悪い悪霊はお仕置きです
悪霊が弾き飛ばされた後、寒太の身体は力を失い、樫原の腕に抱えられた状態で手足をだらりとぶら下げていた。
一方、寒太の身体から弾き出された悪霊には、形がなかった。
黒い霧のような霊体が、ブヨブヨとアメーバーの様に蠢いているのだ。
だが、よく見ると表面に顔のようなものが見える。
男なのか女なのかは分からない。
ただ、その表情は怨嗟に満ちていた。
って、見とれている場合じゃない。
「寒太! 今がチャンスだ! 身体に戻れ!」
「お……おう……」
寒太は、樫原に抱えられている自分の身体に向かって飛んで行く。
「おのれ! おのれ! 渡してなるか!」
悪霊も寒太の身体へと向かっていこうとする。
そうは行かない!
僕は退魔銃を、悪霊に向けて撃ちまくった。
「ぐぎゃあ!」
退魔弾を数発食らった悪霊は弾き飛ばされた。
その間に、寒太は自分の身体に入り込んだ。
「樫原さん。寒太君の霊体は身体に入った。もう降ろしても大丈夫だよ」
「おお、そうか」
樫原は、そっと寒太の身体を地面に横たえた。
そうしている間にも、悪霊は身体を取り返そうとしつこく迫ってきた。
寒太の霊魂が完全に定着するまでは、まだ身体を奪われる心配があるので油断できない。
悪霊が近寄るたびに、僕は退魔弾を浴びせて撃退していた。
「ええい! 小僧! 邪魔をするな!」
「やだ。徹底的に邪魔してやる」
「おのれ、おのれ! これ以上邪魔するなら、おまえを呪ってやるぞ!」
「やれるものなら、やってみろ。寒太の身体は、おまえには渡さない」
「やかましい! その身体を使う権利は、俺にあるんだ!」
「おまえに、そんな権利はない」
不意に背後からかかった渋い声に、悪霊の動きはピタッと止まった。
「今の声……おまえか?」
悪霊の質問に、僕は無言で首を横に振った。
「それじゃあ、ひょっとして……」
悪霊は、そうっと後ろを振り返る。
そこには、ロックさんが腕を組んで立っていた。
「ひえええ! し……死神! お……おたすけ!」
逃げだそうとする悪霊の前に、シーちゃんが立ち塞がり鎌を突きつける。
「逃がしません! あなたの様な悪い悪霊は、霊界へ連行してお仕置きです!」
ええっと……悪い霊を『悪霊』と言うのだから『悪い悪霊』って、日本語としておかしくないだろうか?
なんて考えている間に、シーちゃんは投網のような物を、逃げる悪霊に向かって投げつけていた。
「ひええ! 霊界は嫌だ! 助けてくれえ!」
悲鳴を上げて逃げ回る悪霊は、投網に絡め取られる。
「縛!」
シーちゃんがそう叫んだ途端、悪霊を絡め取った網はみるみる小さくなっていく。
網はやがて黒い小石になっていった。
シーちゃんは、小石を拾い上げるとポシェットにしまった。
「捕縛完了です」
どうやら、終わったようだ。




