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6 俺が眠ってると、毎日幼馴染が起こしに来るようになったんだが

 森から飛び出てきたイノシシからリノアを庇って前に立ち、正面衝突して右腕を骨折してから一週間程が経った。

 ちなみに、この世界の一週間も七日で、光、闇、火、水、風、土、無の順で「○の日」と言っている。俺としては土の日がちょっとややこしい感じがするので、土と無を入れ替えたい気分になるのだが、そこさえ除けば意外と分かり易くて助かる。あと、一か月は4週間28日。一年は12ヵ月336日だ。

 それにしてもこの一週間、腕を骨折しただけなんだが、しばらくは大人しくしていなさいと部屋からも碌に出してもらえなかった。

 別に悪い事をしたわけじゃないし、家族も心配しての事からではあるというのが分かるんだけど、身体を動かすことが好きな俺としては昔から……前世から病気やら怪我やらで家で大人しく寝ているというのはどうにも落ち着かない。

 と言うか、退屈で仕方がない。

 いつもなら家の中でも騒いでいるアムルト兄さんとハワルト兄さんもなんだか大人しい。

 まあ今は二人ともヒューク司祭のいるこの世界の神様の一宗派で月の双子女神エボーナ神とボニーナ神の教会に勉強しに行っているんだけど。

 振り返って、あの薄紫ツインテール少女天使に頼んで、動けるようになる5才頃に前世の自我を思い出す様にしてくれるようにしてもらっておいて、本当に良かったと思う。

 数日でこれなんだから、年単位だったらどうなっていた事やら。

 動けるようになったら毎日、朝練でも始めようかな? そろそろ筋トレとか柔軟とか鍛え始めても良い頃だと思うし。

 そんじゃ、暇潰しにトレーニングの内容でも考えてみるとしますか。

 

   ◇

 

 怪我の方は右手の骨折だけで後は大した事も無く順調に回復していった。

 イノシシの前に飛び出た事に多少怒られたものの、リノアを助ける為だったのと俺を心配しての事だったので大してきびしいものではなかった。

 大人のイノシシに子供が正面から追突されたにも関わらず骨折程度でよく助かったものだと言われたが、俺が思うに恐らくはこれもあの薄紫髪ツインテール天使のパスティエルと転生する際に話した中にあったステータスに関係する事なのだろう。

 運も良かったかもしれない。

 右手を突き出していたおかげか、イノシシの牙が身体に刺さる事も無くぶつかって吹き飛ばされた為に、牙による刺し傷を負うことがなかった。

 あれって怖いんだよな。大人の身長だと太腿に刺さって大動脈を傷つけて出血多量で命を落としたなんて話を前世、田舎の爺ちゃんから聞いた事があったし。

 右腕の骨折の治療に関してはヒューク司祭が何度か訪れてくれて初級の治癒魔法というのを掛けてくれた。

 この世界、あるんだぜ魔法! はっきりとそれらしいものは初めて見たけど。

 初めて見たのが自分への治療魔法の光っていうのがなんとも複雑ではあるんだけどな。

 とは言っても、万能という訳でもないから、俺の右手の骨折もすぐに完治という風にはいかないみたいだが。

 何でも、治療中、ヒューク司祭に聞いて見たところ、才能や習熟度、魔力量などいろいろな事が絡んでいるそうだ。後、神聖魔法の治癒魔法は信仰心にも大きく影響するらしい。

 ヒューク司祭は自身の事を「わたしなどはまだまだ精進しょうじんが足りませんが」なんて言っていたけど、後で両親に聞いて見たところ、治癒魔法自身使える人が少ないそうだ。また、神に仕えているからといって、必ずしも使えるようになるというものでもないらしい。だから、一般には医療的な事もちゃんと存在しているみたいだ。もちろん前世、地球の様な高度医療みたいなものが存在している訳では無いが、俺が単純に考えて治癒魔法って中級とか上級とかになると前世の高度医療にも引けを取らないものなんじゃないかと思う。まあ、中級や上級の治療魔法を使える人が少ないっていうのだから、おいそれと診てもらえる事は出来ないのだろうけど。

 下級とはいえ治療魔法と医療の併用ができるヒューク司祭って、実は結構すごい人なのかもしれない。アムルト兄さんとハワルト兄さんたち子供の読み書きなどの勉強も見てくれているし。

 それにしても、他にはどんな魔法があるんだろうな?

 そう言えば前世のクラスメイトたちの話に魔法に関する事もあったな。後で思い出してみよう。

 もしかしたら俺も使えるようになるかもしれないし。

 そうなるとやっぱ、きたえは大切だな。

 ちょっと、いやかなり楽しみになってきた。

 

   ◇

 

