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25 俺がこっそり後を付けると、俺も後を付けられていたんだが

 俺が野草取りをしていると、遠くの森の中にヒューク司祭が歩いているのが見えた。

 こんな所で何をしているのだろうか? そう思った俺はちょっとした興味本位から、少し離れてこっそりと後を付けてみることにした。

 夏に入ったばかりで青々と茂る草木の中を踏んで、音をたてないように慎重に少しゆっくりと歩く。

 普段はあまり意識してないけど、意外と難しいもんだな。

 ヒューク司祭に見つからないように姿を隠すために草むらや木々に隠れて進もうとすると、足元を気にして、服とか腕とかに草木が当たって、微(かす)かな音を立ててしまう。

 風でも吹いていれば、草木の揺れる音に多少はかき消されるのだろうが、あいにくと今はそよ風一つ吹いてはいない。残念ながら無風だ。

 こりゃあ、あんまり近付き過ぎるとバレるな。

 少し遠いけど、木の影から覗(のぞ)き見て観察してみる。

 何をしているんだろうか? こんな所で?

 ヒューク司祭はしきりに辺りを見渡しては手に持っている羊の皮で造られた紙、羊皮紙らしき物とを交互ににらめっこしている。

 ヒューク司祭……ヒューク先生の話では、この世界ではまだ、紙が貴重品なので、全くないというほどではないらしいが、一般的には羊皮紙が広まっているようだ。

 それ以外にもいつもの紺色の法衣に大きな袋を背負ってたり、肩から縄の束を掛けていたり、何と無く普段とは見慣れない恰好をしていた。

 宝探し? ……違うか、子供じゃあるまいし。

 そんな推測をしながら、どこか探偵や刑事ドラマの尾行気分で追いかけていく。

 そう言えば、前世で兄貴と似たようなことをした覚えがあったなあ。

 俺は少し懐かしい気分になりながら、ヒューク司祭の歩いて行く方へ近付いて行った。

 もう少し近づけるだろうか?

 辺りを見回してみると、少し離れた所に身を隠すのに手ごろそうな草むらが生えていたので、慎重に足音を忍ばせてそこまで移動する。

 そお~っと、そお~っと。

 よし! 成功。

 長く伸びた草の間からそっとこっそりのぞいてみる。

 俺が草むらの隙間から顔を覗かせようとしたその瞬間。

「フォルトちゃん」

 俺はチョンチョンと右肩を指で突(つつ)かれ、近くで小声でささやかれた。

(!+*×!!!」)

 その声に、思わず大きな声で叫びそうになるが、それを必死に両手で口を押えてこらえた。

 思わず背中に冷たい物が流れ、体温が上がるのを感じる。

 心臓もバクバクいっているのが分かる。

 声を出さずに慌てて振り向くと、そこには見慣れた顔が不思議そうな表情を浮かべて間近にあった。

「リノア、」

 ヒューク司祭を追いかけて森の中を進んできたから、ここは大分森の奥に近くなり、本来なら子供が入ってきていい場所じゃない。

 ……人の事は言えないけど。

「どうしてここに?」

「木の実を拾いに来たら遠くにフォルトちゃんが見えたから驚かそうと思って、忍び足で近付いてみたの。どう、気付かなかったでしょ?」

 満面の笑みを浮かべて俺を見るリノア。

 確かにまったく気が付かなかった。

 肩を突(つつ)かれ、声を掛けられた時、本気で心臓が止まるかと思った。

 きっと、ヒューク司祭を追いかけるため、音をたてないように自分に神経を集中させていたからだよな?

「フォルトちゃん、何をしているの?」

「しっ」

 リノアが尋ねて来たのに対し、俺は人差し指をリノアの口元に立てて、言葉を止める。

 リノアは声を出さずにコクコクと頷(うなづ)いた。

 チラリとヒューク司祭の方を向くと、少し先程より離れた場所の草むらをかき分けて奥へと歩いて行く後姿が映った。

 よかった。離れていたのと、草むらの音で、何とか気付かれずには済んでいたようだ。

「ヒューク司祭を追いかけてるんだ」

 俺は小声でリノアに耳打ちする。

「ヒューク司祭様を?」

 リノアが俺の隣に来て、俺と同じようにそっと草むらの影からヒューク司祭の方を覗(のぞ)き込んだ。

「本当だ。ヒューク司祭様だね。森の奥の方に向かっているけど、何をやっているんだろう? 一人じゃ危ないよ」

 リノアが首を傾(かし)げる。

「それを確かめてるんだよ」

 俺が答えると、リノアは少し考え込んでから俺を見て言った。

「わたしも一緒に行く」

 なんか前にも聞き覚えのある言葉を聞いたな。

 あれは去年の今頃、俺がリノアを庇(かば)ってイノシシの突進と衝突して腕を骨折し治った後、しばらく俺の後をチョコチョコとくっ付いてきていた時に良くリノアが言っていた言葉だ。

