ショルダーホルスター
練習のかいもあって、翌日の昼休みに空き教室でエアガンを撃ってみると、かなり上達していた。
的に当たったのは、十発中三発だけど……
もっと練習しなきゃと思うけど、学校にエアガンを持ち込んだところを他の先生に見つかったら大変だからな。
このあたりでやめて……
「コラ! 学校にエアガンを持ち込んだのは誰だ!」
ひゃうう! 見つかった!
「なんてね」
声の方を見ると、教室の入り口にいたのは氷室先生だった。
「脅かさないで下さいよ」
「ごめんね。でも、校内で無闇にそれを出しちゃだめよ。私まで怒られちゃうから」
「すみません」
先生は、壁に貼ってある的に目を向けた。
「それにしても、下手ね」
う!
「まだ、時間あるわね。もう少し練習していきましょう」
「え? でも」
「大丈夫」
先生は、扉を閉めて鍵をかけた。
「これで誰にも見られないわ」
「はあ」
いや、これって鍵の掛かった部屋に男女二人きりの状況……
は! いかん! 今、卑猥な妄想を浮かべてしまった。
集中! 集中!
標的に向かって、撃つべし! 撃つべし! 撃つべし!
あかん。一発も当たらない。
「手首が安定していないわね」
そう言って、先生は僕の右手首を掴んだ。
ヤバ! 心臓がドキドキする。
「まだ安定していないわね」
先生はもう片方の手で、僕の肘を掴む。
「さあ、標的を狙って」
「はい」
……! なんだ!? 二の腕に当たるこの柔らかい物体の感触は? これって……
「こら! 先生の方を見てないで、射撃に集中しなさい」
「は……はい! ごめんなさい」
んな事言ったって……今、二の腕に当たっているの、先生の胸だよね?
「さあ、トリガーを引いて」
「はい」
トリガーを引くと、エアガンから飛び出したプラスチックの球体は、標的のど真ん中を貫いた。
「ほら。やればできるじゃない」
「ありがとうございます」
先生は僕の手を離したけど、まだ僕の心臓はドキドキしていた。
いけない、いけない。今のは、偶然なんだよ。
先生は、胸が当たっているなんて気がついていなかったのだから……
「社君。本番では、今の感覚を忘れないようにね」
感覚! いや、違う! 違う! 的を狙う感覚の事だ! けっして、先生の胸じゃない!
「そうそう。良いものがあったので、社君に渡しに来たのだけど」
先生はトートバッグから何かを取り出した。
何だろう? 革製のポーチみたいだけど……
「それは、なんです?」
「ショルダーホルスターよ。上着の下にこれをつけていれば、人に見られないでしょ」
「はあ。でもポケットに入れておけば……」
「ポケットじゃ落としちゃうわよ。さあ、付けて上げるから、上着を脱ぎなさい」
言われた通り、ブレザーを脱いで机の上に置くと、先生は僕の背後に回り込んで来た。
「社君。じっとしていてね」
先生は背後から、僕にホルスターを付けてくれた。
それはいいけど……密着しすぎなんですけど……てか、胸が背中に当たっているし……
「ううん。ベルトの調整が必要ね。社君。ちょっと動かないでね」
「はあ」
「前の方はどうかしら?」
そう言って、先生は僕の肩越しに背後から顔を出してきた。
てか、頬が密着しているんですけど!
「社君。ちょっと我慢していてね。動いちゃだめよ」
動くなと言われても、さっきから心臓がバクバク動いています! 止められません!
「これでよし。ここにエアガンを入れて……うん。かっこいいわ」
え! かっこいい? 女性から「可愛い」ではなく「かっこいい」と言われたのは、もしかすると初めてじゃないだろうか?
いや、かっこいいのは僕じゃなくて、ホルスターに装着されたエアガンの事だろうな。
「このショルダーホルスターは私が使っていた物だけど、もういらなくなったから君にあげるわね」
「え? でも、これ高いものでは?」
「いいの。私はもう新しい物を買ったから、これは捨てようと思っていたの。君に使ってもらえると嬉しいな」
「え? そうなのですか? でも悪いですよ」
「子供は、そういう事を気にしなくていいから……」
子供! そうだよな。先生から見たら、僕はまだ……
「ああ。もちろんエアガンも上げるわ。君がもらってくれないと、燃えないゴミになってしまうから」
「はあ……あの先生。一つ疑問なのですけど」
「なに?」
「先生は、これを何に使っていたのですか?」
ただのエアガンなら、サバゲーでもやっていたのかと思うところだけど、式神に効果があるエアガンなんて普通の人は使わないよね。
「私に霊が見えることは知っているわね?」
「はい」
「それだけじゃなく、私は悪霊を引き寄せやすいのよ。だから、身を守るためにそれが必要なの」
「じゃあ、これは悪霊にも効くのですか?」
「どっちかというと、元々対悪霊用のアイテムよ。君も霊能者協会の仕事をしているなら、必要になる時があるでしょ。持っていなさい」
「ありがとうございます」




