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霊能者のお仕事  作者: 津嶋朋靖
超常現象研究会

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逃がすものか!

「いでで!」


 満員電車の中で男の悲鳴が上がった。


 悲鳴と同時に、さっきまで僕の尻を触っていた手が引っ込む。


 ミクちゃんの式神が痴漢の手に噛みついたのだ。


 同時に僕はスマホで『痴漢がかかった』と書いた一斉メールを送った。


 そのすぐ後に、小山内先輩が悲鳴を上げる。


「キャー! 痴漢よ!」


 事前の打ち合わせで、痴漢が出たら誰が触られていても、小山内先輩が悲鳴を上げる事にしてあったのだ。


 僕は元々男だから、いくら声変わりしていなくても『キャー』という悲鳴はちょっと上げにくい。美樹本さんも、いざとなったら声を上げる自信がないのでこういう役割分担を決めていたのだ。


「誰か痴漢を捕まえて! 私を触っていた手にはカッターで切りつけたから手に怪我をしているはずよ」


 そして次の駅で、手に怪我をした男が捕まった。カッターの傷にしては若干変だが、それを気にする人はあんまりいない。


「ごめんなさい! 出来心だったのです! あんまり可愛い子がいたのでつい……」


 ホームの上で三十代半ばの男が涙を流し、僕たちに向かって土下座していた。


 今日はこの男で四人目。ちなみに四人の内二人は僕を触り、二人は美樹本さんを触りに行って捕まった。


 三人の先輩たちは触られていないのだが、なぜか六星先輩は機嫌が悪い。


 今も捕まえた痴漢に向かって『なんで私の方へは来ないのよ。地獄に落とすわよ』と凄んでいる。


 これまでに捕まえた三人には『警察に引き渡されたくなかったら質問に答えろ』と言って、水上先生の事件の時のアリバイを聞き出していた。


 その結果、三人とも事件の日はアリバイがあったので、約束通り警察には引き渡さなかった。


 ただ、代わりに引き渡した駅員の手で警察に引き渡されるかは分からないが……


 え? やり方が汚い?


 何をおっしゃるウサギさん。僕たちの手で警察には引き渡していないのだから嘘ではないぞ。


 そもそも痴漢などやる奴が悪い。


 某ラノベの女主人公も『悪人に人権はない』と言っていた事だし……


「人が減ってきましたね。痴漢はもう出て来ないんじゃないかしら?」


 美樹本さんがホームを見回してそう言ったのは、五人目の痴漢を駅員に引き渡した後の事。


 ちなみにこの男は僕たちでなく、女子大生に痴漢しているところを式神が見つけて、五人掛かりで取り押さえたのだ。


 そしてこいつも、僕たちの探している男ではなかった。


「まだ、分かりませんわ」


 スマホを見ながら華羅先輩がそう言った。


「空いている電車でも被害に遭ったという実例があります」


 僕たちは上り電車で四つの駅の間を移動。そこから下り電車に乗り込み、何もなければ八名駅で解散という事に決まった。


 電車の中はかなり空いていた。席もかなりあいている。


 僕たち五人は、関係者と思われないように一つの車両の中でバラバラに席に着いた。


 まあ、今日はこのまま何もなく解散ということになるだろうな。


 と思っていたのだが……


 僕はいつの間にか眠っていた。


 満員電車に揺られて何度も往復したから、疲れたのだろうな。


 目が覚めたのは、八名駅の一つ手前の駅を出たとき。


 太股に妙な感触を覚えたために目が覚めたのだが、これって……触られている!


 隣の席に座っているおっさんに、太股をなで回されているのだ。


 うう……気持ち悪い。


 早くスマホを……あれ? どこへやったっけ?


 内ポケットに入れておいたのに……


 そうだ! 眠る前に僕はスマホでネット小説を読んでいたんだ。


 という事は手に持っていたわけだから、どこかに落とした?


 スカートの上には落ちていないし、足元にもない。


 うわ! 痴漢の手がスカートの中に……気持ち悪い!


 こんな時に式神はどこへ? あかん! 棚の上で寝ている。


 スマホは……スマホはどこ……あった! 左隣の空いている席の上に落ちていた。


 手探りで操作。一斉メール送信。


「キャー! 痴漢よ!」


 小山内先輩が立ち上がりながら悲鳴を上げ、僕の方を指さした。


「ゲ! ばれた」


 逃げようとする痴漢の手を僕は掴まえる。


 先輩たちと美樹本さん。それに式神が、こっちへ駆けてきた。


「ちくしょう! 放せ!」


 痴漢は僕の手をふりほどいて逃げ出す。


 間の悪いことに、ちょうど電車は八名駅に到着して扉が開いてしまった。


 逃がすものか!


 車外へ逃げ出した痴漢を、式神を先頭に僕たちは追いかけた。


「待てえ! 痴漢」

「許さないわよ! 乙女の敵!」

「許さない! 私のところへ来ないで男の娘を狙うとは」


 一人だけ怒りのベクトルが違うような気がするが、今は気にしないでおこう。 


 それにしてもかなり足の速い奴だ。なかなか追いつけない。


 式神だけは何とか追いついて痴漢の背中に取り付いた。


 それでも男の速度は落ちない。


「リアル。お願い」


 僕の横を走っていた美樹本さんが、ペットキャリーから猫を解き放った。


 ホーム上を黒猫が猛然と駆け抜け、男の頭に飛び乗る。


 だが、黒猫はすぐに落ちてしまった。奴の髪の毛と一緒に……


 あの痴漢、ズラだったのか。


 禿頭を輝かせながら、痴漢は自動改札を飛び越えた。


 逃げられたか?


「食らえ! ラリアット!」


 この声は!?


 改札の向こうでは、真っ赤なライダースーツ姿の樒が痴漢にラリアットを食らわせていた。


 その背後に、二人分のライダーヘルメットを持ったミクちゃんがいる。


 二人とも、バイクで来てくれたんだ。


 樒のラリアットを食らった痴漢は、改札のこっち側へ吹っ飛ばされてのびていた。

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