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16 俺が6才になって、進路について相談してみたんだが

 俺は6才になった。リノアの誕生日はもう少し後だ。

 この世界では地球程誕生日のお祝いを盛大にやる習慣はないようだ。精々貴族の子か裕福な商人の子くらいらしい。

 それでも家では簡単ではあるがお祝い、+リノアの手料理が振る舞われた。アムルト兄さんとハワルト兄さんもお祝いの言葉をくれた。ささやかでも、心のこもった温かい家族での祝福。何か嬉しかった。

 6才になって変わってきたことと言えば、以前より少しずつ成長してきて動きやすくなってきている事か。とは言ってもまだまだだけど。

 そして柔軟運動をメインにトレーニングも始めている。『サーキット』なんかをはじめとする筋トレはもう少し後になってから始めようと思っている。

 小さいうちは筋肉トレーニングより柔軟性を伸ばした方が良いだろうという判断からだ。

 今のうちに柔軟性を上げておけば、成長して筋肉が付いて来た時、格段に動きが違ってくる。

 筋肉は成長してからでも比較的付けやすいが、柔軟性は成長してからだと結構得るのは大変だ。

 無理に筋を傷つけるように伸ばして柔軟性を得ても故障の原因になりやすい。

 ちなみにワンポイントとして、基礎トレーニングではなく、実際にスポーツをする際には柔軟運動は短い時間で緩くやる程度の方がパフォーマンスが良くなる。

 なんて、偉そうに言っているけど、あくまで自分の経験則なので、無駄ではないにしろ効率的かどうかは分からない。

 前世、あのまま死なずに大学に進んでいたら、そういうのを勉強するのも面白かったかもしれないな。

 なんてことを考えながら地面に座り足を伸ばしたまま大きく広げて身体を前に倒していた。

 横では当然の様に一緒になってリノアも柔軟運動をしている。

 何気に俺より開脚とか、上体反らしとか、前屈とか、身体が柔らかい。

 前世、小学生の頃は体操クラブに入っていた俺としてはちょっと悔しいので、現在の俺の目標は180度開脚になっている。

「フォルトちゃん、背中押してあげるね」

「ああ、頼む」

 背中を押すというより、リノアが全体重をかけ俺にのしかかっている。

 力が弱いから仕方がないし、体重も軽いので特に問題はないが、何かリノアが楽しそうだ。

 これがハワルト兄さんなら勢いを付けてのしかかってくる。下手すると背中に飛び蹴りをくらわしてくるし。

 こういうのをやる時はアムルト兄さんに頼むのが正解だな。

 それとは別に、空間収納の方もまた、試行錯誤の日々を迎えている。

 新たに気が付いたことと言えば、今まで前世のクラスメイトたちのアドバイス? を思い出したものをメモとして残すのに、平たい石に白い石で書いてそれをメモのフォルダに収納していたんだけど、途中からフォルダに直接書いて管理しておけばいい事に気が付いてからかなり楽になった。

 これは個々の収納をする為のフォルダを作る時、イメージした文字をフォルダ名として記録することができるということが分かってから試して見たらうまく行った。

 しかも階層で管理できるので分野分けしてまとめておけるから、そこそこ使い勝手が良くなった。

 何気に日本語だけどな。

 でも、工夫次第で他にもいろいろ使えそうだ。

 川で取った魚は多すぎる分は空間収納にしまってある。

 他の食材や草や木や石や水も容量を調べる意味で溜めている。

 使えないから仕方がないとはいえ、地味に毒草が溜まって行くのが複雑な気持ちにさせられるけどね。そこいらに捨てるのもなんだし。

 後、前世のクラスメイトの話の中で「使っていると熟練度などが上がり収納スペースが広がる可能性がある」と言うのを思い出して実践している。

 今のところこれについては実感がない。

 他には人前での出し方の工夫とか。

 大きな肩掛けカバンなんかがあるといいかなあ?

