15 俺が男の友情してた時、リノアが女の子同士でコイバナしてたんだが (リノア視点)
- リノア視点です -
「おはようお母さん」
まだ薄暗い朝。
起きて顔を洗ってからスビリナお母さんのいるキッチンに行っておはようの挨拶をする。
「おはようリノア」
キッチンに入りスビリナお母さんのお手伝いをするため、手を洗い、野菜の入っている場所からキャベナを一つ取り出す。
「今日もフォルト君の家に行くの?」
「うん」
スビリナお母さんの隣に並び、背が届かないので置いてもらっている踏み台の上に乗り、キッチン台の上にキャベナを載せ葉っぱをちぎって用意してくれていた深皿の中に敷いて行く。
「本当、リノアはフォルト君の事が好きなのね」
スビリナお母さんがニコニコと尋ねてくる。
「うん!」
これには元気よく返事をする。
だって本当の事だもん。
「まあ!」
言ってきたスビリナお母さんが口をポカンと開けて驚いている。何でだろう?
ちなみに今用意している朝食はバセルお父さんとスビリナお母さん、そしてマノアお姉ちゃんの分だ。
わたしは朝食の準備のお手伝いのときに少し味見をしたら、食べずに家を出て、フォルトくんの家に走って行く。
まだちょっと薄暗い道を転ばないように、でも出来るだけ急いで走っていく。
道の途中で、近所に住んでいるバーバラおばあちゃんにあった。
「おはようございます、バーバラおばあちゃん」
わたしは立ち止まってあいさつをする。
「おやおや、リノアちゃんじゃないかい。早起きだねえ。えらいえらい」
「えへへ」
バーバラおばあちゃんは私の頭を優しく撫でてくれた。
「バーバラおばあちゃん、赤ちゃんは元気?」
赤ちゃんというのはバーバラおばあちゃんの娘のブレイラさんと旦那さんのマイクスさんのところに生まれた女の子で、バーバラおばあちゃんのお孫さんになる。名前はフレアちゃん。家は娘さん夫婦と別々だけど、よく赤ちゃんのお世話を手伝いに行っているらしい。
「ああ、元気だよ。この前なんか、自分の手をじっと見つめていたかと思ったら、いきなりニコリと笑ってね」
バーバラおばあちゃんが、目を細めて嬉しそうに話してくれる。
「うわあ、可愛い、わたしも見たいなあ」
「今度見においで」
「うん! それからお腹の赤ちゃんは元気?」
おなかの赤ちゃんというのはブレイラさんのもう一人の赤ちゃんのこと。
「ああ、もうそろそろ生まれるよ。で、何処に行くんだい?」
「フォルトちゃんのところ!」
「へえ、オズベルトさんの家へかい。こんな朝早くからお使いかい?」
「ううん、フォルトちゃんを起こしにいくの!」
「おやおや、そうかい。フォルトちゃんはお寝坊さんだったんだね」
「うん! だからわたしが起こしてあげるの」
「おやおや、そうかい。それは大変だねえ。頑張ってね」
やさしい笑顔で目を細めてわたしを見つめるバーバラおばあちゃん。
「うん! がんばるの。じゃあね、バーバラおばあちゃん」
「はいはい」
わたしは手を振って、またフォルトちゃんの家に向かって走り出す。
何軒かの家を通り過ぎ、畑の間の道を通り抜ける。
しばらく走っていると、やがてフォルトちゃんの家が見えて来た。
わたしはうれしくなり、もっと速く走りだす。
そうして、フォルトちゃんの家の前に着くとハアハアときらせた息を落ち着かせる。
手で髪の毛が乱れてないかを触ってみる。
服に皺が無いか見る。
うん、よしっ!
