君の事を忘れるとでも思っていたのか?
樒から手渡された瓶を、ロックさんはしばらく眺めていた。
「ロックさん。大丈夫ですか? この瓶、爆発とかしない?」
樒が恐る恐る聞くと、ロックさんはにっこりと微笑み返事した。
「大丈夫だ。この程度の事じゃ、この瓶はビクともしないよ」
「良かったあ」
「まあ、瓶がこんなに真っ黒になったら、不安にもなるだろうけどな。エンマ硝子製の瓶は、人間界の瓶とは作りが違う。大丈夫だ」
エンマ硝子? 霊界にも、そんな会社あるのか?
「それより、かなりの大物を捕らえてくれたな」
え? あの群霊って、そんなに凄かったのか?
「群霊の中核にいた奴は、人間時間で百年ほど前に霊界から脱走して以来、ずっと指名手配していた奴なんだ」
ル◯ンを追いかけていたら、とんでもないものを見つけてしまったってところかな。
「この瘴気地帯も、奴が百年かけて作り上げたのだろう。奴がいなくなった以上、瘴気地帯は数日で解消するな」
うん、良かった良かった。
いや、良くない……まだ肝心な事が解決していないよ。
「あのさあ……」
寒太が、おずおずと声をかけてきた。
「結局、俺の身体はどうなったの?」
樒は、ハッと我に返ったかのように寒太のほうを振り向く。
「やあねえ。私達が、あんたの事を忘れるわけないでしょ」
いや、忘れていただろう。まあ、僕も忘れかけていたから、人の事は言えないが……
「そうよ、寒太君。お姉さん達、群霊と戦っていたけど、君の事は一時たりとも忘れていなかったわよ」
そういうミクちゃんに、寒太は疑わしい視線を向ける。
「寒太」
僕は寒太の肩に手を置いて言った。
「僕達が、君の事を忘れるとでも思っていたのか?」
「思いっきり思っているよ」
やっぱし……
「寒太君、そんなに人を疑ってばかりいたら、悪霊になっちゃうぞ」
「だから、もう悪霊になりかかっているんだよ! なんとかしろよ! おまえら霊能者だろう!」
寒太に怒鳴り返されたミクちゃんは、ムッと顔をしかめる。
「寒太君、前にも言ったよね。それが、人にものを頼む態度なの?」
「ああ! ゴメンナサイ! なんとかして下さい。む……胸の大きいキレイなお姉様」
「よろしい」
ミクちゃん……寒太に、そんな事言わせて嬉しいのか?
僕だったら寒太に『背の高いカッコいいお兄様』と言わせても、虚しくなるだけだが……
「ロックさん。群霊と戦っている間に、寒太の光が消えてしまったのだけど、もう一度光を出せませんか?」
僕の問いかけに、ロックさんは首を横にふる。
無理か。
「あの……」
ん? 背後から女の子の声がかかった。
振り向くと小学生ぐらいの女の子……
この子確か、寒太のクラスメートで有森澄香さんだったな?
何の用だろう?




