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22 俺の疑問が、深まる一方何だが

「良くやったな、と言ってやりたいが、フォルト、お前と言う奴は無茶をし過ぎる」

 火事の後一段落ついたところで、オズベルト父さんに少しだけ説教を受けた。

「ごめんなさい」

 俺は素直に謝った。

 オズベルト父さんの言葉を改めて振り返って見る。

 この1年足らずの間に、リノアを庇ってイノシシの直撃を受け、デミスとアグレインを助けるため魔物のアルマジラットと対峙し、今回、赤ちゃんのフレアを救い出す為火の燃え盛る家の中へと飛び込んだ……。

 確かに、オズベルト父さんの言葉通り、冷静に考えて無茶をしていると自分でも思う。

 親に心配かけてばかりだ。

 前世から考えても、俺ってこんなに後先考えずに行動するタイプだっただろうか?

 自分でももうちょっと冷静な性格だと思ってたんだけどなあ。

 前世で、危険な動物に襲われたり、消防士のいない火事の現場に遭遇したことが無かったから、何とも言えないけど。

 いざ、そういう場面に遭遇した時、同じような行動をしていたのだろうか?

 今回も無茶をしたことはとがめられたが、そこまでひどく怒られることは無かった。

 ただ、無事で済んだのはあくまで結果論で、大やけどを負ったり、下手をすれば火に巻かれ焼け死んでいてもおかしくなかったことを、とくとくと言い聞かせられた。

「フォルトは女の子たちに人を呼んでくるように言ったり、俺たちにすぐに水をくように井戸に走り出したり、頑張ってたよ!」

 その時、ハワルト兄さんがつたないながらも一生懸命に俺の行動を弁護してかばってくれたことが、何となく嬉しかった。やっぱり俺の兄さん何だなと改めて思う。

 その後、バーバラおばあちゃんからも助け船が入った。

「怒らないでやっておくれでないかい。フォルトのおかげで、孫娘のフレアが助かったんだ」

 そう言った後、バーバラお婆ちゃんは俺の両手を取り、涙ながらに感謝してくれていた。

 それが何となく気恥ずかしくなり、俺は視線をあちらこちらへと彷徨さまよわせていると、ふとリノアと目が合った。

「……」

 リノアは何も言ってこなかったが、その表情はなんとなくだけど、不安そうな、泣き出しそうな、怒っているような、そんな感情が入り混じった複雑な感じがした。


   ◇


 火事の後、家に帰って夜自分の部屋で一人で落ち着いてから、昼間燃え盛る家の中で感じた何もしていないはずなのに空間収納に何か入った感覚を確かめるべく、俺は心の中の空間収納に意識を向ける。

 結果から言えば、俺の空間収納に変化が二つあった。

 まず一つ目が『火』の項目が出来ていたことだ。

 これって火を取り込めたってことだよな?

 危なくて、おいそれと出して確かめることが出来無さそうだけど。

 行き当たりばったり、本当にその場の思い付きのぶっつけ本番だったんだけど、自分でも、よくぞまあ収納できたと思う。

 いずれ何処どこか安全な場所でいろいろ試して見たいとは思う。

 それは一旦置いておくとして。

 もう一つが『空間収納』の『福袋』の中身だ。

 俺の仮説。

 『魔物を倒すと空間収納に前世地球の品物が入って来る』

 と、考えていたんだけど、あの時、俺は火の中、フレアを助け出す為水を出し、火を消しながら家から脱出しただけで魔物には遭遇しても倒してもいない。

 俺の仮説が間違っているのか?

 それとも何かを見落としたんだろうか?

