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30 俺がリノアと穴の中で、辺りを見回っているんだが

 取り敢えず、地震でいた穴に落ち動揺しているリノアを落ち着かせようと、空間収納からこっそり出して、見つけたフリをして手に取ってきたハチミツをめさせて、少し落ち着いたみたいだし。

 ……指まで食われてたけど。

 と、いうか今も俺の指をくわえてます。

 舌で舐められているうえに、人の話にくわえたまま返事をしてくるのでこそばゆいし、変な感覚がする。

 このままではらちが明かないので、一旦俺の指に吸い付いているリノアを俺の指からはがす。

 それでもリノアは名残惜しそうに、ジッと俺の指を凝視ぎょうししていた。

 取りあえず、その食べ物を目の前にしてお預けを喰らっている子犬のような目は止めようか。

 何となく、こっちが悪い気になってくる。

 ホント、もう充分に落ち着いているみたいだよな。

「さて、これからどうしようか?」

「そうだね……」

 話を振れば、リノアは考え込む仕草をして首をかしげる。

 うん、声の調子はいつもと同じだし、大丈夫そうだ。

 一先ずはホッとする。

 あらためて自分たちの状況を考えてみようか。

 まだ日そのものは高いけど、このままじゃどうしようもない。

 いずれは日もかたむくし、夜になってしまったらこの穴の中じゃ月の光もまともに届かないだろうから視界も効かなくなるだろう。

 軽く見渡しても辺りは大きな空洞になっているだけだし、あるのは石や土の山だらけだ。

 当たり前だけど、湿った土っぽいような、ほこりっぽいような匂いがする。

「取りあえず、この空洞の中を見てみよう。もしかしたら抜け道があるかもしれないし」

「うん」

 もう一つの可能性。

 と、言うか危険性。

 天井部がくずれて生き埋めになるかもしれないということはあえて言わないでいる。

 このこわい状況の中、これ以上リノアをこわがらせる必要なんてないからな。

 そうして、空洞の中、リノアと二人で凸凹でこぼこした地面の上を歩き回る。

 ゴツゴツして石や木や土や草や砂が山積みになっている所を登ったり下りたりしながら、それでも比較的歩きやすそうな所を選びながら穴の中を一通り歩いてみていく。

 こうして歩いてみて回ると、自分が思っている以上に、この穴の空間が広い事が分かる。

 よくこんな空洞が地下にあって今までくずれずにいたもんだと正直に自然の不思議に感心する。

 木の根がからまってとか、土が圧縮され岩のようにかたくなってとか、そういった感じの理由なんだろうけど、実際に体験して理解してしまうと、他にもこんな場所が近くに眠っているんじゃないかと考えてしまいこわくなりそうだ。

「フォルトちゃん、もうちょっとゆっくり、きゃっ!」

 考えながら歩いていたら、突然、リノアが掴んでいた俺の服のすそが強く引っ張られたかと思うと、リノアが俺の方につんのめってくる。

 俺はあわてて振り向き、リノアの肩を支えて抱きとめた。

「大丈夫かリノア?」

「うん、有難うフォルトちゃん。フォルトちゃんは良くこんな見えにくい所平気で歩けるね」

「えっと、それは……」

 それは多分、俺が転生する時に、あの薄紫髪のツインテール天使、パスティエルが付けてくれた「ある程度のステータス強化」ってヤツの一つなのだろうと思う。

 以前、夜になっても帰ってこなかったデミスとアグレインを捜して、暗い森の中を走り回った時も思ったけど、今の俺の目は結構夜目が効く、と言うか今は昼くらいだから暗がりでも視界が効く。

 それに比べるとリノアは高い天井の一角から少しだけ光が入ってきているとはいえ、この暗さじゃ、やっぱり心細いよな。

 歩き回っている間も、さっきから、俺の服のすそにぎめてはなさないでいるし。

「ほら、手をつないでいろ。その方が、転びそうなときつかまりやすいからな」

「うん」

 俺が差し出した手をリノアの小さくて柔らかな手がにぎると、また二人して歩き回り始める。

 何度見ても、登れそうなところはないし。

 せめて横穴でもないかと辺りを見渡しては見たんだけど、遮蔽物しゃへいぶつになりそうな岩場のような場所は所々に有るものの、どうやらそれらしきものはなさそうに見える。

「疲れただろ? 少し休もうか」

「うん」

 休憩きゅうけいを取ろうと、一通り見回って元の場所に戻ってきて、適当に座れそうな岩に二人で腰を下ろす。

「わたしたち、ずっとこのままなのかな?」

 いつもの明るいリノアの声が、流石に今は心細そうに小さく発せられている。

 これはまずいな。

 何か言わないと、

「大丈夫だ! 俺がなんとかするから」

 自分で言っててなんだけど、我ながら何のひねりもなく、それでいてちょっと無責任な言い方をしてしまったと思う。

 「なんとかする」なんて簡単に言うヤツは大抵どうにもできないと俺は考えているから。

 実際問題、今はどうだろうか?

