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霊能者のお仕事  作者: 津嶋朋靖
嫌悪の魔神

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254/263

君の事を忘れるとでも思っていたのか?

 樒から手渡された瓶を、ロックさんはしばらく眺めていた。


「ロックさん。大丈夫ですか? この瓶、爆発とかしない?」


 樒が恐る恐る聞くと、ロックさんはにっこりと微笑み返事した。


「大丈夫だ。この程度の事じゃ、この瓶はビクともしないよ」

「良かったあ」

「まあ、瓶がこんなに真っ黒になったら、不安にもなるだろうけどな。エンマ硝子製の瓶は、人間界の瓶とは作りが違う。大丈夫だ」


 エンマ硝子? 霊界にも、そんな会社あるのか?


「それより、かなりの大物を捕らえてくれたな」


 え? あの群霊って、そんなに凄かったのか?


「群霊の中核にいた奴は、人間時間で百年ほど前に霊界から脱走して以来、ずっと指名手配していた奴なんだ」


 ル◯ンを追いかけていたら、とんでもないものを見つけてしまったってところかな。


「この瘴気地帯も、奴が百年かけて作り上げたのだろう。奴がいなくなった以上、瘴気地帯は数日で解消するな」 


 うん、良かった良かった。


 いや、良くない……まだ肝心な事が解決していないよ。


「あのさあ……」


 寒太が、おずおずと声をかけてきた。


「結局、俺の身体はどうなったの?」


 樒は、ハッと我に返ったかのように寒太のほうを振り向く。


「やあねえ。私達が、あんたの事を忘れるわけないでしょ」


 いや、忘れていただろう。まあ、僕も忘れかけていたから、人の事は言えないが……


「そうよ、寒太君。お姉さん達、群霊と戦っていたけど、君の事は一時たりとも忘れていなかったわよ」


 そういうミクちゃんに、寒太は疑わしい視線を向ける。


「寒太」


 僕は寒太の肩に手を置いて言った。


「僕達が、君の事を忘れるとでも思っていたのか?」

「思いっきり思っているよ」


 やっぱし……


「寒太君、そんなに人を疑ってばかりいたら、悪霊になっちゃうぞ」

「だから、もう悪霊になりかかっているんだよ! なんとかしろよ! おまえら霊能者だろう!」


 寒太に怒鳴り返されたミクちゃんは、ムッと顔をしかめる。


「寒太君、前にも言ったよね。それが、人にものを頼む態度なの?」

「ああ! ゴメンナサイ! なんとかして下さい。む……胸の大きいキレイなお姉様」

「よろしい」


 ミクちゃん……寒太に、そんな事言わせて嬉しいのか? 


 僕だったら寒太に『背の高いカッコいいお兄様』と言わせても、虚しくなるだけだが……


「ロックさん。群霊と戦っている間に、寒太の光が消えてしまったのだけど、もう一度光を出せませんか?」


 僕の問いかけに、ロックさんは首を横にふる。


 無理か。


「あの……」


 ん? 背後から女の子の声がかかった。


 振り向くと小学生ぐらいの女の子……


 この子確か、寒太のクラスメートで有森(ありもり)澄香(すみか)さんだったな?


 何の用だろう?

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