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42 俺がヒューク司祭と話しているときに、リノアはミリアーナ先生に何やら相談をしていたみたいなんだが (ミリアーナ視点)

 - 月の双子女神エボーナ神とボニーナ神に仕える助祭見習い、ミリアーナ視点です -


「ミリアーナ先生」

 ヒューク司祭がアストランの森で神殿遺跡を発見したという話を聞いてから数日経ったある日。

 わたしはリノアちゃんに呼び止められた。

「なあに、リノアちゃん?」

 どうやらわたしに何か聞きたいことがあるらしくモジモジしている。

 仕草が可愛い。

 何となく、ここだと話しづらそうだったので、わたしはリノアちゃんを連れて教会の外に出て、二人だけで話せそうな場所を探す。

 ちょうどよさそうな木の影があったので、そこで話を聞くことにした。

「あのぉ、フォルトちゃんって、ミリアーナ先生が好きなのかな?」

「えっ!? フォルトくんが?」

 そこで相談されたことは思いもよらないことだった。

 ただ、これは前に学園にいた頃に覚えがある。

 気になる男の子がいる下級生の女の子が、もしかしたら別の女の子が好きなんじゃないかと不安に思っている状況だ。

 なんか可愛い!

 とても微笑ほほえましく見える。

「大丈夫よリノアちゃん。学園でもあったけど、あのくらいの男の子は私くらいの年上のお姉さんにあこがれを持つことが多いみたいだから。好きというものではないわ」

「ほんとう?」

 おそおそると言った感じで確認してくるリノアちゃんの不安そうなひとみが可愛らしくて、思わず抱きしめたくなる衝動しょうどうられる。

「ええ、本当よ」

 その衝動しょうどうをグッとおさえて目を見て力強く答えてあげる。

「よかった!」

 それに安心したのか、リノアちゃんの顔がパッと花の咲いたような笑顔になる。

 うん、とっても可愛い!

 それ以降、わたしとリノアちゃんはちょくちょく二人で話をするようになった。

 そうしていると、何となく妹を見ているような気持になてくる。

 今のわたしには妹がいないけど……いえ、家族もいないけど、妹がいたらこんな感じに思うのだろうか?

 わたしは戦争孤児だ。

 小さい頃のわたしの村はドウザリブ王国とバースティア公国のさかい、王国のはずれの小さな村だった。

 まだ、小さなわたしにはよく分からなかったけど、当時、ドーザリブ王国とバースティア公国は国境をめぐって、頻繁ひんぱん小競こぜり合いを繰り返していたらしい。

 いや、うわさによれば、今も小競り合いは続いているそうだ。

 家族は父と母、それに妹と弟がいた。

 それまでは貧しくてもおだやかな暮らしだったと思う。

 ある時、突然馬に乗り、武器を持った人たちがやってきて、あっという間に村を燃やし、村の人を殺害していった。

 わたしにはあまりその時の記憶が残っていない。

 ただ、焼き付いているのは赤い色。

 ほのおの赤と血の赤。

 そんな中でも覚えているのは涙を流してわたしを抱きしめてくれていたヒューク司祭の温もり。

 その時、ヒューク司祭は冒険者として、たまたま近くの遺跡を探索した後にわたしたちの村の近くを通りかかり、異変に気が付いてけつけてくれたのだという。

 だけど、村に着いた時にはすでに遅く、村は半壊していたそうだ。

 後から聞いた話ではその連中は逃げ出した傭兵ようへいか、敗走兵が逃げるついでにおそったのではないかという事だった。

 だから、短時間で村から去ったのだろうと。

 その後、村から逃げ出せた人たちとともに近くの村に行くことになったが、家族を皆失っていたわたしにヒューク司祭が一緒に付いてくるかと尋ねてくれた。

 何故なぜだか分からなかったけど、村の人たちではなく、その時会ったばかりのこの人に付いていこうと、伸ばされた手をすぐにつかんでいたことを覚えている。

 それから数か月。

 才のあるヒューク司祭がこの穏やかで魔物すら出ない『聖なる地』と冒険者の中で揶揄されるアストランの森の近くのパスレク村に赴任を希望したのはわたしのこともあったのかもしれない。

 ……追い求めていた神殿探しのためが一番かもしれないけど。

「年上かあ、でも、わたしフォルトちゃんと同い年だし、お姉ちゃんになりたくても誕生日もわたしの方が遅いから」

 ああ、もう、本当にかわいいなあリノアちゃんは!

 思わず頭から抱きかかえたくなる衝動しょうどうを抑えつつ話を続ける。

「リノアちゃんは(わたし)なんかよりずっと美人さんになれるわよ」

 これはお世辞でも何でもない。

 リノアちゃんのお姉さんのマノアちゃんも可愛いけど、リノアちゃんはそれ以上になれると思う。

 数年前まで学生として王都ドーザリブの学園に通っていた時でもなかなか見ることはできないくらいにリノアちゃんは愛らしい。

 貴族の御令嬢も多く通っていて、きれいな人は多かったけど、それとはまた別の可愛らしさを持っているもの。

「ミリアーナ先生は好きな人はいるの?」

 不意にリノアちゃんが真剣な眼差しでわたしを見つめ聞いてくる。

 これは子どもだからと言って、あやふやな答えをしてはいけないわね。

「ええ、いるわよ」

 わたしはヒューク司祭とフォルト君が話しているであろう方向をチラリと見た後、リノアちゃんにそっと耳打ちする。

わたしの好きな人はねえ、□ゅー▽……」

 リノアちゃんはそれを聞いて満面の笑顔になった。

「今は内緒よ」

 どうやら、安心したみたいね。

 本当、可愛い!

 ついつい、応援したくなるわね。

「ミリアーナ先生、またお話してもいい?」

「ええ、もちろん」

 二人で一度、同じ方向に顔を向け微笑ほほえみ合う。

 あの二人は方向性は違っていても恐らく似た者同士だから、まっすぐに前を向いて走っていくタイプだわ。

 聞くところによると、フォルトくんは冒険者になりたがっているみたいね。

 多分付いていこうと思うのならリノアちゃんも覚悟が必要よ。

 わたしは学園出身だから、その辺のことを教えてあげられると思うし。

 きっとわたしたち、先生と教え子だけど、良い相談相手(友だち)になれそうだわ。

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