面に俺がヒューク司祭に聞き返す。
「ええ、最初は殆ど感情を表しませんでしたが、一緒に旅を続けていくうちに少しずつですが表情が出てきて来ましたね」
前にヒューク司祭からミリアーナ先生の過去の話を聞いたことがある。
当時敵国の兵に村を焼かれて戦争孤児となってしまったミリアーナ先生をヒューク司祭たちの冒険者パーティーが助けて、成り行きでヒューク司祭が引き取ることになったらしい。
村はほぼ全滅だったらしく、それは当時幼かったミリアーナ先生にはショックが強すぎて、言葉や表情を失うのは容易に想像が付く。
逆に、今のミリアーナ先生からは想像が付かないけど、それはミリアーナ先生とヒューク司祭の長い時間の努力とお互いの築き上げた信頼感があったからなのだろうな。
「んっ?」
そんな話をしていたら、前方を走るキサナティアお嬢様の馬車よりさらに前方、ラドンツの町の門の方からこちらに向かって近づいてくる影があった。
「よっと」
「こら、フォルト!」
ちょっと横に身体を乗り出してよく見てみれば、どうやら2頭並んで走る馬のようだ。
更に目を凝らしてみてみると、それらに乗っているのはどうやら騎士らしい。
あっと言う間に近づいてくる。
2頭はものすごい勢いで駆けってきて、両側から1頭ずつ俺たちの馬車を挟むように、同時に駆け抜けていった。
その時、風圧が俺の頬をかすめ前髪を揺らしていく。
すごい迫力だ。
「うわああ、格好いい!」
「すごーい!」
俺とリノアは思わず感嘆の声を上げていた。
目で追っていると、2頭は後方で減速してから、クロスするようにUターンして今度は馬車より少しはやいくらいの速度で走りだし、俺達の馬車を追い抜くと、キサナティアお嬢様の乗っている馬車の所まで行くと、同じ速度で並走し始めた。
よく見れば、ベーシウス様やエニム様と同じ服装をしている。
前方の馬車のベーシウス様が身を乗り出してオズベルト父さん達に止まるようにと、合図を送ってきた。
それにオズベルト父さんが了解の合図を送り返し、俺達の馬車は道の途中だが馬車を止める。
前方のキサナティアお嬢様の馬車も止まり、それに合わせて両側に並走していた騎士の乗る馬も止まる。
「ベーシウス殿」
「どうしたんだ、ケリー、ウィルム」
「どうしたもないだろ。到着予定より遅いから、キサ……クリシティア様が心配なされて、我々を迎えに出されたのだ」
ベーシウス様の問いかけにケリーと呼ばれた騎士が答える。
「そうか、すまんな」
「で、後ろの者達は?」
ウィルムと呼ばれていた騎士がこちらを向いてベーシウス様に問いかけている。
「ああ、心配ない。パスレク村の司祭様と俺の古い友人でBランクの冒険者だ。途中でトラブルがあってな、その時偶然通りかかって助力してくれた」
「まさか野盗か!?」
「いや、泥濘に嵌って馬車が動けなくなった」
「そっ、そうか」
「ついでに、ゾンビに襲われたときに、一緒に戦ってもくれた」
「何っ! ゾンビだと! で、ク……キサナティア様は無事か!」
「ああ、勿論、エニムもいるし、キサナティアお嬢様には指一本触れさせてはいないさ。当然、傷一つもな」
報告をしているみたなんだだけど、うーん、やっぱり、ベーシウス様は何時もの感じなんだよな。
ところどころしか話は聞こえてはこないけど。
「やはり、あの件絡みか?」
「まあ、間違いなく、そうだろうな」
「それで、そういうわけならゾンビだけではあるまい。実行犯はいたのか?」
「らしき者はいたが、逃げられた。恐らくは闇系統の魔術師だろうな」
ベーシウス様が両手を広げ肩をすくませて、やれやれといったポーズをとっているように見える。
なんか軽い。
騎士様があれでよいのだろうか?
「それに、思わぬ掘り出し物も見つけたしな……」
なんかベーシウス様がこっちを見ている。
「なんだそれは?」
「ケリー、ウィルム、2人とも、なかなか良いパフォーマンスをしてくれたよ」
「なんのことだ?」
「いや、こっちの都合だ」
「「???」」
何故か、騎士様方が一斉にこっちを向いてくる。
「んっ?」
 




