奴らが来る
式神が消滅した後、僕はしばらく呆然としていた。
結局、ヒョーの目的はなんだったのだろう?
権堂氏の殺害と思っていたが、どうも違うみたいだ。
最後にヒョーがかけた電話。相手が誰なのか分からないけど、ヒョーは『標的に穴を開けた』と言っていた。
では、奴の目的は権堂富士に穴を開けること?
いったい、なんのために?
「優樹!」「優樹君!」
樒とミクちゃんが穴から入って来た。
「優樹! あいつに何をされたの? まさか?」
「キスされただけだから……」
「キスだって許せないわよ! 私だって、一回しかしていないのに。それ以上の事はされなかった?」
僕は無言で頷く。
確かに、それ以上はされなかった。されそうだったけど……なんで、ヒョーは気が変わったのだろう?
「良かった。優樹が筆おろしをされたんじゃないかと心配していたわ」
だあ! なんちゅう事言うんじゃ!
「樒ちゃん。筆おろしって何?」
「ミクちゃんは知らなくていいの」
「もう! 子供扱いしないでよ!」
芙蓉さんが入って来たのはその時……
「これは?」
芙蓉さんは、部屋の中を見回した。
「ヒョーの目的が分かったわ」
え?
「何言っているのよ、芙蓉さん。ヒョーの目的は、権堂さんの殺害でしょ。そして、それに失敗したのだから、私たちの勝ちよ」
「いいえ、樒さん。私たちの負けです」
「どういう事よ?」
「奴の予告状には、権堂さんを呪詛すると書いてありました。しかし、殺すとは一言も書いていません」
「え?」
「奴の目的は、最初から権堂氏殺害ではなく、私たちとの戦いのどさくさに紛れて、権堂富士に穴を開けることだったのです。中が丸見えになるようにするために」
中が丸見え? この中にあるのは、金塊だけど……
あ! そういう事か。
「ヒョーを雇った奴……いや、組織が分かったかも」
「優樹君も、分かったようね」
「ええ。僕の推測通りなら、奴らはもうすぐここへ来る」
「え!? なになに? 何が来るの?」
「樒。もう何をやっても無駄だ。奴らが来たら、僕らにはどうする事もできない」
「そんな恐ろしい相手なの?」
「ああ。恐ろしい相手だ。少なくとも、権堂さんには」
「え?」
その時、奴らは現れた。
おかっぱ頭で顔中ソバカスだらけの中年女性を先頭に、ビジネススーツに身を固めた者たちの集団が……
「あの人たちが恐ろしい組織? 普通の人たちに見えるけど……」
「そう。あの人たちは普通の人たちだよ。特別な能力があるわけじゃない。ただ、とある権限を持っているのだよ」
集団の前に、権堂氏が出てきたのはその時……
「おまえら何者だ!? なんの権利があってわしの屋敷内に……」
ソバカス女が、一枚の書類を権堂氏の眼前に広げた。
「私たちは国税局の者です」
「国税局がなんの用だ!? わしが脱税したとでもいうのか? どこにそんな証拠がある?」
するとソバカス女は、無言で僕たちのいる方、つまり権堂富士に開いた穴をスッと指さした。
「ああ! 隠し金庫が丸見えに!」
「私たちが踏み込む寸前に何があったか知りませんが、隠し金庫に偶然穴が開いてしまったようですね。お気の毒です」
いやいやいや! 偶然じゃないだろう!
ヒョーを雇ったのはあんたらだな!
その目的は、もちろん権堂氏の殺害じゃない。
脱税の証拠を見つけること。
隠し資産が権堂富士の中にあるらしい事は分かったけど、ここに入る方法が分からないし、無理矢理穴を開ける権限はない。
だから、ヒョーの式神と芙蓉さんの式神の戦いの巻き添えで偶然壊れたという状況を作りたかったのだな。
僕たちは、まんまとマルサに利用されてしまったのだ。




