緊急寿命終了許可証
水神様の祠には、バイクを飛ばして数分で着いた。
もちろん、制限速度は守っているよ。
「お待たせ」
ミクちゃんが、僕達に気が付いて手をふる。
その横では、寒太が意気消沈した顔で突っ立っていた。
まあ、無理もないだろうな。
寒太の背後では二人の死神……死神を『二人』というのは変だな。
この場合『二柱』と言うべきか?
とにかく、寒太の背後ではロックさんとシーちゃんが何か打ち合わせをしているようだ。
「ロックさん」
「おお! 樒ちゃん、優樹君。待っていたぞ」
「ロックさん。その前に、ちょっとお話したい事が……」
僕はロックさんに、寒介氏の希望を伝えた。
「優樹君。事情は分かったよ」
「では……」
ロックさんは、ゆっくりと首を横にふる。
ダメか?
「優樹君。まったくだめというわけではない。三十分以内に、寒太の霊を身体に戻せば助かる」
三十分!
瘴気地帯から連れ出すには、時間が足りない。
「悪霊化を遅らせる神器を使ってみる事もできるが、それでもここまで悪霊化が進行した霊は、ただちに回収することが死神マニュアルで定められている」
死神マニュアルなんてあったんだ。
「ただし、こいつは生き霊だ。生き霊の命を断つには、閻魔様の許可が必要」
そう言ってロックさんは、シーちゃんの方を振り向く。
「今から、閻魔様の元へ行って、緊急寿命終了許可証を申請してきてくれ」
「わっかりました」
そう言って、シーちゃんは姿を消した。
「さて、本来ならすでに時間切れだが、今回は後輩が許可証を持ってくるまでがタイムリミットだ」
「ちなみに、許可証が発行されるまで、どのくらい時間がありますか?」
「まあ、俺が申請に行けば十分ほどだが……」
十分! ほとんど無理だ。
「後輩は書類仕事が苦手だからな。四~五十分……いや、一時間はかかるだろうな」
それだけ時間があれば……しかし……
「あのうロックさん……苦手だと分かっていて仕事を任せるのは、シーちゃんが可哀相では……」
「いやいや、苦手だからと言ってやらないでいると、いつまで経っても仕事を覚えられないだろう。後輩にはいい機会だから、任せてみるんだよ。それに……」
ロックさんは、僕の耳元に口を寄せて小声で言う。
「今回の事は、間に合わない方がいいだろう」
まあ、確かに……
「とにかく、あいつなら君達が瘴気地帯から寒太を連れ出すまでは戻って来られない。だから、今のうちに……」
ロックさんがそこまで言った時、不意に僕の背後で霊的存在の気配が生まれた。
この気配は!
「先輩!」
シーちゃん!?
一時間は戻って来ないのでは?




