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21 俺が考えなしに、火の中に飛び込んでしまったんだが

 オギャア! オギャア! オギャア!


 燃えさかるブレイラさんの家の中から、赤ちゃんの泣き声が聞こえてくる。

 俺は入り口の扉に水を掛けた後、空になった桶を捨て、扉の様子を確認すると、迷わず扉を開け中へと飛び込んだ。

「「フォルト!」」

 家の中に飛び込む背中に、ハワルト兄さんとデミスとアグレインの声が重なって聞こえたが、その後後ろで火の勢いが強くなり、俺は避けるとともに奥へと入っていった。

 ブレイラさんの家は二階建てで結構広い。

 まあ、現在の俺の家もそれなりに広いけど。

 田舎の家の造りだから、そう思えるのかもしれない。前世日本での俺の爺ちゃん家も街中の俺の家よりかなり大きかったし。

 意外にも家の中は外の見た目ほどにはまだ火が回っていないようで、煙や熱はあるものの、何とか動くことは出来そうだった。

 とは言っても、所々に火がついているから時間の問題なんだろうけど。

 急がないと。

 赤ちゃんは何処だ!?

 俺は火の燃え盛る家の中、赤ちゃんの泣き声を追って耳を澄ませる。


 オギャア! オギャア! オギャア!


 2階か!

 俺は泣き声のする2階に向かって所々に火のついて燃えている階段を駆け上がった。


 オギャア! オギャア! オギャア!


 2階にたどり着くと廊下を走り、泣き声をたよりに赤ちゃんのいる部屋を目指す。

 ここか!

 俺は勢いよく扉を開いた。

 そのせいか、室内の火の勢いが強まったらしく、俺の方へと火が迫って来る。

「うわっ!」

 俺は慌てて手で顔を庇いつつ、少し後ろに後ずさり火を避ける。

 直後、火の勢いが少し引いたのか、部屋の中の様子が目に入ってくる。


 オギャア! オギャア! オギャア!


 部屋の真ん中あたりに、赤ちゃんが揺り籠の様なものに寝かされている光景が目に飛び込んできた。

 今まで必死で気付かなかったが、周りの壁にはもう火が回っているせいか、パチパチと木のぜる音がする。

 部屋の真ん中にいたおかげか、赤ちゃん自身はかろうじて無事のようだ。

 ただ、熱気が凄い。

 この熱で赤ちゃんは無事だろうか?

「……フレア」

 俺は赤ちゃんの元に駆け寄ると、揺り籠から赤ちゃん、フレアをき上げ、かかえる。

 顔を覗き込んでみる。


 オギャア! オギャア! オギャア!


 よかった。なんとか大丈夫そうだ。

 俺は少しだけ安堵あんどの息をらす。

 でも、身体が熱い。

 一つくらい水の入った桶を持ってくるべきだっただろうか。

 そんな余裕は無かったけど……。

 水……。

 そうか! 俺にはその手があったか!

「ごめんな。ちょっと冷たいけど我慢してくれよ」

 俺はフレアに声を掛け、それから思い付いた、以前空間収納に貯めていた川の水をフレアにバシャリとかけ取り敢えず身体を冷やし、少しでも火から守れるようにした。

 そしてフレアを抱え、入口へと走り出す。

 窓から脱出することも考えたが、この世界の窓はガラスではなく木の板を開いてつっかえ棒をする仕組みで、寝ていた赤ちゃんのためか今は窓の木板が降りてしまっている上、火が回り、とてもフレアを抱えたまま近づける状態ではなかった。

 廊下に飛び出し、階段を目指して駆ける。

 僅かな時間の筈なのに大分火が回っている。

 間に合うか?

 俺は階段にたどり着くと、階段下を見て動きを止めた。

 思わず息を飲む。

 もう火が回ってる!

 さっきまでは何とか通り抜けられたのに!

 近くの部屋に逃げ込もうにも、外から見た時の感じ、家の外側の方が燃えているように思えた。

 どうする?

 自分だけなら火傷も覚悟できるが、フレアは女の子だし。

 火傷なんか追わせられないよな。

 どうする?

 時間がない。

 どうする?

 俺はフレアを抱えたまま、周囲に目線を走らせる。

 考えろ!

 考えるんだ。

 打開策は……。

 そうか!

 さっきの水!

 空間収納に入っている水。

 以前に物体だけじゃなく水も入れられるだろうかと、実験がてら川の水を空間収納に入れようと試したことがあった。

 途中で中断したため、それ程大量に入っているわけではないけど、それでも今くらいの火なら行けるか?

 今の俺の能力じゃ、取り出す際に消火器みたいに噴射することは出来ないけど。

 ここなら高さを利用すれば。

「よし!」

 俺はフレアを抱え直すと、右手を階下に向けて翳した。

「行くぞ!」

「出ししみは無しだ!」

 俺は空間収納に入っている川の水を一気に全部放出した。

「いっけー!」

 消火器みたいに勢いよく噴射は出来なくても、少し押し出すイメージで空間収納から水を取り出せば、2階からの高さも手伝って、少しだけ放物線を描くように前方へと水の塊が噴き出していく。


 プシュアアーー!!


