死神召喚
ミクちゃんに電話をかけてから十数分後、僕はマンションに帰り着いた。
エレベーターに乗り込んだ時、寒太が話かけてくる。
「なあ、あの大きい姉ちゃんって、そんなに信用できないのか?」
「んん……まあ、信用できないな。特に金に関して」
「なんで?」
「寒太……君はさっき『霊能力を利用して大金を巻き上げる奴がいる』って言っていただろう」
「ああ。樫原がそんな事を言っていたな」
「ありゃあ、樒の事だ」
「マジ? 悪い奴なんだな。あの姉ちゃん」
こいつに『悪い奴』なんて言われちゃ樒もお終いだな。
エレベーターが、十五階に到着したのはその時。
家に帰って母さんに声をかけた。
「ただいま。母さん、樒来ている?」
「樒ちゃんなら、あんたの部屋にいるわよ」
「僕の部屋に入れたの!?」
「いいじゃない。別に見られて困る物はないでしょ」
まあいい。確かに見られて困る物はないし、樒が変な事をしないように手は打ってある。
「優樹。そんなに私のことが信用できないの?」
部屋に入るなり、樒は仏頂面でそんな事を言ってきた。
「だから、そう言ったじゃないか」
「なにもミクちゃんの式神に、私を監視させなくてもいいじゃない」
樒の頭の上には、ミクちゃんのウサギ式神がちょこんと乗っかっていた。
式神は僕の方へ飛んでくる。
「社優樹様。神森樒様は、特に怪しい事はしていませんでした」
「ありがとう」
「ところで、背後に寒太君の霊が見えますが、見つかったのですか?」
「ああ。今日の仕事先で偶然見つけたので、連れて帰ってきた」
「それはよかったです。では寒太君の身体捜索は、今日もやるのですね?」
樒の方を振り向く。
まだ仏頂面をしているが……
「樒。どうする?」
「やるしかないでしょ。それに、あまり時間がないみたいだし……」
そう言って樒は寒太を指さす。
「寒太の悪霊化、かなり進行しているし、急がないと手遅れになるわよ」
「じゃあ、先にロックさんを呼び出してくれないか」
「いいわ」
樒は懐から、カウベルのような鈴を取り出した。
「ロックさんを呼び出したい時は、この鈴を鳴らせと渡されていたのよ」
「で、どのぐらい待つの?」
「早くても三十分ね。長いと数時間かかるわ」
「しかたないな」
僕はベッドの上に腰掛けた。
「死神さんがくるまで、ビデオでも見て待つか」
「いえ、もう来ています」
え?
その声は、僕の背後から聞こえた。




