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12 俺が空間収納の中身を見て、疑問に思ったんだが

 デミスとアグレインが森の奥に入って迷子になってしまい、捜しに入り救出されて次の日の早朝。

「フォルトちゃん、おきて」

「……んっ、カニの目覚まし? ……後5分。……駄目なら後50分……」

「フォ~ル~ト~ちゃん、お~き~て」

 俺はいつもより早いリノアの強襲きょうしゅうを受けていた。

 むしろ、何か疲れてていつもより朝寝坊したかったのだが、ユサユサと身体を揺らされ、惰眠だみんむさぼるどころではなかった。

「うう、身体が重い。だるい。眠い」

 俺はノソノソと身体を起こし、眠い目を右手でこすり欠伸あくびをする。

「良かった! フォルトちゃん、おきた! おはようフォルトちゃん」

 ……何も良くないのだが。

 オズベルト父さんからの話によると、リノアは昨晩、あの場に居合わせたデミスの母親のアドミナさんとアグレインの母親のエグラタさんがリノアの家まで送っていってくれたそうだ。

 あと、デミスとアグレインの方は事情を説明して捜索隊を組んで、幾つかのグループに分かれて森を捜索という流れになっていたとの話を帰りがけに聞いた。

 予想はしてたけど、やはり大事になってしまっていたか。デミスとアグレインよ、これからが真の試練だぞ。なんてな。

 俺がそんな事をボンヤリと思い出しつつ考えていると、笑顔で見つめて来るリノア。

「……おはようリノア」

 おれはベットから出て大きく伸びをする。

 やっぱり、何だか身体がだるいや。

「そう言えばフォルトちゃん、魔物を倒したんだって!? お父さんから聞いたよ。スゴいよね!」

「えっ、あっ、うん。でも、父さんにはこれで侮るなって注意されたけどね」

 あのアルマジラットとかいう魔物との戦い。運が良かったのは自分でも自覚しているから。それに、命を奪うという事の意味も……。やっぱりこのことについてはちゃんと向き合わないと駄目だな。

「お父さんはフォルトちゃんは無事だって言っていたけど、フォルトちゃん本当にケガとかしてない?」

「だっ、大丈夫だって、今回は体に直接体当たりされたわけじゃないから。むしろデミスとアグレインの方が心配だよ」

 俺は暗くなりかけていた思考を端に追いやり、勤めて明るく答える。

「本当? 本当にどこも怪我してない?」

 リノアがペタペタと俺の身体を触ってくる。ちょっとくすぐったい。それにしてもリノア、デミスとアグレインの心配もしてあげような。あの二人は間違いなく怪我してるぞ。

「ふ~ん、ちょっと残念かも」

 どっちだよ! 心配しているのか? いないのか?

「だって、そうしたらまたフォルトちゃんの看病とかできたのに、食事のお世話でア~ンとか」

 今も、やってるだろうが! あれは別枠なのだろうか? っていうかいい加減やめませんそれ?

 リノアはひとしきり俺の無事を確認すると安心したようで、ナーザ母さんがいるキッチンへとトコトコと歩いていってしまった。

「はあ」

 俺はベットに座り直し、窓の外を眺める。

 目を向けた瞬間、丁度二羽の鳥が森から飛び立っていく光景が見えた。

 窓の外は朝日に照らされ青々と輝く森がいつもと変わらぬ景色を見せている。

 昨日、魔物と対峙したのが嘘のような穏やかさだ。

 まあ、魔物の出現と天気には関係性は無いだろうけど。

 あの後空間収納に突然出現した謎の『ダブルグロスターチーズ』についていろいろと考えてみる。……自分で言ってて若干意味不明だが。

 『チーズ』はいい。前世は勿論、パスレク村では作っていないが、たまに来る行商人の人が持ってきたりするので知らない訳じゃない。まあ、ちょっと高いようではあるが。

 ただ、何故空間収納にいきなり入って来たかという事だ。

 まさか森の中にお菓子の家でもあって自然に落ちていたのを無意識に拾ったなんていう事もあるまいし。ファンタジーな世界でもそこまでメルヘンな世界ではないと思う……たぶん。

 それと問題は『ダブルグロスター』の方だ。

 素朴な疑問。

 ダブルグロスターって何?

 普通のチーズだよね。

 前世、カマンベールチーズとか、モッツァレラチーズとか、チェダーチーズなら聞いたことがあったんだけどダブルグロスターチーズっていうのは聞いた覚えがなかった。

 俺が知らないチーズの種類だったんだろうか?

 それとももしかして、こっちの世界のチーズの種類なのだろうか?

