18 俺がリノアに、誕生日プレゼントを送ってみたんだが
今日はオズベルト父さんから火鑽のやり方を教わっていた。
火鑽は板に燃えやすい木くずや枯れ葉などを置き、棒を擦り摩擦熱で発火させるやり方だ。前世、よく本で古代の人達の暮らしで火を起こす挿絵に載っていたのを見たことがあったし、小学生の頃、転生前の兄貴と田舎の爺ちゃん家の庭でバーベキューををした時に少しだけやったことがある。あと、中学の頃、部活の夏休みの合宿で、キャンプファイヤーをした時もやったけど、あの時は周りのチームメイトがふざけあってて、結局うまく行かず、先生がライターと着火剤で火をつけてくれたんだよな。
「よし、フォルトもう少しだ。慌てずに息を吹きかけて、火を大きくしていくんだ」
「はい、父さん。ふー、ふー」
木の板に棒をこすりつけて煙を起こし、少しついた火を絶やさないように息を吹きかけて徐々に火を大きくしていく。
「火を使うときは必ず水を用意しておくか水系統の魔法が使える人と一緒にしなさい」
この世界、コンロやライターの様なボタン一つで火が着く便利な道具はまだ普及していないみたいだ。代わりに、そんなものが無くても火を付けられる便利な魔法という存在があるらしいんだけどな。
「特に森の中での火の取り扱いは充分注意をしなければ取り返しのつかない大火事を引き起こしかねない」
それは良く分かる。
前世でもニュースでやっていたのを見た覚えがある。
一旦森林火災が起こると、ものすごい数の消防自動車やヘリコプターが消火に当たっているのに、一向に火の勢いが収まる気配が無く、何日も燃え続け、広大な面積の森林が焼失してしまうことになる。
この世界だと、さらに大変なことになるだろう。
パスレク村は近くの森林から食料や薬になる物や素材などの多くの恵みを得ている。
だからこそ、火の取り扱いは慎重にしなければならないと思う。
「でも、どっちもない時は?」
「砂をかけたり、足で踏んだりするが、今は出来るだけ水を用いることを考えるようにしなさい。分かったな」
「「「は~い!」」」
「よし。じゃあ、煙が出て来たら、木くずや枯れ葉に移して火を大きくしていくんだ」
「父さん、手の平が痛くなってきた」
ハワルト兄さんが両手の手の平を握ったり摩ったりしている。
確かにこれってずっとやっていると手の平が痛くなるんだよな。しかも、今の季節は結構寒いし。
毎日長年やっていれば手の平の皮も厚くなって慣れて来るんだろうけど、子供の柔らかい手の平だとかなりきついんだよな。
まあ、ハワルト兄さんはアムルト兄さんと俺とで、誰が一番早く火を起こせるか勝負しようぜとか言って、ムキになって力一杯こすっていたからな。そりゃ手も痛くなるよ。
どうやら俺は普通の子供よりは大分力があるらしく意外と簡単に火をおこすことが出来た。まあ、力だけって言う訳じゃないけど。
「フォルト、うまいじゃないか」
「むう、フォルトに負けた。何か悔しい」
「もう一回やる?」
「手が痛いからヤだ」
「僕も手が痛いかな」
ハワルト兄さんに続いてアムルト兄さんもギブアップの声を上げる。
「よし、今日はこれくらいにして後片付けをするか。三人とも火の後始末の確認はしっかりするんだぞ。水を掛ける時は火の上側ではなく、火の元を狙ってかけるんだ」
「「「は~い!」」」
俺達はそれぞれ片づけをはじめ帰る準備をした。
◇
お昼過ぎに、行商人の馬車がパスレク村を訪れた。
月に2~3回ほど、ラドンツの町からパスレク村にやってくる。
毎回、ちょっとしたイベント騒ぎになり、子供から大人まで集まって見に来る。
干し肉や干し魚、塩、油、古着や小物までいろいろな物を運んできてくれる。
異世界に転生して驚いたのは肉の中に魔物の肉が売っていたことだ。
何故、それが解ったかというと、行商人のおじさんが、「オークの肉を入手した」と自慢げに話していたからだ。
前世、それ程ゲームとかアニメとかには詳しい方ではなかったけど、流石にこの魔物の名前は聞いた事があったので、ちょっと驚いた。
だが、オークは俺が前世で知っていた通り、いくら豚に似ているからと言っても凶暴で、いくら食べられると言ってもおいそれと手に入れるのは出来ないらしい。
それこそ、冒険者でもなければ退治することが難しいのが理由なのだそうだ。
その魔物の肉も食用として売っているという。
「魔物の肉って食べれるの?」
「もちろんだ。当然、食べられる魔物と食べられない魔物はいるがな。前に話した海……川よりもっと大きくて水の沢山ある所にいるデビルロブスターなんかも魔物だが、身がプリプリしていて美味いぞ」
「へえ、食べてみたいかも」
俺はオズベルト父さんと話しながら並べられた商品を眺めていく。
そんな中で、ちょっとした飾りみたいな物やお守りみたいな物があったけど、そういった生活に直結していない物は日常品から考えると、結構高めに思えた。
◇
夜、自室で、ベットに足を投げ出し、左手を枕代わりに頭の後ろにし、右手で以前アルマジラットから得た濁った緑色の魔核を目の前に翳して眺めながら考える。
行商人がパスレク村に来た時に何か良い物は無いかと思ったんだけど、やっぱり基本的に生活必需品が殆どでプレゼントになりそうな物がなかった。
あったとしても、とても子供の手の届くような値段の品物でもないし。
最も、今のオレはお小遣いをもらっているわけでもないので、ほしい物があった場合は親と相談しなければならないんだけどね。
リノアの誕生日プレゼント。
一体何にすべきだろうか?
