49 俺が森の中で巨大ナメクジと出会ったのだが
「「うわあ、うわあ、うわあ、うわあ!」」
俺とリノアは雨上がりの森の中を走って逃げていた。
巨大なナメクジみたいな生き物が、俺たちに向かって突進してくる。
リノアも頑張って走ってはいるが、雨上がりでぬかるんでいるうえ、枯れ葉のせいで滑りやすくもなっていて、足場が非常に悪いため思ったよりスピードが出せないみたいだ。
それとは反対に、巨大ナメクジは見た目に反して意外と速い。
俺もリノアも比較的足は速い方ではあるけれど、足場の悪さと子供の足ということで、だんだん追い付かれてきた。
このままだとマズいな。
「リノアは先に言ってオズベルト父さんとヒューク司祭を呼んできてくれ。おれはもう少しだけ足止めをしてから行くから」
俺は走りながらリノアに先に行くように促し声をかける。
「やだ。フォルトちゃんもいっしょに逃げよう!」
「いいから」
「でも……」
リノアはどうにも迷っているようだ。
恐らく、以前のアシュランベアのことを思い出しているのだろう。
仕方がないか。
「大丈夫だ、この前のアシュランベアやボムビックアントと違ってそんなに早くない。オズベルト父さんたちも近くにいるし、足元は悪いけど、石をぶつけて足止めしてから逃げれば、ちゃんと逃げられるから」
リノアが傍にいるので、走りながら地面に落ちている手ごろそうな石を拾い上げて言う。
「……うん、わかった。すぐオズベルトおじさんとヒューク司祭を呼んでくるから、ムリしないでね」
ようやく納得してくれたようだ。
「頼む」
言うとすぐにリノアは走り出した。
「このぉっ!」
俺はリノアが離れていく気配を背中で感じながら振りかぶって投げる。
こんなんじゃ牽制にしかならないだろうけど、リノアが逃げる時間を稼いで、できれば、オズベルト父さんたちの所までたどり着ければ上出来だ。
そう思って投げた石と巨大なナメクジをみていると
「なっ!」
巨大なナメクジは器用にも身体をくねらせ、その撓りの反動で、俺の投げた石をその身体で跳ね返した。
石が俺の頭上を越えて森の奥へと消えていく。
クシャー!
気のせいか巨大ナメクジが歯を見せて笑ったような気がした。
俺は一瞬呆然とする。
だけど、一時的にその場で動きを止めたおかげで、リノアとの距離は広がった。
広がったけど……。
なんか悔しい気がする。
俺は次の石を拾い続けざまに投げる。
ところがだ。
またも身体を器用に撓らせ、俺が投げた石を難なくはじき返して見せる。
クシャシャシャシャシャ
またも歯を見せて笑ったような気がした。
ナメクジに表情があるのかは分からないけど、何となく勝ち誇っているようなきがする。
(なんか納得できない!)
俺がもう一度石を拾い投げようとした時。
「フォルト無事か!?」
背中から声がかかる。
俺が振り向くと、オズベルト父さんが大きな剣を携えて駆け寄ってくるところだった。
どうやらリノアは無事テントの所までたどり着けたようだ。一応一安心。
「父さん! うん。俺は何ともないよ」
「そうか、良かった」
そういうとオズベルト父さんは巨大ナメクジを睨み付ける。
「スラッガースラッグか!」
「スラッガースラッグ?」
それからすぐさま、オズベルト父さんが大きな剣を握りしめ、スラッガースラッグと呼んだ魔物へと突進していった。
オズベルト父さんがスラッガースラッグと呼んだ巨大ナメクジも、俺の時と同じように体を撓らせ身体を叩きつけるようにオズベルト父さんに襲い掛かっていくけど、流石はBランク冒険者。
難なくスラッガースラッグの体当たりを交わして大剣を振るう。
それから、大して手こずった様子もなく倒してしまった。
「スラッガースラッグは湿度の高い森や沼地を好んで住処にしている。今日みたいに雨上がりなんかは活動的になる。比較的弱い魔物だが、身体を振っての体当たりはそれなりに威力があるから気を付けろよ」
「うん。わかった」
俺が冒険者を目指していると言っているからか、オズベルト父さんが俺にスラッガースラッグの特徴と注意点を教えてくれた。
雨上がりの葉っぱの上に小さなカタツムリとかなら風情もあったけれど、森の中で巨大ナメクジに追いかけられるとかは朝から勘弁してほしい。
それにしても、もしかしたらと思いはしたけど。
単純に巨大なナメクジじゃなくて、やっぱり、あのスラッガースラッグは魔物だったようだ。
ってことは。
「んっ!?」
これは!
俺は『空間収納』の『福袋』の中を確認してみることにする。
すると、その中には……。
やっぱり。
『空間収納』の『福袋』には『塩』がはいっていた。
う~ん。
なんか調味料っぽい物が多い気がするんだけど。
今までに手に入れた前世日本のものはっと。
えっと、ダブルグロスターチーズに七味唐辛子にマヌカハチミツ、それから砂糖に黒砂糖だっけか?
チーズは粉にすれば調味料と言えば調味料になるか?
う~ん。
これって法則性でもあるのだろうか?
それとも、たまたまぐうぜんだろうか?
新たな疑問である。
「どうしたフォルト」
「ううん、何でもないよ。ヒューク司祭の所に戻ろう」
あともう一つ。
腑に落ちないことがある。
それは。
スラッガースラッグに簡単に俺の投げた石が打ち返されたことだ。
別に野球の勝負をしていたわけじゃないし、こっちは当ててダメージを与えるか、足止めをするつもりで投げたんだけど、ああも見事に打ち返されると、なんか悔しい。
しかも勝ち誇ったように笑っていた気がするし。
今度会ったら絶対に打ち取って……討ち取ってやる。




