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二人の桃太郎  作者: 森林
9/10

鬼の城

拙い文章ですがよろしくお願いします。

 門を開けた先に広がるのは人間が暮らしとなんら変わらなく見える城下町だった。

 違いといえば家屋が少し大きいこと。

 門から真っ直ぐに伸びる道は、ギラギラと趣味が悪そうな金の装飾が施された城に繋がっているようだった。

 

 今はすっかり夜だが、灰暗い雲に覆われ星は見えず、まん丸の大きな月は鮮血を彷彿させる美しく寒々しいような真紅に輝いていた。

 鬼ヶ島がどこにあるのかはわからないが日本では考えられないほど月は近くに感じられた。


 


 夜とはいえまだ寝静まるには早い時刻だが、町はあまりにぎわってはいないようだ。それでも大きな門が開けられたことは鬼たちにも一目瞭然で、徐々に町の中に慌ただしさが広がっていくのが桃太郎たちにも肌で伝わってきていた。


「それでは行ってきます。桃太郎。ご武運を」


「久しぶりに暴れるんだ、派手にいくぜー!」


「うん。なるべく早くケリをつけるからね。そっちも無茶しないようにね」


「はっ。てめぇはてめぇの心配だけしてりゃぁいいんだよ。無茶はするさ、無茶をしなきゃ道理は通せない。そうだろう?」


「……うん。そうだね……僕も無茶するよ」


「それでこそ男だぜ、桃太郎」


「まったく……男の人が考えていることは全く理解できませんわ」


「僕は何となく分かるのですが、推奨はできまでんね」


「これは若さじゃのう。そうじゃ、桃太郎。いざという時のためにこれを懐にでも忍ばせておきなさい」


「これは……?」


「ただの短刀じゃ。このくらいの大きさなら邪魔にもならんじゃろう」


「そうですね……ありがたく使わせてもらいます」


 戦い前の最後の会話。

 この会話を皮切りにイヌとサルは勢い良く町の中心に向かって走り出した。

 そしてそれを見送った桃太郎は人気のない道を選んで城に向かって行く。




「桃太郎はうまくやれますでしょうか?」


「うまくは無理だが最後にはやれると信じておるよ」


「……そうですわね……その通りですわ」


「喧嘩が始まるのぉ……頑張れよ、息子たち」


 お爺さんが呟いた言葉は、不意に吹いた突風にかき消された。




 燃えさかる炎の中で縦横無尽にかけ向ける影が二つ。イヌとサルだ。

 イヌとサルは見事に鬼の気を引くことに成功していた。

 

 鬼は弱いわけではないが、二、三体なら十分に対応できる程度だ。

 イヌとサルは鬼が多く集まってきたら戦う場所を変え、上手く立ち回っている。


「結構疲れるのな、コレ」


「ええ、殺さないようにするのは少々骨が折れますね」


「桃太郎には悪いが俺たちができるのはこれぐらいってことで」


「桃太郎が戻ってきたら、みんな仲良くできれば良いですね」


「俺はどうでもいいさ。早く終わらせてくれりゃぁ文句は言わねーよ」


 イヌとサルは鬼たちの攻撃を華麗に捌きながら呑気に会話している。


「サル、あなたは少しやり過ぎではありませんか? あなたの炎、火力が強過ぎますよ。もうあちこち火だらけではありませんか」


「……それはすまない。派手にやり過ぎた」


「見てくださいよ。もう城にまで燃え移ってません?」


「………………すまん桃太郎。お前ならできる」




「あちち……何だよもう」


 桃太郎は城の石垣を登っている最中だった。

 桃太郎が後ろを振り返るとすでに町は火の海となっていた。


「派手すぎませんかね、サルさんよ〜。なんかすごくいけないことしている気分になるんですが」


 それでもイヌとサルの誘導は上手くいっている。

 先程から城を出ていく鬼たちが何体もいたからだ。これで城も手薄になっていることだろう。これは長居はできないなと桃太郎は思い、登る脚を速める。


 石垣を登りきり、桃太郎は中に潜入することに成功する。

 あとは敵の親玉を探すのだが、まあ偉い人は上に居るだろうという安直な考えで上に上がっていく。そしてそれは間違ってなかった。




 城の最上階。

 最上階は静かで物が何一つなく、綺麗な彩色が施されたふすまが幾重にも連なっている。


『おかしい』と桃太郎は思った。


 ここは最上階だ。なのに大将を守る護衛が一人も付いていないのはおかしいのではないか。

 

「…………罠か……? いや、違う」


 襖の向こう、その一番奥からひしひしと伝わってくる妖気と重圧……これはーー


「ーー誘ってるよね」


 罠なんてもんじゃない。罠だと分かっていて、それに乗っかってきているのだ。この重圧には絶対的強者の余裕が感じられる。


「舐めやがってーーーーっ!」


 桃太郎は奥に向かって一目散に駆けていく。襖はいちいち開けず、バタバタとなぎ倒しながら。

 そして桃太郎は一番奥であろう、開けた場所にでた。


「……これは驚いたね〜」


 鬼のイメージとは違う、若い男の声。


 その男は紅い甲冑にみを包み、肘掛に肘を付き、片足を曲げて座っていた。しかしその瞳は視線を桃太郎から離さない。


 そして桃太郎も、その男から目が離せなくなっていた。


 予想外の出来事に桃太郎の頭の中はグルグルと回っていた。


「ぼ……僕…………?」


 合わせ鏡のように瓜二つの顔がそこにはあった。


「お前は、なんなんだ!」


「俺の名前は〈モモタロウ〉さ。いや〜俺も驚いた。こういうこともあるんだね〜」


 モモタロウは立ち上がり、壁に掛けてあった大斧を手に取る。


「こういう偶然もあるってこった。だがそれは関係ねえ。お前は訳があって俺の国を攻撃してきた。だったら俺はお前を殺すだけだ」


 そうーー


「その通りだね。ちょっとやり過ぎたとは思うけど仕方ないね。僕は仇を取りにきたんだ。君が何者で僕の仇とは直接関係ないかもしれない。でも君は鬼のかしらだから殺す」


 まだ桃太郎には動揺があったが、それが命取りになるのは相手の所作でわかった。


「わかりやすくていいね〜。とっととおっ始めようぜ。お互い早く済ませたいもんな」


 モモタロウは手に持った大斧をゆっくりと構える。

 それにつられて桃太郎も鞘から刀身を抜く。


「我が名は勇ましくも勇敢な鬼を統べるおさ、モモタロウ」


「我が名は勇ましくも優しいお婆さんに育てられた桃太郎だ」


「ふざけているのか」


「ふざけてない!」


 モモタロウは思わずフッとはにかむ。


 それが合図だった。


 ーーーーいざ尋常に


「「勝負っ!!」」


 燃えさかる島の中心。鬼の城の最上階で桃太郎の戦いが始まった。




 







 




お読み下さりありがとうございました。

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