この世界での誕生日に、一般家庭でプレゼントを送る習慣はないようだ。どちらかと言えば、成人になった時のお祝いに何か仕事関係の物を送るくらいのことをするらしい。
どうも転生して記憶を取り戻してからまだ一年も経っていないため、前世の感覚が残っているせいかついついこの辺のことは日本のイメージで考えてしまう。
思い出しているのは、前世の兄貴が彼女に贈るプレゼントについてあれこれ頭を悩ませていた光景だ。
何やかんや言って、あれだけやきもち焼きでわがままな彼女の為にアルバイトまでしてプレゼントを買おうとしていたのだから、傍から見ていた俺としてはホント不思議な光景に映ったもんだった。
確か、あの時はブランド物の財布だったっけか?
その財布の中に有名レストランのディナーの予約チケットを忍ばせたサプライズプレゼントを用意してたんだよな。
……。
まあ、そんな大げさな物じゃなくてもいいか。
俺は考えをやめ、勢いよくベットから跳ね上がった。
◇
「リノア、はいこれ」
俺がリノアに向かって右手を差し出した。
「なあに?」
リノアが俺の手の中の物を覗き込んでくる。
そこに有る物は子供の小指の先程の大きさしかない小さな濁った緑色の石。
リノアの誕生日にプレゼントとしてアルマジラットから取れた緑色の小さな魔核をプレゼントすることにした。
本当に極々小さな石。
子供のオレの小指の先ほどしかない石。
オズベルト父さんが「お前が倒したのだから、これはお前の物だ」と言って俺に渡してくれた魔核。
「わあ、綺麗な緑の石!」
リノアが大袈裟に喜ぶ。
実際はそこまで綺麗な緑というわけではないけど、ここら辺にある石から比べれば確かに綺麗な方かもしれない。
「俺の誕生日の時に料理を作ってくれただろ。俺は料理なんて出来ないから、その代わりにこれをあげようと思ってさ」
自分の誕生日に料理を作ってくれたお礼ではあるけど、本当、大したものではないことに恐縮してしまう。
「俺が持っている物で女の子に合いそうな物ってこんなのしかないけど」
決めた理由はリノアはよく河原に遊びに行くと、綺麗な石や変わった石を探しているからこれなら気に入ってくれるんじゃないかと思いこれをあげることにした。
「前に森で倒した魔物の魔核なんだけどさ、他にいい物が思いつかなかったから」
なんか俺、同じようなこと言い訳っぽく言ってるなあ。
「フォルトちゃん、ありがとう!」
リノアが緑色の魔核を俺から受け取り耳に当てる。
少しかき上げた髪の間からリノアの耳がのぞく。
(普段は長い髪に隠れているけど、リノアって耳ちょっと大きいんだな)
「フォルトちゃん、どう? 似合うかな?」
リノアのハチミツ色の髪に緑色の魔核は良く映えていた。
「ああ、リノアの髪の色だと良く目立っていると思うよ」
「ぶう、そうじゃないの」
リノアが少し不機嫌そうに口をとがらせる。
褒めたつもりなんだけど、何かお気に召さなかったようだ。
あれ? 俺何かまずいこと言ったかな? 言ってないよね。




