50 俺が考え事をしていると、前方で何かあったようなんだが
朝から大変だったけど、その後は順調にすすみ、現在は馬車の荷台の上でボーッとしている。
思わぬアクシデントで、俺たちの暮らすアストランの森の地面の下に、月の双子女神エボーナ神とボニーナ神の神殿があることが分かり、俺とリノアが第一発見者ということで、事情を説明しにラドンツの町の教会に、オズベルト父さんやヒューク司祭たちと馬車で向かうことになって4日目の昼を超えたあたり。
なんか前世の俺から見ると、随分とのんびりした対応をしているように見えるんだけど、これが結構大事なことらしい。
まあ、そうか。と、いうか、当然か。
今まで誰にも知られていない月の双子女神エボーナ神とボニーナ神の地下神殿がいきなり村はずれの森の中で発見されたんだから。
そう思うのだけど、何というか、教会の、というかこの世界の人達はどうも腰が重いような気がする。
良く言えば、のんびりしているだけど。
それはたぶん、俺が前世情報社会で生きていたせいで、そう感じるだけかもしれないけどさ。
特に、世界から見た日本人は時間の正確性に拘る人種と言われているらしい。
確かに俺もニュースで、電車が5分遅れたことで駅の係員さんに食って掛かっているサラリーマンのおじさんの映像を見たことがあったからな。
逆に、2・3時間ぐらいは何時もの事と、平気で列車内でお茶をしている外国の人たちの映像も見たことがあったし。
今回の場合、これだけの事なんだから、教会の本部の方が率先して動くべき事柄じゃないのかとおもうのだけど。
ヒューク司祭の説が極少数派というか、殆どヒューク司祭しか唱えていなかったということもあるのかもしれないけれどさ。
それと、確かに、国が絡むから手順を踏む必要があるということは俺でも分かるつもりだ。
前世のニュースで、いざ、発見した遺跡や沈没船を巡って、発見者、その地の所有国、歴史的に元の所有していた国なんかが、自分たちの者だと所有権を主張し合って、話が硬直するなんて話題を聞いたこともあったし。
「まあ、なんにしてものんびりしているよなあ」
「そうだね」
俺が荷馬車の縁に頬杖を付きながら呟いた言葉に、リノアが返してきた。
考えていたことが口に出ただけで、風景の感想とは違うんだけどね。まあ、いいか。
それはそうと、俺の能力の一部、空間収納の中の『福袋』について再度考えてみる。
今朝遭遇したスラッガースラッグだけど、やはり魔物だという事で、俺の空間収納の『福袋』の中にアイテムが入ってきた。
オズベルト父さんが魔核を取り出していたし。
で、福袋の中身だけど。
今回は
『塩』の大袋だった。
ナメクジに塩……。
そういえば、その前はアリに砂糖だったな
あと、熊にハチミツ。
う~ん、関連が有りそうな無さそうな。
最初はアルマジラットにチーズだったけど、って何だろう?
アルマジロにチーズって知らないな。
見た目からしてネズミにチーズかな?
あと、七味唐辛子。
これは魔物を倒したかどうかが分からない。
今までの状況から、知らないうちに魔物を倒していたという可能性が高いのは間違いなさそうだけど、何ていう魔物を倒したのかが分からないので、関連性を考えるのは無理。
……。
関連があるような適当な語呂合わせのような……。
あのちょっと残念な天使のパスティエルだからなあ。
それにしても、う~ん、こうしてみると、何かやけに調味料っぽい物が多いような気がする。
なんか、意図があるのだろうか?
それともたまたまかな?
よく分かんないや。
そんな感じでのんびりと荷馬車に揺られていると、急にオズベルト父さんが荷馬車のスピードを緩めた。
「んっ? 何かあったのか?」
「そのようですね」
オズベルト父さんとヒューク司祭が見ている目線の先を追ってみれば、かなり遠くの道の先で、道の真ん中に馬車が一台止まっていて、それを2人の人が押している様子が目に入ってきた。
ゆっくりと近づいていくと、徐々に状況がはっきりしてくる。
オズベルト父さんくらいの年代の男の人と、結構若い、多分20代半ばあたりの女の人のようだ。
それも騎士のような立派な服装をしている。
よく見れば馬車も簡素ではあるけれど立派な造りをしていた。
ひょっとしなくても、御貴族様の馬車だろうな。
どうやら、昨日の雨でぬかるんでいるところが出来てしまっていたらしく、運悪くそれに嵌ってしまったようだ
箱型で、うちらの荷馬車よりも立派な分、かなりの重量がありそうである。
そりゃあ、昨日の雨でぬかるんでいれば、溝に嵌りもするか。
(あれっ? でも、あの馬車、どっかで見たような覚えがあるんだけど)
「どうかしましたか? 何かお困りのようですが」
俺が疑問に思っていると、警戒されないように、ヒューク司祭が少し離れた場所から声をかけた。
「んっ、? ああ、これはヒューク司祭様」
気が付いてはいたけど、押すのを優先していて、声をかけられたから振り向いたという感じで、男性の騎士らしき人が振り向いた。
続いて、女性の騎士の人も振り向く。
ただ、二人とも、警戒の色は比較的薄いように思える。
どうやら、ヒューク司祭のことを知っているみたいだ。
「ベーシウス? もしかして冒険者パーティー『大鷹の羽ばたき』のベーシウスか?」
すると、そこにヒューク司祭の隣りに座って馬の手綱を引いていたオズベルト父さんが、少し驚いたような声を上げた。
「んっ、もしかしてオズベルトなのか? 『大地の息吹』の」
向こうの男の騎士の人の方も、オズベルト父さんと同じような顔になる。
どうやら、オズベルト父さんとも知り合いらしい。




