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4 俺が遊びに行った後、母親が考え込んでいるんだが (ナーザ視点)

 - フォルトの母親、ナーザ視点です -


「いってきまーす!」

 玄関からわたしの愛しい子供フォルトが元気な声で「行ってきます」をして外へと飛び出していく。

 フォルトは今5才になる。上の二人の兄、アムルトとハワルトは9歳と7歳。夫オズベルトとこのスパレクの村に落ち着いてからそろそろ10年になろうとするが、平穏な日々を過ごせている。

 この村の周りの森は流れてきた私達から見ると驚く程魔物がいない。

 森の奥深くに弱い魔物が時折確認されるくらいで後は野生の動物が殆どだ。

 冒険者をしていた私達が、私が妊娠してパーティーを解散し、二人で定住する事を決めた時、この村を選んだポイントがこの安全な土地柄だった。

 冒険者をしていたからこそ、子供達には安全な場所で伸び伸び育って欲しいと願った。

 冒険者時代は逆に獲物が少ないと冒険者仲間からは有名で、野盗からの護衛依頼以外では足を向けることが無かった土地である。

 そう考えると今ここに落ち着いているのは何だか不思議な気分になる。

「フォルト、転ばないように気を付けて行ってらっしゃい! 夕飯までには帰って来るのよ!」

 私はその言葉に台所から5人分の朝食の後片付けの洗い物をしながら応える。

 「は~い!」

「あと山の奥には行ってはだめよ」

「分かってる。分かってるって!」

 すでに上の二人の子、アムルトとハワルトは教会に勉強しに、夫のオズベルトは森の奥に狩りに出かけているわ。

 フォルトは年齢の割にしっかりした子に育ってくれた。

 同じ年の頃で考えるなら、うちの子たちの中でも一番賢いんじゃないかしら。

 それはここ最近急激に、そう感じる様になった。

 特に5才を過ぎた辺りから甘えて来なくなった。周りの奥さん達から三男は甘えん坊になりやすいと聞かされていたからちょっと拍子抜けした。

 それに、周りの同世代の子供たちと比べてもうちの子が断トツで賢いと思う……やっぱり親バカかしら?


   ◇


「ただいま! リノアたちと川に遊びに行ってくる!」

 あら? フォルトが帰って来たみたいね。夕飯まではまだ早いけど。どうやら、上の子二人はまだみたいね。

 台所から顔を出すとフォルトが机の上に森で取ってきた物を籠ごと置いて、またどこかに出かけようとしている所だった。

「随分綺麗に取って来たのね」

 パッと見ただけだけど、土一つ付いていない様に見える。昨日まではそれなりに土がついていたのに。全部丁寧にはらってきたのかしら?

「うっ、うん。まあね。それじゃあ、行ってきます!」

 籠を置いてさっさと遊びに出かけてしまうフォルト。

 照れたように動揺して、逃げるようにそそくさと走って行っちゃったけど……やっぱりこういうところはまだまだ子どもね。ふふっ。

 お手伝いと言ってるけど、まだまだ始めたばかり。

 簡単な食べられる草やキノコと薬になりそうな草を教えて、昔上の二人の兄、アムルトとハワルトも使っていた小さめの籠を背負わせて森の浅い所に採取に行かせてみる。

 この村の子は大体こんな感じで森周辺の野草について学んで育っていく。

 家事も一段落ついたところで、フォルトが机の上に置いて行った籠を見る。

「さてと、フォルトの頑張ってきた成果を見るとしますか、ふふっ」

 毎回、食べられる物や薬草に交じってあまり食べるのには向かない物、毒になる物も混じっている。まあ、この辺に生えている者は口に入れなければ触っただけでは殆ど無害なのでこうやって取らせてみて多少かぶれたりして慣れさせていくのだけど

 最初の内は殆ど使うことのできない物が多く入っていたんだけど、最近は半分くらいかしら。

 少しずつ成長しているなあって感じられるのが嬉しいのよね。

「さて、今日はどうかしらね?」

 一つ一つえり分けていく。やはりこの辺はしっかりしないと子供たちがお腹を壊したら大変だしね。ふふっ。

「えっ! すごい!」

 全部食べられるかちゃんとした薬草じゃない! 見極めの難しいキノコも全部食べられるキノコだし。

 しかも全部丁寧に土が払われている。街でお店に並べても遜色無いんじゃないかしらこれ? ……やっぱり親バカかしらわたし? ううん、そんな事無い筈。

 採取の才能……『恩恵』でも授かっているのかしら? だとするとこの村の環境で生きていくなら、なかなか有用な恩恵ね。

 これは町に行って神殿で見てもらうべきかしら?

