呪殺師ヒョー3
美少女は、不思議そうに周囲をキョロキョロと見回していた。
おもむろに彼女は、机の上にあったボールペンをつまみ上げる。
「物に触れる。あたし、身体がある」
美少女は満面の笑みを浮かべ、嬉しそうにそこら中の物を触り始めた。
しばらくして、六星和子がその手を掴み、やめさせる。
「霊子ちゃん。喜んでいるところ悪いけど、憑依は十分以内という約束なの」
「ええ? そうなの?」
「だから、あまり遊んでいる暇はないのよ。もう五分しか残っていないから、先にお話を聞かせてもらえる?」
「何を聞きたいの?」
「まず、あなたの本当のお名前は?」
私は思わず唾を飲み込んだ。
この流れで行けば、この場で学校に潜入した目的を達成できるかもしれない。
だが……
「んん? 分からない」
やはり無理だったか。時間が経ちすぎると、幽霊は自分の名前すら思い出せなくなるらしい。
「そっかあ。じゃあ、あなたの事は今後も「霊子ちゃん」と呼ぶけど良いかしら?」
「いいわよ」
「じゃあ、霊子ちゃん。あなたは、なぜ死んだの?」
「この部屋で首を吊ったの」
自分の死因は覚えていたか。それにしても首を吊ったという事は対象者……冬原小菊の可能性が高い。
「霊子ちゃんは、なぜ首を吊ったの?」
「んんっと……分からない。なんで、あたし、首を吊ったのかな?」
待てよ。もしかすると……
「六星さん。私も、霊子ちゃんと話をさせてもらっていいかしら?」
「え?」
六星和子は時計に目を走られせた。
「良いですけど、後二分しかありません。手短にお願いします」
「分かったわ」
私は美少女の前に立った。
「霊子ちゃん。あなた、誰かに虐められていたのじゃないの?」
「え?」
今までニコニコしていた美少女の笑顔が凍り付く。
「誰かに虐められて、それを苦に首を吊ったのではないの?」
「知らない」
美少女の顔が恐怖に歪む。
「知らない! 知らない! 知らない!」
やはり……彼女は忘れたのではない。
思い出したくないのだ。忌まわしい記憶を……