 迂闊に昼間に空間収納から出して調べる訳にもいかないので、取り出して調べるのは夜まで待って自分の部屋ですることにした。

 なので取り敢えず、俺は効いたことが無いから、ひょっとしたら冒険者をやっていたオズベルト父さんとナーザ母さんならいろいろな所を旅して来てどっかで聞いたことが有るかもしれないと思い、朝食の時に質問してみることにした。

「ねえ、父さん。『ダブルグロスター』って言葉を知ってる?」

「なんだそれは?」

「昨日、帰りがけに何となく聞こえて来て耳に残ってて気になってさ」

 俺は空耳を装い尋ねてみる。これなら後で不審がられても聞き間違いで通せると思ったからだ。

「魔物の件があったからな。誰かが話してたんだろう。……う~ん、確か、南の海側の町でそんな魔物がいたような……」

「あなた、それは多分『デビルロブスター』だと思うわ。名前のわりに身がプリプリしてて美味しかったのよね」

「ああ、そうそう思い出した。そう言えば、あの時はサーベニアが珍しい素材の採取をしたいってことで南の海の町に行ったんだっけ。そこでランスが食べ過ぎて……」

 どうやら二人も『ダブルグロスター』と言う言葉には心当たりがないようだった。

 途中からオズベルト父さんとナーザ母さんの冒険者時代の思い出話になってしまっていた。

 それはそれで興味深く面白かったんだけどな。

 その日の夜中に部屋に独りになった時、早速空間収納の『福袋』の項目の中から『ダブルグロスターチーズ』を取り出して観察してみた。

 空間収納から取り出してまず初めに思った事。

「これは一体?」

 空間収納の中に見知らぬ……いや、ひどく見知った物が入っていた。

 それは『紙のはこ』だ。

 質の良い紙の箱にシンプルな文字が書いてあるだけなのだが

 だけど、この世界には恐らくまだ有り得ないであろう包装をされた物だ。

 俺はまだこのパスレク村しか知らないけど、この世界の紙の材質は羊皮紙と呼ばれるもので、種類はあるにしろ基本動物の皮をなめしたものが主である。

 いろいろな所を周っている行商人の人でも多少質が良いというだけで似たようなものだ。

 こんな紙で作られた箱はまず一般に存在しない筈。

 貴族がどういうものを使っているかまでは分からないけど。

 そして、

「この包装、この世界の物じゃないよな。明らかに前世、日本の文字だし……」

 そしてこの印刷されている文字……。

 完全にカタカナ文字だ。

って事はこれは前世日本……地球の品物って事になるんでいいんだよな?

 俺は一応、包装は丁寧に外しておいて空間収納にしまっておくことにした。

 後で何かに使えるかもしれないから。

 それにむやみやたらに捨てて見つかって大騒ぎになるのも避けたいし。

 まさか、ここで異世界でのゴミの投棄とかゴミ処分問題が発生するとは思わなかったよ。

 まあ、それは一先ず置いておいて、肝心のその中身だ。

「チーズ……だよな」

 俺は思わず匂いをクンクンと嗅いでみる。うん、チーズっぽい。

 形は大きな円形をしている。

 この形状、どっかで見たような……あっ、思い出した。確か、木槌で叩いて音で良し悪しを見分けているところとか、ヨーロッパの何処かのイベントで坂の上からチーズを転がしてそれを追いかけてキャッチするお祭りとか。前世、ネットやテレビで何度か見た事があるあの形か。

 早速俺はちょっとだけ切り取り食べてみることにした。

 少し表面がかためかな?

 舌にとろける濃厚な風味と味わい。

 グルメレポーターじゃないから食レポみたいな豊かな表現なんてできないけど。だからこそ昨日の夜、リノアを送って行く途中、オズベルト父さんが俺に「将来は吟遊詩人にでもなるか?」なんて言って来た時即座に否定した訳だし。

 だけど、これは素直に、

「おいしい!」

 チーズ、久しぶりに食べたな。

 これ、独りで食べるのはもったいない。

 結構大きいし、明日の朝、早速朝食に皆にも分けて上げよう!

 パンに挟んだら間違いなくもっと美味しくなる!

 アムルト兄さんとハワルト兄さんも喜ぶだろうし。特にハワルト兄さんは喜ぶだろうな。

 リノアはどんな顔をするだろうか?

 きっとはしゃいで喜ぶに違いない!

 リノアの満面の笑みが浮かぶ様だ。

 俺はベットから跳ね上がり興奮していた。

 まさか、チーズ一つでテンションがここまで上がると思わなかった。

 が、

 ……。

 ……今はダメか。

 俺はあることに思い至り、急にテンションが下がってしまい、ドサッとベットに腰を下ろし直した。

 それは、このチーズを何処で手に入れたかという事だ。

 パスレク村ではチーズは作ってないし、作ってたとしても村全体が知り合いみたいなもんだ。何らかの形で貰ったと言っても出所を聞かれたらすぐにボロが出る。

 俺は少しの間手元を眺め、

 考えてから、

 ダブルグロスターチーズを箱に戻し、

 空間収納へとそっとしまった。

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