結界修復
権堂屋敷の庭は、ちょっとした森になっていた。
森の中に作られた小径を、僕は懐中電灯の明かりを頼りに歩いている。
一人ではないけど……
「ミクちゃんまで、付いてくる事はなかったんだよ」
ウサギ式神を従えたミクちゃんが、僕の背後から付いてきていたのだ。
「だって、一人で寝ている方が怖いもん」
一人でいるのが怖くて、幽霊は平気なのか?
いや、怖いわけないよな。陰陽師なのだから……
現に僕らの後から、浮遊霊が数人付いてきている。
普通の人なら、こんな状況は怖いだろうけど……
この幽霊たちはどうしたのかというと、屋敷内にいる間に、結界を張られて出られなくなってしまったらしい。
結界設置班が新しい結界を張るときに、以前からあった結界を解除してしまったのだが、その時に権堂邸に入り込んだ浮遊霊たちが、出られなくなってしまったというのだ。
「坊ちゃん。本当に、こっちから出られるの? あたしは何度かこっちの方に来たけど、結界に破れ目なんてなかったわよ」
そんな事を聞いてきたのは、主婦の姿をした霊。
僕は腕時計を見た。
「結界が破られたのは、三時間ほど前です。その前に来たのではないでしょうか?」
「そうかしら? ついさっきも来たと思うけど……」
まあ、幽霊の時間間隔はおかしくなっているから……
「これから、結界を修復しますので、みなさんはその前に外へ出て下さい」
まもなく、監視カメラを潰された領域に入ろうとした時……
「ちょっと待って」
ふいに、男の子の霊に呼び止められた。
「この先に大きな池があるから、気をつけて」
八歳ぐらいの男の子が指さす先にライトを向けると、確かに池があった。
池の周りには柵とかがない。小径はその横を通っているから、うっかり道を踏み外すと落ちるところだった。
「教えてくれてありがとう。助かったよ」
「すごく深い池だから、落ちたら助からないよ」
「なんで知っているの?」
「だって、僕はこの池で溺れ死んだのだから」
可哀想に。まだ小さかったのに……まあ、僕も小さいけど……
僕たちは、池と権堂富士の間に挟まれた小径を通り抜けて進んだ。
「ミクちゃん。ちょっと、懐中電灯を持っていてくれないかな」
「はい」
ライトで照らされた範囲内で、僕は結界の配置図を広げた。
三十二番~三十六番までの結界杭のどれかが破壊されているはず。
だが……
「バカな」
結界杭は、五つとも壊れていなかった。
背後を振り向くと、幽霊たちはいない。
結界があるから、近づけないんだ。
「優樹君。式神も近づけないよ。結界破れてないんじゃないの?」
さっきまで、ミクちゃんの後ろにいたウサギ式神もいなくなっている。
確かに、結界は破られていないようだ。
では、ヒョーの式神はどうやって進入したのだ?
そうか! そういう事か。
「ミクちゃん。屋敷に引き上げよう。ここにいても無駄だ」
「どうして?」
「ヒョー本人は、すでに結界の中に入っている」
「ええ!?」
「わざわざ手下に監視カメラを潰させたのは、結界が破られたと僕たちに思わせるためだ」
「でも、なんでワザワザそんな事を?」
「簡単だよ。式神使いが結界の内側に入れば、確かに式神が使えるけど、その代わり式神使い本人が発見される危険がある。だから、ヒョー本人が敷地内のどこかにいる事を悟らせないために、こんな小細工をしたのだ」
「そっかあ。じゃあ、ヒョーはこの近くにいるのね」
「そうだよ。屋敷に戻って、このことを報告して敷地内を捜索すれば……」
「でもさ、この屋敷の敷地ってすごく広いよ。たった六人の警備員だけで探せるの?」
う! 警備員の他に使用人が六人いるけど、それでもこの屋敷は広すぎる。
人手が足りないか……
そうだ! 人手ならあった。




