本日の死亡予報のお時間です
声の方をふり向くと、そこに居たのはロックさんではなかった。
「こんにちは。先日はどうも」
少女死神!?
「あら? 私は、ロックさんを呼んだはずだけど……」
「すみません。先輩は忙しいので、私が代わりに……」
「しょうがないなあ。じゃあ、今回はシーちゃんで」
おいおい……死神に『シーちゃん』呼びは失礼では……
「シーちゃん!? なんですか? それは……」
少女死神は、きょとんとした顔で聞いてきた。
怒ってはいないようだ。
「いや、あんたの事を、なんと呼べばいいか分からなかったので……死神の女の子だから、シーちゃんと呼んだのだけどだめかな?」
まあ、死神子ちゃんよりは、ましだか……
「いや……別に良いですけど……死神には、決まった名前がないので。ただ、人間さんには呼び名がないと不便という事で、名前を付けられる事はよくありますから……ただ、先輩はロックさんなのだから、もうちょっとかっこいい名前がいいかなっと……」
「え! かっこいい名前がいいの? 優樹。何かかっこいい名前考えてあげてよ」
ええ!? そんなこと、急に僕にふられても……
「シロ」
え?
「寒太。なんでシロなのだ? そんな犬や猫みたいな名前……」
「え? 犬や猫? いや、俺はただ、死神姉ちゃんの下着の色を言っただけだが……」
少女死神が、パッとスカートを押さえた。
ゴツン!
その次の瞬間、樒のゲンコツが寒太の頭に炸裂。
追い打ちをかけるように、僕は対魔銃を寒太に突きつけた。
「次に、そういう事をやったら……」
「わあ! ごめん! もうやらない! やらないから撃つな!」
「よし」
対魔銃を撃つことなく、僕はホルスターに戻した。
それはともかく、少女死神の名前はどうすべきか?
「ええっと……シーちゃんでいいのじゃないかな。可愛いし」
「え?」
少女死神は頬を赤らめた。
「可愛いですか? 私」
あ! いや『シーちゃん』という呼び名が可愛いと言っただけで……まあ、この子も可愛いけど……
「分かりました。じゃあ、これから私のことはシーちゃんと呼んで下さい」
話はまとまったようだな。
「それで神森樒さん。私に……じゃなくて、先輩にどのようなご用でしょうか?」
すると樒は、僕を指さした。
「用があるのは、私じゃなくてこの子よ。何かロックさんに質問したいそうだけど」
「そうですか」
シーちゃんはスマホ……のような物を取り出して操作した。
「あなたは社優樹でしたね」
「そうですけど……シーちゃん、そのスマホみたいなのは何?」
「ああ、気にしないで下さい。ただの霊子閻魔帳ですから」
やっぱし! ということは、あれに僕の寿命とか載っているのか!
「もちろん、人間さんには、これをお見せする事はできません」
「それは分かるけど……それって、僕の寿命が載っているのですよね?」
「んん……厳密に言うと、寿命とはちょっと違うのです。死亡確率が、これに載っているのですよ」
「死亡確率?」
「一応、本日の死亡確率だけなら、教えてもいいのですが、知りたいですか?」
僕はコクッと頷いた。
「社優樹さんの、本日の死亡確率は〇・〇〇五六三〇七一パーセントになります」
「それって、ほとんど死なないって事?」
「ええ。でも、だからといって『わーい! 僕は、今日は何をやっても死なないのだ』とか、はしゃいでビルから飛び降りたりしたら死にますから」
「いや……そんなバカなことしませんから」
「たまにいるのですよ。低い死亡確率を聞いた後、そういうバカな事をしちゃう人が」
「うんうん。コトワザにもあるわね。『バカは死ななきゃ治らない』って」
「樒。それって、コトワザだったっけ?」
「あれ? 違ったかな? まあいいか。で、シーちゃん。私の死亡確率は?」
「神森樒さんの、本日の死亡確率は〇・〇〇五六四一〇一四七七一パーセントになります」
「低いけど、けっして〇にはならないのね」
人間にはいつでも、死ぬ可能性はあるのだな。
気をつけないと……は! いかん! 本日の死亡予報を聞いている場合ではなかった。
「シーちゃん。本題に戻るけど……」
僕は今日あった経緯を、シーちゃんに話した。