 取りあえず考えるべきことは二つだろうか。

 ここから脱出する方法と、脱出することが出来そうにない場合、救援を待つ方法。

 その前に、まず、食料は?

 最悪、リノアにバレる事になるけれど……。

 俺が今空間収納内に持っているものは

 ダブルグロスターチーズと七味唐辛子、マヌカハチミツ、か。

 不幸中の幸いと言うべきか、『空間収納』の『福袋』でえられたものは食料系統の物だった。

 それに水

 ……火も、なんとかなるか。

 さっき穴に落ちた時、落下の衝撃を和らげるために空間収納からは草の類は全部放出したけれど、あの中には食べられる野草やキノコもあったし

 探せば、アシュランベアだって。

 アシュランベアって、食べられるのか?

 基本は熊の肉だよな?

 なら、大丈夫だと思うんだけど。

 これで、食糧は取り敢えずしばらくはなんとかなりそうだ。

 バレると言うなら、最後の手段だけど、空間収納で土砂や石を取り込んで天井の穴の下に山を作っていって脱出するって方法も出来るかもしれない。

 ただ、このスキルも一日にそう何度も出し入れが出来る訳じゃない。

 あまり使い過ぎれば疲労がたまるし。

 ……やっぱり秘密にしておくべきだろうか……。

 しばらく、沈黙が続く。

「なあ、リノ……」

「ねえ、フォルトちゃん」

 いきなりそれまで心細さからか、だまっていたリノアが口を開いた。

「どうしたリノア?」

 自分の言葉が止められ、ちょっと面食らったけど、俺は自分の考えを一旦いったん置いておき、リノアに尋ねる。

「何か音が聞こえない?」

「えっ?」

「あっちの方」

 リノアが指差した方をよく見てみる。

 見た目には特に変化はないような気がする。

 けど確かに耳を澄ませて聞いてみれば、

 薄暗い空洞内の奥の方から、


 カサリ、カサリ


 という音の後にパラパラという砂や小石の落ちる音が聞こえてくる。

 それにしても、こんなかすかな音、よく聞こえたな。

 俺は目と同じで聴力も「ある程度のステータス強化」とやらで、耳が良くなっているだろうけど、リノアはこの見えにくい中、視界が効かない分、耳がまされているのかもしれない。

 それにしてもだ。

(まっ、まさか、アシュランベアが生きていたのか!?)

 俺は内心冷や汗をかく。

(いや、そんな筈は、俺の『空間収納』の『福袋』の中に確かに『マヌカハチミツ』が入っていたし……やっぱり、魔物を倒す事が条件じゃないんだろうか?)

 俺がそんな事を考えていると、その影はゆっくりと土砂の中からはい出て来た。

 シルエットは複数の腕に赤い二つの目。

 やっぱりアシュランベアなのか?

 けど、なんか違う

 暗くて見えずらいけど、何というか微妙に形が違うように見える。

 それに、音からして多分複数いる。

 やがて、少し姿がはっきりして来た。

 毛じゃない少し光沢のあるような黒い身体!?

 その中央に光る赤い目。

 しかも、やっぱり、予想通り一匹じゃない!

 複数!

 赤い目が暗がりに幾つも光っている。

 うそだろ、おい!

 ひょっとして。

 これは、

 前世地球の、

 黒い悪魔か!

 しかも、あんな巨大なの!

 俺は背筋に冷たい物を感じた。

 そいつがゆっくりとこちらに近付いてくる。

「逃げるぞリノア!」

 俺は殆ど本能的な恐怖であまりよくそいつを見もせずに、リノアの手を取って、黒い何かとは反対側に向かって走り出していた。

「ボムビックアントだね」

 そんな中、逃げながらもリノアから声が掛かる。

「ボムビックアント?」

「うん。前に教会の魔物のお勉強でヒューク先生が本の絵を見せて説明してくれてたもん」

「そうだったっけか?」

 教わったような、教わらなかったような……。

 アリかあ。取り敢えず黒い悪魔じゃなくてよかった……って、あんな大きいの、いいわけあるか!!!

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