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二人の桃太郎  作者: 森林
7/10

鬼ヶ島

拙い文章ですがよろしくお願いします。


 身体を削ぎ落とすような雨の上がった翌日。


 昨日の夜にお爺さんが発した『鬼の居場所を教えてやろう』という言葉に嘘はなく、お爺さん自らが鬼の住処へ案内してくれる運びになっていた。


 そして桃太郎たちは陽も昇っていない朝からお爺さんに連れられて、深い霧が立ち込める海岸まで来ていた。


「それにしてもひどい霧だわ。これじゃ煙幕って言った方が正解なんじゃないかしら」


 キジの言う通り、霧の濃度は果てなく濃く、五里霧中どころか一里霧中と言った感じだ。


「そのくせお互いの声は妙によく通りやがる。まったく気味が悪いぜ」


「お爺さん、ここはいつもこんなに霧が立ち込めているのですか?」


「ああ、そうじゃ。ここいら辺は年がら年中この深い霧に覆われておる。何かを隠すようにな」


「なにかを隠す……」


「つまり鬼の住処はこの霧の中にあるという事でしょうか?」


「惜しいが違うのぉ。鬼はこの霧の向こう側におる」


 そう言ってお爺さんが指差したのは海岸の向こう側……つまり海だった。


※ ※ ※

 

 桃太郎たちはお爺さんの小さな舟に乗り、波に揺られていた。

 幸いにも、昨日の雨の影響もほとんど無く、揺り籠程度の揺れしかなかった。


「お爺さん。この霧の中で鬼の住処の方角がわかるんですか?」


 お爺さんは霧で視界の悪い中、しかも周りは何もない海の上で迷いなく舟を進めて行く。


「何回も見に来ているからのぉ。身体が道を覚えておる」


 お爺さんはあっけからんと話すが、お爺さんは何のために何度も偵察しに来ているのか桃太郎たちはそれが気になった。


「もうそろそろ見えてくるはずじゃ。だから桃太郎君、最後にもう一度聞こう。鬼退治と言えば聞こえは良いかも知れない。でも何事にも建前や名目が必要になる。お前さんも知っている通り鬼は最近は何処の誰にも迷惑をかけてはおらんのじゃ。だからお前さんの道は決して道徳に沿ったものではないのかも知れんぞ。それでも行くと言うのかのぉ?」


「……はい。とりあえずは考えないことに決めたんです」


「……考えない……?」


「はい。僕は考えるのは苦手なんです。だから実際に行って、見て、感じる。そうしようかな……と思いまして」


「その先には君の思っている以上の苦難が待ち受けているかも知れんぞ。それでも……」


「それでもいいです。僕の心にある復讐心は言葉だけではどうにも歯止めが効かないみたいなので」


 桃太郎は復讐心という偽善にもならない動機で鬼退治をするという。その他に桃太郎は心のどこかで救われたいと思っているのだ。

 自分の鬼退治の動機は人に道に反している。ただ鬼ではありたくない。

 桃太郎は実際に鬼と対峙することで、鬼は自分よりもわがままで横暴、そして欲望のままに醜く生きていることを確かめたいのだ。

 優越感。桃太郎はその感情に見て見ぬ振りをしている。


「お前さんは苦労するのぉ」


 お爺さんは桃太郎の全てを理解し、言葉を投げかける。


「お前さんの気持ちは分かった。あとワシは聞きたいことがある。お前さんがた三匹はなぜ桃太郎君に付き従う?」


「ただの老婆心ですわ、お爺様」


「こいつはまだまだ子供だからな、危なっかしいところもあるし可愛いところもある。そして俺たちは見届けなきゃなんねぇ」


「桃太郎がこれから何を見て、何を感じ、何を行うのかをーーです」


 三匹は桃太郎が赤子の頃からお婆さんと一緒に面倒を見ているのだ。桃太郎も三匹のことは家族だと思っており、三匹もまた桃太郎の家族という矜持きょうじがあった。


 三匹ははもちろん桃太郎の全てを理解し、その間違いも理解している。理解しているが故に言葉じゃ伝わらないことも分かっている。


 三匹の成すことは一つ。お婆さんの代わりに桃太郎を見届け、本当に桃太郎が道を踏み外しそうになったのならそれを止めることだ。


「よかろう、ならば行くがよい。行ってその身で確かめてくるのじゃ」


 いつの間にか霧は晴れていた。

 しかし見上げる空に青はなく、赤黒い雷雲に覆われていた。


「ここは……」


 桃太郎と三匹は初めて見る光景に、いや立ち込める禍々しい妖気に驚愕の色を隠せない。


「ここは鬼の国」


 お爺さんだけは物怖じせず、威風堂々と構える。

 そして自分の目の前の方向へ、真っ直ぐに指先を伸ばす。

 指差した方向には、攻撃的に隆起した岩肌で覆われた異様な光景をした島があった。

 その島には木の一本どころか草花や苔のひとつも見受けられない。




「そしてあれが人の世に地獄を具現する魑魅魍魎の王たる鬼が棲まう総本山ーーーー鬼ヶ島じゃ」



お読み下さりありがとうございます。

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