有力な情報が聞き出せるかも……
樒が手にしている瓶の中では、落ち武者の霊が瓶を叩きながら何かを叫んでいた。
声は聞こえないが『出してくれ~!』と言っているのだろう。
「なんだ、おまえ! 勝手に屋敷に入ってきて」
霊の見えていない樫原は、許可無く屋敷に進入して来た樒を咎めようとするが、寒太の父がそれを止める。
「待て、樫原。そのお嬢さんは、俺が中に入れたのだ」
「え? 旦那様が……」
「彼女は優秀な霊能者なのでな、俺に憑いていた悪霊を祓ってくれたのだよ」
「え? 悪霊?」「あなた、今まで悪霊に憑かれていたのですか?」
「ああ。それを……」
寒太の父は、樒を指さす。
「彼女が祓ってくれたのだ。ありがとう」
「いえいえ、どういたしまして。ところで、除霊の報酬は……」
「えっへん!」
わざとらしい咳払いをする僕に、樒は恨めしそうな視線を送ってから言葉を続けた。
「報酬はいりません」
「いらないのか?」
代わりに僕が答えた。
「はい。僕達の報酬は、霊能者協会から受け取ることになっていまして、依頼者から直接受け取ってはならない決まりになっています」
「そうなのか? ところで俺に憑いていた悪霊は……」
樒の持っている瓶を指さす。
「何を言っているのだ?」
相変わらず、悪霊は中から瓶を叩いている。
「樒。瓶の中の声って、聞けないの?」
「ん? 瓶に手を触れたら、聞こえるわよ」
「どれどれ」
まあ、悪霊の戯言など聞いても無駄だと思うけど、試しに手を瓶に触れてみた。
突然、僕の脳内で悪霊の声が響きだす。
「出せ! 出しやがれ! こんちくしょう! 俺を誰だと思ってやがる!」
だから、さっき『どこのどなたかは存じませぬが……』って言ったじゃないか。
「俺にこんな事をして、ただで済むと思っているのか!」
「うん、思っている」
瓶の中には聞こえないと思ったが、思わず返事をしてしまった。
「なんだと!? この野郎!」
あ! 中に聞こえていたのか。
「てめえ、舐めてんじゃねえぞ! この中からじゃ、俺が何もできないとでも思っているのだろう?」
「何かできるの?」
「俺の背後にはな、魔神様がついているのさ。分かるか? 俺様を閉じこめると言うことは、魔神様に楯突くのと同じ事だ」
「つまり、あんたをここから出さないと、魔神から報復されると言うの?」
「おうよ」
「ふうん。で、その魔神って、どんな事ができるの?」
「魔神様はな、血の池地獄で溺れていた俺を、引っ張り上げて現世へ連れてきてくれたのさ」
こ……これは、案外有力な情報が聞き出せるかも……