 魔法の適性や『恩恵』を調べるにはいくつか方法がある。

 代表的な二つの方法として神殿で見てもらうか、冒険者登録の際に見てもらうかがあるが、冒険者登録は15歳にならないと登録ができないし、冒険者にならない人は見てもらえないので、神殿で見てもらうのが一般的だが、村の人がわざわざ町まで行って調べることはまずない。町に行くのは何かといろいろ掛かる為、村長の子供のように裕福な家か、よっぽど顕著に才が見られる子くらいだ。

 って、ちょっと考え過ぎかしらね。でも、やっぱりこれはきれい過ぎないかしら? う~ん。

 わたしが疑問に思っていると

「大変だよナーザさん! フォルト君が大怪我をした!」

 突然、近所のマーティスさんが大声を上げてうちの中に飛び込んで来た。

 見ればマーティスさんに抱きかかえられてフォルトがグッタリとしている。

 担ぎ込まれてきたその後ろからデミスくん、アグレインくん、リノアちゃんが付いて来ていた。

 デミスくんとアグレインくんはびしょ濡れで黙って立っているし、リノアちゃんは声をしゃくりあげながら大泣きしている。

 マーティスさんがその場で見てくれたところ、気を失ってはいるものの、幸い命に別状はないとのことだが、右腕が折れているという話だ。

 一体何をどうしたらこうなったのよ。

「どうも子供達の話だと、森からイノシシが出てきたらしい」

「イノシシですって」

 確か森は魔物が殆どいない。森の深い所でようやくと言ったところだ。だけど普通の野生動物ならそれなりにいる。けど、この辺りの浅い、人家の近くまで出て来るのはかなり珍しい。

 動物と魔物の違いは大まかにその体内に魔核と呼ばれる物が有るか無いかで分類されている。魔核が有るのが『魔物』、魔核が無いのが『動物』といった分け方だ。

 そして『魔物』は総じて攻撃的と言われている。もちろん普通の動物だって攻撃はして来るので油断していいという訳では無い。

「ああ、かなり興奮していたらしい」

 三人の子供達を見る。

 デミスくんとアグレインくんはびしょ濡れだ。リノアちゃんはまだしゃくり上げて泣いている。

 びしょ濡れのデミスくんとアグレインくんは風邪をひいては大変なのでおうちに返す。

 リノアちゃんもお家に帰る様に言ったのだけど、フォルトの傍にいると泣きながら言う。

 考えた末、状況も聞かなければならなかったのでマーティスさんにお願いしてリノアちゃんの両親、お父さんのバセルさんとお母さんのスビリナさんに伝えてもらえる様にお願いをする。

 後、もし見かける事があれば夫のオズベルトにも知らせてほしいとも頼んだ。

 アムルトとハワルトはもうすぐ帰って来るだろうし、その前に大体の状況把握はしておかないと。

 泣きじゃくるリノアちゃんを宥めつつ何とか話を聞いたところによると、川に遊びに行って、森から出てきたイノシシからリノアちゃんを庇ってフォルトがイノシシの前に立ちはだかったらしい。

 へえ、女の子を庇ってイノシシの前に立ちはだかるなんて、うちの子ながらなかなかやるじゃない。

 そうじゃない!

 なんて無茶な事を!

 目が覚めたらしっかりお説教しないと……でもその後は褒めてあげましょう。


   ◇


「私の初級の治癒魔法では骨をある程度繋いだにすぎませんので、しばらくは添え木をして動かさず安静にしておいて下さい。明日、また診にきますので」

「有難うございました」

 私はフォルトの治療に来てくれたヒューク司祭にお礼を言って見送りフォルトの部屋に戻る。

 部屋の中ではあれからずっと、リノアちゃんが鳴きながらフォルトの傍を離れないでいる。

 帰ってきたアムルトと普段は弟をからかっているハワルトも心配そうにしている。

 わたしも心配だが子供の前で情けない姿は見せられない。

 流石に暗くなってきたので一先ずリノアちゃんを宥めておうちに返そうとしたのだけど、いつもの聞き分けの良いリノアちゃんが頑として動こうとしない。

 そうこうしていると夫のオズベルトも帰って来た。

 話を聞いてやってきたリノアちゃんのお父さんのバセルさんとお母さんのスビリナさんと四人で話し合った結果、今日一日はうちでリノアちゃんを預かることになった。

 フォルト、早く目を覚ましなさい。こんな女の子に心配させて、今から女泣かせな男になっちゃダメよ。

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