大きく息をしてから、フォルトちゃんの家の扉を叩く。
それからソッと扉を開ける。
「おはようございます」
ちょっと小声で中を探るように言うと、キッチンからフォルトちゃんのお母さん、ナーザお母さんが顔を出してきてくれた。
「あら、リノアちゃんいらっしゃい。今日も早いわね」
「はい! おはようございます。ナーザお母さん」
私は今度は元気よく答えた。
「あらあら、フォルトならまだ寝てるわよ」
うん、知ってる。だから早起きしたんだもん。それにしてもわたしが答えたらナーザお母さんの笑顔がもっと笑顔になったけど、どうしてだろう? わたしなにかしちゃったかなあ?
「私が起こしていいですか?」
「じゃあ、お願いできるかしら?」
「はい!」
私は返事をするとフォルトちゃんの部屋へと向かう。
音を立ててフォルトちゃんを起こさないように静かに扉を開けて部屋に入る。
フォルトちゃんはベットの中でスヤスヤと気持ち良さそうな寝息を立てていた。濃い青味がかった睫毛を伏せた寝顔がかわいい。
この時少し安心する。なんでだろう?
「フォルトちゃん」
このままいつまでも見ていたいけど、わたしはフォルトちゃんに声を掛ける。
「フォ・ル・ト・ちゃん」
それから毛布に手をやり、軽く揺すってみる。
「……んっ、カニ……スクワット、良くわからねぇ……」
やがてフォルトちゃんがゆっくりと目をあける。それにしてもいつもフォルトちゃんは起きる時に変な寝言を言っているけど、何の夢を見ているんだろう? 『カニ』ってなんだろう? サワガニのことかなあ? わたしもフォルトちゃんの夢に出たいなあ。
フォルトちゃんが体をベットに起こし、大きく欠伸をする。
まだ寝惚けているのかな。目が閉じそうになっている顔がかわいい。
「……おはようリノア」
「おはようフォルトちゃん!」
この時が一番うれしい!
◇
わたしがフォルトちゃんを起こしに行くようになってから数か月して、お友達のデミスちゃんとアグレインちゃんが森の奥に入ってしまい迷子になり、そこにこの森では見る事のなかった魔物が現われるという事が起こった。
探しに行ったフォルトちゃんが魔物をやっつけて二人を助けたってバセルお父さんから聞いたんだけど、あれからフォルトちゃんは前にもまして考えている事が多くなったと思う。
いままでもフォルトちゃんはひとりで考えていることが多かったように思えるんだけど、魔物が出てからは前よりも岩の上に座り込んで考えていることが増えたように思える。
何かあったのかな?
濃い青味を帯びた髪に長いまつ毛を伏せて考え込んでいる横顔を見ているのも好きだけど、時折目の前から居なくなってしまいそうなそんな不安な気持ちになる。
今もそうだ。森からの帰り道、ヒューク司祭と話しているフォルトちゃんはどこか遠くを見つめているようなそんな良く分からない不安にさせる。
いつか、わたしの前からいなくなってしまいそうなそんな不安が胸に浮かぶ。
そう考えると何か怖くなってくる。
「フォルトちゃん、何か隠してないかな?」
だから、わたしはふたりになったとき、思わずフォルトちゃんにそんな質問をしてしまっていた。
なんでこんなこと聞いちゃったんだろう? わたしにもよくわからない。
言ってからちょっと悪い気持ちになったけど、聞きたかった。
「いっ、いや、何も」
私の質問に慌ててしまっているフォルトちゃん。
いつもの落ち着いたフォルトちゃんと違ってて、ちょっとかわいい。
何でだろう?
