64 俺が旅の途中、いろいろ考えていたんだが
思わぬアクシデントが続いて、貴族様の馬車と旅路を同行することになってから数日。
ヒューク司祭から聞いた話だと、そろそろラドンツの町が見えてくる頃だそうだ。
この間、騎士のベーシウス様は手の空いている時間があると、俺とリノアに稽古を付けてくれていた。
なんだか得した気分だ。
最初は基本的な騎士の剣術で相手をしてくれていたが、リノアも意外と動けることが分かると、いつものニヤリとした笑みを浮かべ、すぐにそのやり方は止め、徐々に体術も交えるようになってきた。
ボライゼ師匠にも似た剣術だが、ボライゼ師匠は高齢のためか、剣術の特徴のためか、あまり動かない。
若しくは俺の力量の足りなさから動かせないと言った方が正しいのかもしれない。
それに比べ、ベーシウス様の元の剣術は体術を多用するらしく、どちらかというと俺に向いている気がする。
曰く「武器の持てない場所での護衛や室内向きの戦い方」なのだそうだ。
とはいえ、勿論体術は魔物相手でも、その身体捌きは十分に役立つと思う。
ラドンツの町に着くまでの数日間しか、教えを乞うことが出来ないのが、とても残念に思える。
だから、短い間でも、出来るだけ多くのことを吸収出来るようにしていこうと思った。
その時にベーシウス様に言われたことが幾つかある。
そんな中でも、特に心に残ったものがあった。
~ ~ ~
「ほう。冒険者のような粗削りでもなく、騎士のような形式ばったものでもない。フォルト、なかなか良い師に付いているみたいだな」
「はい」
ボライゼ師匠の剣術が褒められた事に、俺は嬉しさを感じる。
「それに、フォルトもリノアも同じ年頃の子供に比べ、体幹がしっかりしているな。上半身は安定していて、足捌きを巧みに使い熟せている。正式な剣術を学んだ者の動きだ」
「「ありがとうございます」」
「特にフォルトは基本に忠実だな。実に、フォルトの性格を現わしたまっすぐな剣だ」
ベーシウス様が一呼吸置いてから再び口を開いた。
「だが、良いことではあるが、魔物とやり合うには少々お上品すぎるな」
「お上品、ですか?」
「ああ、そういう意味ではリノアの方が良い動きをする。にしても、何処かで見たような動きなんだが……」
ベーシウス様が顎に手を当てて考え込む。
「どうしたんですか、ベーシウス様」
「いや、なんでもない。さあ、続きをするか」
「「はい!」」
~ ~ ~
以前にも似たような指摘はボライゼ師匠からも言われたことがある。
前世のスポーツ的なルールを守る動きに影響を受けすぎていて、どうもスポーツとは違う、命を懸けた戦いに対する感覚とずれているらしい。
特に剣術と体術は近いし似ているようだけど、かなり違う。
混同して避けられると思って、何度か失敗した。
剣術は、受け流しや受け止めに秀でているが、避けるのは体術の領分のところが大きい。
剣術に全く無いわけではないが。
魔物を主として相手にする冒険者を目指しているのであれば猶更の事なのかもしれない。
この辺は前世のスポーツをやっていた時と同じで、反復して身体で覚えていくしかないのだろうな。
あれ? スポーツ……やっぱり抜け切れていないのかな?
たまに遠くからキサナティアお嬢様が眺めていたりもする。
傍には護衛の女騎士のエニム様とメイドのクレールさん、様?が付き添っている。
流石に一緒にやりますか? とは聞けないけどね。
身体が弱いって言ってたしな。
けど、どうもそういう風には見えないんだよね。
何て言うかなあ。
何となくだけど、キサナティアお嬢様からは強い決意みたいなものが感じられるんだけど。
病弱な人に強い決意がないとは思わないけれども、何となく引っかかるものがあるんだよな。
まあ、いいけど。
幸いにも、あのゾンビの襲撃の後は何事もなく旅路を続けることが出来ていた。
あの女の人も姿を見ることがなかった。
オズベルト父さんとベーシウス様が、警戒はしていても、気を張っている様子はないから、大丈夫なのだろう。
そうそう、あまり深く考えたくはなかったけど、ゾンビを討伐した後、しばらくしてから、俺の空間収納の『福袋』の中に何かアイテムが入ってきた感覚があった。
遠隔からの石を投げつけていた攻撃が当たっていたのが、戦闘に参戦したことになっていたらしい。
で、考えたくないというのが、その『福袋』の中身で。
品物は……熟成・骨付き肉だった。
大丈夫だよな?
何がとは言わないけど。
一応『鶏の』とはなっているんだけどさ。
ゾンビ倒して、熟成・骨付き肉って……。
いい加減過ぎやしないか、あの薄紫髪ツインテール天使のパスティエル!
すぐに出して食べる気にはなれないし。
空間収納に入れておけば、腐ることはないから、しばらくは放置だな……。
腐る……止めよう。
これ以上、考えると泥沼だ。
泥沼に嵌るのはリアルでやってるから、もういいや。
そうして、そんなことを考えながら旅を続け、数日経った昼頃。
ようやく、ラドンツの町が見えてきた。