 後はポケットの沢山ある服とか。ポケットに関してはナーザ母さんに縫い付けてもらうのもアリかな。

 カバンとか服とかは今度行商人の人がパスレク村に来た時にでも見て見ようかな。

 行商人は月に2・3度町からやってきている。

 まあ、買うのは親と交渉になると思うけど。

 それとリノアに、俺の誕生日の時のお返しも考えないとな……。


   ◇


 ヒューク司祭のところの教会に勉強に行くのはリノアが6才になってから、一緒に行くことになっていた。

 同年代のなかではリノアが一番誕生日が遅いため、俺とリノアとシスカとククルの4人とその親たちで相談した結果、リノアが6歳を迎えるのに合わせて通うことになった。

 村の教会で開いている学校は正式な学校と言う訳では無く、読み書きや簡単な知識を教えてくれるいわば私塾といった物のようだ。

 正式な学校は町などにあり10才から通うことができるが、基本的に貴族や少し裕福な家庭の子が殆どで村の中で街に行って学校に入れる子は精々村長の子ぐらいなものだ。

 村の私塾的な所が街の学校より早く学ぶというのは変に見えるかもしれないが、村の子は10才にもなれば、立派な労働力と見なされるので、悠長に勉強をしているなんてできないのが現実だ。

 あと、学校に入るにしても試験があり、その為の勉強は必要らしい。

 必然、前もって勉強しておくには家庭教師の様なものを雇ったり、それ用の私塾に通ったりしている子が殆どなので町に住んでいる子たちの中でも、それなりの家庭でないと難しいらしい。

 なによりそうなると当然、学費がそれなりに掛かるようだ。前世のように無償化がどうたらこうたらなんていう話はある訳も無く、通える家庭だけが通う所というイメージで定着しているのが一般的だ。

 なので、本当に基礎的な事だけを教会が教えてくれるようになっているんだそうだ。

 それだって、教会によってばらつきがあるらしく、ヒューク司祭のように村の子達を集めてきちんと教えようとしてくれるところはかなり珍しいと冒険者として各地を旅していたことのあるオズベルト父さんとナーザ母さんが言っていた。

 そう考えると、このパスレク村の子供達は子育ての環境としてはかなり恵まれた方の環境にいるのだろう。

 まあ、魔物の出ない環境な時点でかなり恵まれているのは間違いないんだけどな。

「「フォルト!」」

 俺がいつものように籠を背負って森に野草を取りに行こうとする途中、声を掛けられて振り向くとデミスとアグレインが駆け寄ってきた。

「おはようデミス、アグレイン、今から勉強に行くのか?」

「へへん、そうだ」

 デミスが鼻先を擦って得意げに返事をした。

「フォルトたちももうすぐだろ。そしたら一緒に行こうぜ」

「ヒューク司祭様がいろいろお話してくれるんだ。いいだろう」

 アグレインが胸を張って言う。

「そうだな」

「……リノアは一緒じゃないのか?」

 デミスがそわそわしながらキョロキョロと辺りを見回す。って言うか、俺とリノアはセット扱いか! ……指摘されたら微妙に反論しずらい。

「ナーザ母さんのところで何やら教えてもらっているらしいよ」

 最近リノアは俺を起こしに来て一緒に朝ごはんを食べてからは、ナーザ母さんのところに一緒にいるようになったため、森に野草を取りに行っている間は独りでいる時間が増えた。

 まあ、森から帰って来てからは一緒にいる時間が多いけど。

「……そうなんだ」

「教えてもらうといえばアグレイン、爺ちゃんに剣を教えてもらってるんだろ」

 その教えてもらっている理由は、以前森近くの河原に出たイノシシをデミスとアグレインが退治しようとして、黙って家からアグレインの爺ちゃんの剣を持ち出した罰なんだけどな。