 それはそうと、

 怪我の後俺の生活に大きな変化が起こった。

 それは、

「フォルトちゃん、おきて」

「んっ……カニ……反復横跳び、スゲえ……んんっ」

 誰かが身体を軽く揺らしてくる。

 何ともボンヤリとしてユラユラと揺れる心地よさが有る。

「フォ~ル~ト~ちゃん、お~き~て」

 耳元に高目だが可愛らしい優し気な声が聞こえる。

 でも、人間は起きなきゃ駄目だと解っていてもこのベットの温もりに抗えない時がある。

 「朝練しようか」とか言ってたのはどうしたとか何処からか声が聞こえて来そうだが、まだ完治していないので大目に見てほしい。

 しかし、

「はっ!」

「おはよう! フォルトちゃん♪」

 目を開けると、目の前に物凄いどアップでリノアの顔があった。

「リノア!」

「あっ、フォルトちゃんやっと起きた!」

 そのままの距離感で満面の笑みになるリノア。ともすれば、そのまま抱きついてきそうな勢いの雰囲気を感じる。

 なので、わずかに身を動かしつつ身体を起こす。

「おはようフォルトちゃん!」

 改めてリノアが元気よく声を掛けてくる。

「……おはようリノア」

 俺もボンヤリしていた頭がようやっとはっきりしてきたので挨拶を返す。

 そう、リノアはあのイノシシの一件以来、毎朝俺を起こしに来るようになっていた。

 何でだろう? 疑問に思って、三日ほど前にリノアに尋ねてみたら、

「起こしたいから」

 と理由になっていない答えが返ってきた。

 それを指摘すると、今度は泣き出しそうな顔で、

「フォルトちゃんはイヤ?」

 と聞き返されてしまった。

「そっ、そんな事は無いよ」

 俺はそう返すので精いっぱいだった。

「良かった!」

 途端とたんに今泣きだしそうだった顔が満面の笑みに変わる。

 子供って気分屋だな……それとも、女の子だからかな?

 結局、答えが聞けなかったのでオズベルト父さんやナーザ母さんに聞いてみることにした。

「恐らくイノシシが自分に向かって突進してきたのがよほど恐怖だったんだろうな」

「そうね。多分寝ているフォルトを起こしに来て、フォルトが起きるところを見ることがリノアちゃんの心の安定に繋がっているんじゃないかしら。恐らくリノアちゃん本人も良く分かっていないんだと思うわよ」

 トラウマと言うやつか。

「まあ、しばらくは好きにさせて上げなさい。フォルトは男の子なんだから」

「ええ!」

 こういう時に男の子女の子を持ち出しますか。男女平等は? ってないよね多分この世界。

 で、今に至る。

 このパスレク村はのどかな田舎の山村のせいか、戸締りは比較的緩ゆるい。なので、だまって入ってくる事は無いものの、近所の人は比較的気軽に入ってくる。

 前世日本のクラスメイトたちが「近所の女の子の幼馴染みが起こしに来るシチュエーション」について話していた事がある。その時、まず真っ先に「有り得ない」と言っていたヤツの話では、「幼馴染とは言え他人の家の合鍵を持っているなんて事がどんだけあるよ」と叫んでたが、この村の雰囲気では合鍵はおろか通常の鍵もあまり掛ける事がない。

 なのでリノアも朝から俺の家にやって来て普通に俺の部屋に入ってくる。

あれから母親には「通い妻がいて良いわね」とからかわれる始末。

 まったく、勘弁してくれよ。

 前世、俺には大学生の兄貴がいたんだが、その兄貴に彼女がいてさ。その彼女って言うのがかなりのやきもち焼きのわがままで随分振り回されていたんだ。何でそれで付き合っているんだと疑問に思ってたんだけど。

 そんな訳で俺はあまり積極的に彼女を作ろうと思わなかった。

 勘違いするなよ。出来なかったんじゃない。

 作らなかっただけだ!

 ……。

 まあ、そんな訳のこの俺が、5才でいきなりそんな言われようをされるのは不本意極まりないと言う事だ。

「「や~い、かよいづま! かよいづま!」」

 アムルト兄さんとハワルト兄さんも母さんに便乗してからかってくるし。普段、特にからかってくることのないアムルト兄さんがからかってきたのは意外だったが。

 それにしても、

 お前ら意味分かってないだろ!

 

 そして、

 

「フォルトちゃん、はい、ア~ン♪」

「……あーん」

「おいしい?」

「ああ」

 コレも健在です。

 右手が折れててしばらく動かせないので何かと世話をやいてくれるのは有り難いと言えば有り難いのだけど、こう毎回毎回だと

 いや、まあ、かわいい女の子に「あ~ん」をしてもらえるのはうれしいけどさ、5才児じゃなあ。後10年くらい経ってからがいいんだけど。

 

 ドッドッドッドッドッドッ!

 

「うわああ!」

「ゆっ、揺れてる!」

 ハワルト兄さんは大声を上げ、アムルト兄さんはちょっと動揺しているみたいだな。

 俺? 俺は前世、地震大国日本の出身だぜ。これくらいなら慌てる事も無い。落ち着いて机の下に入ったさ。

「地震? 結構大きいな」

「珍しいわね」

 オズベルト父さんとナーザ母さんは意外と冷静にかまえている。流石元冒険者だな。

 俺の前世の感覚でいくと震度4ってとこかな。意外と強い方ではあったが。

「フォルト、何怖がってるんだよ!」

 さっき叫んでいたハワルトが誤魔化す様に俺をからかってくる。

 俺のは正しい行動何だよ。いっても解らないだろうけど。

「結構長かったな」

 取りあえずハワルトはスルーだ。

「そうだね。それよりフォルトちゃん、はい、ア~ン♪」

 机の下から出てきた俺に向かって、スプーンを差し出すリノア。

 意外と強いなリノア。

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