 音を立てて煙が上がる。

 よし!

 火の勢いが弱くなったと同時に階段を急いで駆け下りる。

 いける!

 そう思った。

 けど、

 階段を降りてすぐ、入口の扉までがすでに火の海になっていた。

 「なっ!」

 さっきまで入口付近はそれ程でもなかったはずなのに。

 いくら何でも火の勢いがおかしいだろ!

 思わず心の中で叫ばずにはいられなかった。

 入り口の辺りは思った以上に激しく燃えている。

 ここまでか。

 あと少しだっていうのに……。

 こうなったら、火傷覚悟で走り抜けるか?

 外で皆が水を持って待ち構えていてくれれば、あるいは。

 でも、やっぱり。

 抱えているフレアを見る。

 出来る事なら火傷なんてさせずに、無事マイクスさんとブレイラさんのもとへ連れて行ってあげたい。

 俺が少しの間思い悩んでいる その時だった。

 ふと、何かが空間収納に入った感覚が頭によぎった。

 えっ!?

 何で今!

 こんな時に!?

 これって以前アルマジラットを倒した後で俺の空間収納にダブルグロスターチーズが入って来た時と同じ感覚だ。

 でもどうして?

 魔物を倒したら空間収納の中に何かが入って来るんじゃないのかよ?

 魔物は関係ないのか?

 疑問が募る。

 けど。

「ゲホッ、ゲホッ」

 今は。

「煙を少し吸い込んじまった」

 気が付けば、室内の煙が徐々に濃くなってきている。

 急がないと。

 チラリとフレアを見る。

 ええーい!

 考えるのも確かめるのも後だ!

 それよりも。

 空間収納の中に入る、か。

 それに、吸い込む……。

 そうか!

 空間収納か……。

 なかにあるもので、何か使える者はないかとばかり考えていたけど。

 水が収納できたんだ。

 火だって。

 俺は赤ちゃんをもう一度少し抱え直すと、右手を前に突き出す様にして集中する。

 焦る気持ちをグッと抑えつつ、目を閉じて息を吐く。

 すると。

 何かが周りに纏わり付くような感じがした。 

 そして、

 目を開く。

「行くぞ!」

 ぶっつけ本番!

 俺はフレアを左手だけで抱え、右手を前に突き出したまま、火に向かって走り出した。


   ◇


「「フォルト!」」

 走り抜け、扉をくぐった瞬間、皆が俺の名前を呼ぶ声が耳に入ってきた。

 助かった。

 そんな安堵の気持ちが心によぎる。

 だけどその前に。

「ハワルト兄さん! 皆! 俺達に水を掛けて! 急いで!」

 俺の声に反応して誰かが俺たちに水を掛けてくれた。

 それに続いて、次々と水を掛けられる。

 季節的にまだ冬の終わりを少し過ぎたくらいの寄稿なので、水がちょっと冷たい。

 でも、生きてる感じはする。

 改めて、本当に助かったんだな。

 幸い、火は燃え移っていなかったみたいで、俺も赤ちゃんも火傷らしい火傷は見当たらなかった。

「フレア!!!」

 ブレイラさんが感情が爆発したかのように俺のところに駆け寄って来る。


 オギャア! オギャア! オギャア!


 フレアも母親が心配しているのが分かるのか、一層大きな声で泣き出した。

「ブレイラさん、フレアは無事です。はい」

 おれはブレイラさんにフレアを渡した。

「フレア! よかった、フレア!」

 すると、ブレイラさんはフレアを受け取ると強く抱きしめ激しく泣いていた。

 良かった、赤ちゃんが何とか無事で。

 俺はホッと胸を撫で下ろす。

 そうしてその姿を見ていたら、急に体の力が抜けていくのを感じた。

 俺は近くの石に座り込む。

 緊張が解けたんだろうな。

 俺ははあっと、大きく息を吐いた。

「おい、大丈夫かフォルト!」

 デミスが心配そうに声を掛けてくる。

「ああ、大丈夫。緊張が解けて力が抜けただけだから」

「びっくりしたよ。いきなり燃えてる家の中に飛び込んで行くんだもんな」

「でも無茶し過ぎだぞフォルト。また父さんに怒られるぞ」

 アグレインもハワルト兄さんも心配してくれているみたいだ。

 ハワルト兄さんの言葉には苦笑するしかないけどね。

「フォルトちゃん!」

 遠くで声が聞こえる。

 顔を上げて見れば、リノアとシスカとククルが数人の大人達と一緒に走り寄って来る光景が見えた。

 それから、リノアたちが呼んできてくれたようで、徐々に大人たちが集まってきて、消火活動が始まった。

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