 あの時は流石に少しうっとおしくなって、走って村中を逃げ回ってリノアをまいたら、俺の家の前でリノアが泣いていて、それをナーザ母さんに怒られて夕御飯抜きになったんだっけか。

 今ダメ出ししても同じだろうし。

 どうするかな……。

「ヒューク司祭に気付かれないようにするんだぞ」

「うん、まかせて。わたしこういうの得意なんだから」

 なんか自信有りげに、リノアが胸を張る。

「そうだったのか?」

 どこからその自信が出てくるのかさっぱり分からないが、そう言うと移動したヒューク司祭を追って二人で隠れながら木から草むらへ、草むらから岩陰へと移っていった。

 しばらく、後を追っていると、少しだけ開けた場所に出た。

 周りには隠れられそうな木も大きな石も草むらもない。

 その先に進もうとするヒューク司祭。

「どうしようか。ここから先、あっちの茂みまで隠れる場所がないから、隠れながら後を付けるのは難しいよ」

「そうだなあ……どうしようか」

 俺が考えながら一歩を踏み出した。


 パキッ!


 乾いた音がやけに森の中に響いた。

「えっ!?」

 一瞬固まった後、思わず足元を見る。

 枯れ木を踏み折ってしまったらしい。

(しまった! バレたか!)

 俺は背中に冷や汗をかく。

 リノアに言っておきながら自分がやらかしてどうすんだよ。

 リノアが軽く俺の服の裾を引っ張る。

 見れば、ちょっとジト目のリノアが俺を見ている。

 うっ、気まずい。

「誰かいるのですか?」

 開けた場所で振り返って声を掛けてくるヒューク司祭。

「「……」」

 しばらくの沈黙。

 はあ、仕方ない。

 ヒューク司祭の後を付け、森の奥近くまで付いて来てしまったのは悪かったけど、今なら少し怒られる程度で済むはずだ。

 俺は隠れるのを止め、観念して隠れていた草むらから出ていくことにした。

 リノアも後に続く。

 二人でヒューク司祭の前までいって並んで立ち止まる。

「フォルト君とリノアさんではないですか! 何故、ここに? ここは森の中程ですよ。子供達だけで野草取りに来るのはあまり良いとは言えませんね」

 ヒューク司祭が少し驚いたような表情を浮かべている。

「ヒューク司祭ごめんなさい。ヒューク司祭が森の奥の方に入って行くのが遠くに見えて、何をしているのかが気になったら、つい、後を追いかけてしまってて……リノアはその俺を見つけて後を追ってきただけらしいんです。悪いのは俺ですから」

「それでも、一緒に来ちゃったのはごめんなさい」

 俺がヒューク司祭に向かって謝るのと一緒に、リノアも隣に立って謝りだす。

「ここまでわたしの後を追ってきたのですか? はあ、全然気が付きませんでしたよ」

 ヒューク司祭が大きく溜め息を付いた。

「何故、わたしの後を追いかけようと思ったのですか?」

 ヒューク司祭が俺に問いかけて来た。

「えっと、理由って程の事はないんだけど、なんとなく、いつものヒューク司祭と感じが違ったから、気になって……」

 俺はうまく説明できていないであろう理由を述べる。

「そうですか……子どもらしい好奇心でしょうかね」

 それでも、ヒューク司祭はいつもの穏やかな笑みで俺の話を聞いてくれた。

「ヒューク司祭はこんな所まで来て、何をしていたんですか?」

 俺は野草取りをしていた際、ヒューク司祭を見かけた時に初めに思った事を素直に質問してみた。

「散歩ですよ」

 ヒューク司祭は苦笑交じりに言った。

「散歩?」

「ええ、日課とはいきませんが、時折、時間の出来た時、こうして森を散歩しているんですよ」

「そんな大きな荷物を持ってたり、何か見てたりしながらですか?」

 小さな子供に分かり易く言ったつもりなのかもしれないが、俺はどうにもヒューク司祭の恰好が只の散歩には見えないことに疑問を投げる。

「前に森で出会った時、地面が揺れたことを調べているって、ヒューク司祭様は言ってましたよね? もしかして」

「良く覚えていましたね。リノアさん」

 ああ、そう言えば、一年くらい前に、ここら辺では珍しい地震があったっけ。しかも、結構大きいやつが。

 でも、その事を調べるにしても時間が経ちすぎているような気がするけど。

 前世日本でいうところの地質調査とか、研究とかみたいなものかな?

 リノアも同じようなことを思ったのだろう。子どもの目というのは大人が考えている以上に大人達を見ているし、大人達とは違った視点を持っている分、軽視できない。ただ、考えを整理してからまとめて判断することが慣れていなくて煩雑になるだけで。だから、子供には分からないだろうと決めつけて誤魔化すことは時に子どもからの不信感を生むことにしかならない。

 俺の疑問の表情に気が付いたのか、それとも神様に仕える司祭だけに子どものそんな心情を察したのか、ヒューク司祭は軽く溜め息を付いてから口を開いた。

「私はこの森の何処かに、神の神殿が眠っているのではないかと考えているんですよ」

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