呪殺師ヒョー4
「思い出して。霊子ちゃん。あなたを自殺に追い込んだ奴が誰なのか」
「いやあ! 知らない! 思い出したくない!」
いけない! 追いつめすぎた。
彼女は絶叫し、恐怖に震えている。
「ごめんなさい。霊子ちゃん。嫌なら無理に思い出さなくてもいいわ」
私は彼女を落ち着かせようとして、そっと抱きしめた。
「う……う……」
よほど怖い思いをしたのだろう。彼女は私の胸に顔を押しつけ、嗚咽を漏らしている。
そんな彼女の頭を、私は優しく撫でた。
「先生、ちょっと、そこまでしなくても……」
ん? 大柄な少女が私を睨みつけている。
どうも、誤解を招いているようだ。
「ああ。心配ありません。私に百合の趣味はありませんから」
「そうですか」
誤解は解けたようだが、大柄な少女はまだなにか心配そうに言う。
「先生。念のためお聞きしますが、ショタ趣味はないでしょうね?」
ギク!
「ショタ……なんの事かな?」
「ですから、小さな男の子が好きという事は?」
言われなくても、ショタコンがどういう性癖かは知っている。なぜなら自分の事だからだ。
しかし、こいつはなぜそんな事を聞く?
実は私は大のショタ好き。
サッカーの練習をしている男子小学生のショートパンツからこぼれる太股を見物していて、警察から職質された事もあるぐらいだ。
怪しまれないように男装した事もあるが、今度はホモと疑われてしまった事も……
それはともかく……
「私にそんな趣味はありません」
大嘘である。
「なぜ、そんな事を聞くのです?」
そうだ。なぜ、そんな事を聞かれなければならない。
今、私が抱きしめているのは少女であって少年ではない。
百合を疑われるならともかく、なぜショタだと……
「違うならいいです。ところで、霊子ちゃん。もう時間過ぎているので、憑代から離れて下さい」
「もう時間ですかあ?」
「私たちは明日も来るから、今日はこのへんで」
「はあい」
私の腕の中にいる少女から、突然力が抜けた。
同時に、少女の身体から別の少女の霊体が抜け出す。
その霊体の姿を見て確信した。
間違いない。彼女の名は冬原小菊。
十年ほど前に、この教室で自ら命を絶った少女。
彼女の亡骸からは酷い痣がいくつも見つかった事により、過酷なイジメに遭っていた事が発覚。
だが、学校はイジメ実行犯の名前を明かさなかった。
ならば、彼女本人から聞き出すまで……
聞き出して、必ずその報いを受けさせてやる。
「あの……先生……」
ん? 弱々しい声で私の思考は現実に引き戻された。
声の主は、さっきから私に抱かれている美少女。
「もう、大丈夫ですから、離して下さい」
憑依を引き受けた霊能者は、体力が消耗すると聞いているが、彼女もかなり疲れているようだ。
「本当に大丈夫か?」
「大丈夫ですから……」
だが、私が手を離すと、彼女はそのまま倒れそうになった。
私は慌てて抱き留める。
「ふらふらではないか」
そのまま私は、彼女を抱き上げた。
「回復するまで、私がこうしてお姫様抱っこしていてあげよう」
「やめて下さい! 恥ずかしい!」
「恥ずかしがる事ないではないか」
「いや……その……こんな格好しているけど……実は僕……男なんです」
は?
数秒の間、私の思考は停止した。
「男?」
彼女……いや彼はコクっと頷いた。
彼の胸に手を当てると、確かにあるはずの物がない。
いや、発育が遅いだけかと思っていたが……
とにかく、これで合点がいった。
百合趣味のない私が、なぜこの子にトキメキを覚えたか……
この美少女と思っていた子が、実は美少年だったからだ。
それを私は無意識に察知していた。
だが……
「ははは! 冗談が上手いな。こんな可愛い男の子がいるわけないだろう」
しばらくは納得していないふりをして、美少年の感触を楽しもう。
「本当です! 僕は男です」
「では、なぜセーラー服など着ている。趣味か?」
「違います! みんな酷いんですよ! 僕は嫌だって言ったのに、こんな格好させて。先輩たちを叱って下さいよ」
「そうか。後できつく言っておこう」
もちろん、そんな事をするつもりはない。
せっかく、良いものを見せてもらったのだから……
「ダメよ。優樹。女装はあくまでもお仕事なのだから」
マサキというのが、この美少年の名前のようだな。
漢字でどう書くのだろう?
それにしても、こんな美少年がいるなら、この学校での任務は少し長引かせてみてもいいかな。
依頼者からの受け取る料金はあくまでも呪殺料だけで、潜入調査の料金は教師としての給料が出るのでいらないと言ってあるし、長引かせても問題はないだろう。
「僕の仕事は、憑依を引き受けることだよ。次も女装させるなら、別料金もらわないとやってられない」
ん? 仕事? どういう事だ?
「ああ! いっけないんだ。不正請求は」
「不正請求って……樒にだけは言われたくない」
シキミというのか。この大柄な少女は……
それはともかく……
「あなた達。料金とか言っているけど、憑依をするのにお金を取っているの?」
「取っていますよ。僕たち仕事でやっているのですから」
「先生。誤解されているかもしれませんが、私と優樹はこの学校の生徒だけど、ここの部員じゃありません。霊能者協会の派遣霊能者です」
なに!? 霊能者協会!
マズイ! 表向き、私は霊能者協会とは敵対関係にある事になっているが、実際には持ちつ持たれつの関係。
だが、それを知っているのは上層部だけで、末端の霊能者はそれを知らない。
この二人に私の正体を知られると、少し面倒な事になりそうだ。
しかし……
「先生。本当にもう大丈夫ですから、離して下さい」
マサキ君は私の抱擁から逃れようと、腕の中でもがいた。
もう少し抱いていたいが、これ以上やっていると教師としての立場が危ないな。
私が手を離すと、マサキ君は礼を言ってから、衝立の向こうへ姿を消した。
程なくして男子の制服に着替えて姿を現す。
しかし、男の子の姿に戻ってもやはり可愛い。
よし! この任務、長引かせることにしよう。
正体など、ばれなければどうと言うことあるまい。
次から優樹の一人称に戻ります。