「……ああ」

 アグレインが微妙に顔を歪めて触れられたく無さそうな表情を浮かべ応える。

「俺も一緒に教えてくれないかな?」

「ええっ! ヤダよ。厳しくなりそうだもん」

 さらに思いっきり嫌そうな顔をしてアグレインが顔をしかめる。

 けど、ここで拒否されても都合が悪い。せっかくの剣を教えてもらえそうなチャンスだ。逃したくはないので説得を試みよう。

「二人になるから楽になるかもしれないじゃん」

「そっ、そうか……そうだよな。分かった、今度お爺ちゃんに聞いておくよ」

 よし、説得成功。あとはそうだな。せっかくだから。

「頼むよ。デミスも一緒にどうだ。リノアに良いところ見せられるかもしれないぞ」

「えっ! ほんとか! じゃ、じゃあ、俺もやってみようかな」

 よし、道連れ成功。

 デミスがにやけた顔をし始めた。

 こりゃあ、妄想の世界で勇者にでもなってそうだな。

 ちょっとにやけ始めているところを悪いが、あまり長話をしているわけにもいかないだろう。

「二人とも、そろそろ行かなくて大丈夫なのか?」

「あっ、いけねえ、デミス行こう。ヒューク司祭が待ってる」

「そっ、そうだな」

「フォルトもリノアたちと教会に来る日を待ってるからな」

「その時はいろいろ教えてやるぜ」

「ああ、楽しみにしてるよ」

 俺はデミスとアグレインを見送り、何時もの様に薬草やキノコを捜しに森に入っていった。


   ◇


「父さん、俺将来、冒険者になりたい!」

 俺はオズベルト父さんに二人だけの時に思い切って切り出してみることにした。今はナーザ母さんはキッチンにいるし、アムルト兄さんとハワルト兄さんはまだヒューク司祭の教会から帰ってきていない。

「この前の事でそう思ったのなら考え直す事だ」

 あっさり拒否された。

「俺やナーザが昔の冒険者時代の事を話したから憧れたのかもしれないが、冒険者はそんなに恰好良くも楽でもないぞ」

「分かってる。いや、まだよく分かってはいないけど、大変だって言うのは何となく分かったよ。この間のアルマジラット、魔物の中では弱い方なんでしょ? それに本当は群れで襲ってくるんだよね?」

「ああ、その通りだ」

「それでさえ、やっとの事偶然に木に刺さったから倒せたようなものの、あのままだったら弱点も解らずにデミスやアグレインと同じように体当たりを受けて気絶したところを三人とも食べられていたかもしれないし」

「……どうやらたまたま倒せたというのは理解できているようだな」

「うん。だから魔物だけじゃなく動物や鳥の狩り方とか性質とか弱点とかをしっておきたいんだ。そういうのって冒険者が詳しいんでしょ?」

 オズベルト父さんは机で指をトントンと鳴らしてしばらく考え込んでいる様だった。

 俺はそれ以上は何も言わず、黙ってオズベルト父さんの次の言葉を待つ。

 感覚的に3分ほどして、オズベルト父さんがフーッと息を吐いた。

 俺は更に姿勢を正して聞く体勢を取る。

 こりゃあ、ダメかな?

「……冒険者になるかどうかは置いておいて、少し早いかもしれないが動物の狩り方や解体の仕方、罠の張り方なんかを教えてやろう」

「ほんとう!」

「ああ、アムルトにはそろそろ教えようかと思っていたからな。一緒に教えてやる」

「ありがとう、父さん!」

「そうだフォルト、手を出してみろ」

「こう?」

 俺は机に両手を手の平を上にして出してのせた。

「お前にこれを渡しておく」

 そう言ってオズベルト父さんの大きな手が俺の手の平にのせてきたのは、緑色の少し濁った俺の小指の指先の半分程のほんの小さな石だった。

「これは?」

「お前が前に倒したアルマジラットの魔核だ」

「魔核? くれるの? でも、いいの?」

「ああ、村内での話も終わったしな。お前が倒したものだ。だからその魔核はお前の物だ」

「ありがとう、父さん」

 俺はオズベルト父さんから受け取った小さな緑色の魔核を、右手の親指と人差し指でつまみ陽の光にかざして、しばらく眺めていた。

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