こういうフォルトちゃんを見ていると、ついもっと聞いてみたくなる。
「そうかなあ」
フォルトちゃんの目を覗き込む。髪の毛と同じ濃い青味掛かった黒い瞳が揺れている。
「って言うかいきなり何だよ?」
何かムキになって返してくるフォルトちゃん。
やっぱり、何か可愛い。
「ううん、やっぱり何でもない。ゴメンねいきなり」
「何なんだよまったく」
「ねえねえ、それより花の蜜吸いに行かない?」
わたしは誤魔化す様に話を替えた。
「いや、今日は止めておくよ。取りあえずはこの籠の中身を家に持って帰らないと」
「そっか、うん、そうだね」
ちょっと残念だけど、あきらめてまた歩き出そうとわたしが向きを変え、並んで道を歩き始める。
「「リ~ノ~ア~ちゃん!」」
また二人で歩いていると、道の向こう側でわたしのことを呼んでいる声がする。
見ると、仲良しのシスカちゃんとククルちゃんだった。
シスカちゃんは大きく手を振って、ククルちゃんは控えめに手を振っている。
「お花の冠作りに行かない!?」
「向こうの原っぱで綺麗なお花がたくさん咲いていたの!」
「うん、行く!」
二人に返事をしてからチラッとフォルトちゃんを見る。
「おれは行かないからな。3人で行ってきなよ」
何かプイッとした様子でフォルトちゃんが顔を横にする。
「……うん。分かった」
わたしはシスカちゃんとククルちゃんのところへと走っていった
◇
村の中にあるお花の沢山生えている場所で、わたしたち三人は草の上に座りお花の冠を編んでいた。
「ねえねえ、ククルちゃんは誰が好き?」
シスカちゃんが赤いお花の冠を作りながら聞いていた。
「えっ! 誰って、えっと、えっと……」
突然きかれたククルちゃんが、あわててモジモジしながらキイロイお花の花びらをいじっている。
「ねえねえ、教えてよ」
「……アムルトお兄ちゃんかなあ。優しいし……シスカちゃんこそ、誰が好きなの?」
「わたし? 内緒」
「ズルい! わたしが言ったんだから教えて!」
女の子は男の子がいないと、よくこういう話をしている。
気になる男の子の話は少しでも何かあると知りたいものだし。
好きな色とか、好きな食べ物とか、嫌いな色とか。
好きな色が分かれば、出来るだけそれを着けるようにするし、嫌いな色なら自分が好きでもその男の子の前では着けなかったりする子もいる。
「リノアちゃんは誰が好きなの? リノアちゃんは人気あるからなあ」
シスカちゃんが私に聞いてきた。でも、シスカちゃん、自分の好きな子、答えてないよ。
「デミスくんとかアグレインくんとかは? リノアちゃんのこと気にしてるみたいだよ」
ククルちゃんがデミスちゃんとアグレインちゃんの名前を出して来た。
「えっ!? そうなの? 二人とも良くしてくれるし良いお友達だよ」
デミスちゃん、アグレインちゃん、ふたりとも良くいっしょに遊びに行くけど、そうなのかなあ?
「「かわいそうに」」
「?」
二人が何か溜め息を付いている。
「わたしはフォルトちゃんが好き!」
「えっ、でも、フォルトちゃんって落ち着いているように見えるけど、何を考えているのかよく分からないし」
「だけど、リノアちゃんのこと助けてくれたんだよね」
「うん! 魔物も倒したんだよ!」
「「うそっ!」」
二人が驚いているけど、この話はみんな知らないのかな?
数か月前のことで、大人はあまりこの話を子供にしていないのかもしれない。
ただ、ひとりで森に入ってはいけませんとだけ言われているみたいだった。
「ところでさあ、リノアちゃんはフォルトちゃんが好きなんだよね」
「うん! 大好き!」
「……じゃ、じゃあシスカちゃんがハワルトお兄ちゃんのお嫁さんになれば、みんな家族だよ」
「ええっ! ハワルトお兄ちゃんは落ち着きがないからなあ」
フォルトちゃんのお嫁さんかあ。
◇
「ただいま!」
「お帰りフォルト」
「あっ、アムルト兄さんただいま。ハワルト兄さんも」
「おかえ……ハッ、ハックション!」
「どうしたのハワルト兄さん? 風邪? ……ハッ、ハックション!」
「フォルトもか二人とも気を付け……ハッ、ハックション!」
「あらあら、三人ともくしゃみして。風邪でもひいたのかしら? ほらほら、三人とも、暖かい恰好してなさい」
「「「は~い」」」