 これも一先ず置いておいて、中身の事なんだけど、

 入っていた者は、

 『七味唐辛子』

 だった。

 取り出してみる。

 前世、食卓で見慣れた小さな円筒形の小瓶だった。

「……」

 正直、良く分からん。

 ダブルグロスターチーズの次が七味唐辛子……。

 やっぱり、関連が解らん。

 もしかしたら関連性はないのかもしれないけど。

 今日は疲れたので、取りあえず考えるのをやめてベットに着いて眠ることにした。

 すぐに睡魔が襲ってきて、俺は深い眠りに落ちていった。


   ◇


 次の日の朝。

 いつものように……朝、リノアに起こされて目が覚める。

「おはようフォルトちゃん!」

 昨日の様子は何だったんだろうか? 今朝のリノアはいつもと変わらない様子だった。

 朝食時の食卓。

「ねえ、父さん」

「どうしたフォルト?」

「火みたいな魔物っているかな?」

 朝起きて、ふと思いついた事をオズベルト父さんに聞いてみる。

「火みたいな魔物? まあ、いるといえばいるが」

 オズベルト父さんは顎に手を当てて考える。

「どんなのがいるの?」

「口から火を吐く魔物とか、全身が火に包まれた魔物とかだな」

「口から火を吐くなら、やっぱドラゴンだろ!」

 ハワルト兄さんがパンを食べながら言ってくる。

「ハワルトはドラゴン、好きだな」

 アムルト兄さんがそればっかりだなというような笑みを浮かべる。

「だって、カッコイイじゃん!」

「……」

 アムルト兄さんとハワルト兄さんのやり取りを横目に考え込んでいると、

「フォルト、どうしたんだいきなり」

 オズベルト父さんが気付いて尋ねてきた。

「ちょっと思ったんだけど、ブレイラさんの家の火事、魔物の仕業ってことないかなあ?」

 なので、俺は思った事を聞いてみることにした。

「うむ……お前のあのアルマジラットの一件以来森に魔物が出たという話はないからな。それにもしそうなら、森で火事が起きている可能性の方が高いだろ」

「そっか」

 それでも何となく釈然としない思いが心に残る。

「そう……」

 俺はコップの中身のミルクに視線を落とした。

「何か気になることがあるのか?」

「いっ、いや、そう言う訳じゃないんだけど」

 根拠が俺の空間収納に前世の品物が入ったからとか、不用意に言えない。

 火事にしても、燃え方が奇妙過ぎる気がする。そりゃ、別に専門家ってわけでもないからはっきりしたことは言えないけど、……。

 『空間収納』の『福袋』の中にドロップされる条件が俺が魔物を倒したことによるものならば、今回の火事は間違いなく魔物の仕業なんだろうけど、どうオズベルト父さんやナーザ母さんに説明していいか分からない。

 この世界には魔法があるし、どうやらそれ以外にも特別な能力もあるらしいことは最近教会に勉強しに行き初めて知った。

 確か前世のクラスメイト達が言っていた『スキル』とか『ギフト』とかいうものだよな。

 それにからめたとしても、俺の『空間収納』は秘密にしておいた方がいいって事だし。『福袋』についてはさらに話せない。話しても、前世の日本の品物なんて話、普通に考えて正気を疑われるだろうな。

 それ抜きでどうやって魔物の仕業かも知れない事を伝えられるだろうか?

 機会を見て森に入って確かめた方がいいかもしれない。

「ほらほら、あなたたちおしゃべりしてないで早く食べちゃって」

「「は~い」」

 ナーザ母さんの声がキッチンから飛んできた。

「……フォルトちゃん」

 俺が考え込んでいる横で、ジッと見つめていたリノアのつぶやくような小声を、俺は気付かずにいた。


   ◇


 マイクスさんとブレイラさんの家が火事になって、あれから数日。

 結局、周囲への飛び火は防げたものの、マイクスさんとブレイラさんの家は全部焼けてしまった。

 それでも周りの人達はマイクスさん一家に誰も犠牲者がでなかったことがせめてもの救いだと言っている。

 あの後、マイクスさんとブレイラさん、そしてフレアはブレイラさんの母親のバーバラお婆ちゃんの家に身を寄せることになった。

 そして、何より周囲の人達から心配されていたフレアとブレイラさんのお腹の赤ちゃんが、ヒューク司祭によって無事であることが確認され、皆に伝わると、ようやく重々しかった雰囲気に少しだけ安堵の空気が流れるようになってきた。

 それから徐々に日常が戻り始めていく。

 俺の心の中のつかえを他所に……。

「コラッ! フォルト集中せんか!」

 木剣を振るっていた手をボライゼ師匠の木剣に叩かれた。

「はっ、はい! すみません」

「ふむ、珍しいのう。フォルトが集中を欠くなどとは。何か悩みでもあるのか?」

「いえ」

 行けない。集中しないと。

 俺は落とした木剣を拾い上げ、大きく方で深呼吸をしてから再び木剣を振るい始めた。

「……フォルトちゃん」


   ◇


「……ルト……ん」

 でも森の奥に入ったとしてどうしようか?

「……ルトくん」

 魔物を探し出せたとしてどうする?

 でも、確かめないと。

 証明できないなら証拠を探さないと。

「フォルトくん」 

「はっ!」

 俺はハッとなり、思考が引き戻される。

 気が付けばヒューク司祭が目の前に立っていた。

「珍しいですね」

「すっ、すみません」

 ヒューク司祭は軽く微笑むと、元の位置に戻っていき、再び話し始めた。

「ボムビックアントは巨大な蟻で、巣や自分たちが危険にさらされると……」

 何かが森に起きているのか?

 確かめないといけないかもしれない。

 やっぱり、黙って森に行ってみるしかないな。

 そのためには魔物を倒せるくらいに少しでも強くならないと……。

「……フォルトちゃん」

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